まずは問答無用。
少し前のこのツイートを見てもらいましょうか。
おはよう隕石➴
未明の火球発光と160秒後の爆発音が録画されていました#ドラレコ #火球 #爆発音 pic.twitter.com/DGOwdAzIEB— ゑ (@weighttk) July 1, 2020
とういうことで今回の話題は「天狗」。
2020年7月2日、午前2時半ごろ東京上空で大きな爆発音がして、光の玉が移動する現象が起きてすぐに話題となった。
SNSには「爆発音がして家が少し揺れた」、「雷が落ちたような爆発音がした」といった投稿があったし、この音で飛び起きたという人もいた。
すさまじい轟音が夜空に響いたのだろう。
下のNHKニュースをはじめ、日本の各メディアがこれを取り上げたのは必然。
夜空に火球? 爆発音も? 未明の関東 投稿相次ぐ
ここには「?」とあるけど、この音と光の正体は火球とみて間違いない。
上のNHKニュースで、天文を専門とする学芸員の藤井大地氏さんがこう解説している。
瞬間的に満月よりも明るく輝いていて、小惑星などのかけらなどが大気圏に突入して燃え尽きる際に特に強く光る火球と呼ばれる現象だ。音は衝撃波によるものと考えられるが、実際に音が観測されるのはかなり珍しい。
この火球の破片とみられる隕石が千葉県習志野市の民家で見つかって、「習志野隕石」として国際隕石学会に登録申請されることになったという。
で、これにネットの声は?
・地質ではチバニアン、隕石では「習志野隕石」、千葉県、活躍してますね。
・メルカリでいくらになるかな
・歴史上、隕石に当たって死んだ人はまだいないらしい
・こんな大きさであの爆発音と振動を起こしたとか信じられないわ
・佐倉市民のワイ、ハゲしく落胆。
火球は前代未聞というほどレアな現象ではなくて、東京では2年前にも目撃されている。
さて「天狗」の話はここからだ。
というか、すでに始まっているのだけど。
天狗というのは言うまでもなく、赤い顔をして長い鼻を持つこんな伝説上の生き物のこと。
でもそれは日本の話で、本家・中国の天狗はまったく違う。
中国語で「狗」は犬のことだから、天狗は「天(空)の犬」という意味になる。
それで日本の天狗を見た知人の中国人が、「なんであれが天狗なんですか?ぜんぜん犬に見えないです」と首をひねっていた。
もともと天狗というのは、古代の中国人が空を移動する流星(または隕石)を見て、その光が描く線を流星の尾と考えて「天の狗(いぬ)」と表現したことにはじまる。
そしてはるか昔の中国人は、さいきん東京で起きた火球という天体現象を「天狗」と呼んだ。
大気圏を突入し、地表近くまで落下した火球(-3〜-4等級以上の非常に明るい流星)はしばしば空中で爆発し、大音響を発する。この天体現象を咆哮を上げて天を駆け降りる犬の姿に見立てている。
7月2日に東京の人たちが聞いた轟音を、古代中国人は天狗の叫び声と考えた。
中国の古典「山海経」に出てくる天狗
これなら文字通り「空の狗」に見える。
日本で「天狗」という言葉が初めて登場するのは、7世紀につくられた日本書紀の中。
奈良の都の上空をすさまじい音を立てて移動する流星(火球)を見て、唐で学んだ仏教僧・旻(みん)が「これは天狗である。天狗の吠える声が雷に似ているだけだ」と言ったという。
舒明天皇9年(637年)に流星が現れた時には天狗の吠え声と主張し、舒明天皇11年(639年)に彗星が現れた時には飢饉を予告するなど、祥瑞思想に詳しかった。
もとは流星のことだった「天狗」が、いまの日本のような妖怪の名前になったのは中世になってからという。
中国から伝わった天狗が「山には神がいる」という日本人の山神信仰と習合し、さらに中世から盛んになった修験道などの影響から、鼻が高くて鳥のようなくちばしと翼をもつ山伏の姿をした天狗のイメージが出来上がった。
日本の天狗は長い歴史の中で、中国の天狗とはまったく違うものに発展したから、現代の中国人が見ると「なんで?」と首をひねることになる。
おまけ
8月21日にも関東で火球が観測された。
時事通信の記事(2020/8/22)
関東上空で「火球」観測 房総半島に隕石落下か
あんまり珍しいことじゃないみたいだ。
> 中国語で「狗」は犬のことだから
これ、どうなんですかね? 犬は犬でも、イメージ的には「山犬(オオカミ、あるいは野犬、時にはキツネ)」のことを言っているのでは? 中国ではだいたい悪い意味で使われる言葉ですね。「羊頭狗肉」「狡兎死して走狗烹らる」とか。
ヨーロッパ・キリスト教国でも山犬(オオカミ)は総じて常に蔑まされる悪役であり、赤ずきんちゃんの物語でも、最後はあっけなく退治されて腹を裂かれてしまいます。また、英語の悪口の代表格である「Son of a bitch!」も、「メス山犬の息子め!」という意味ですよね。確か、旧約聖書にある「山犬の子供(=オーメン・ダミアン)」という記述が元だったような。
でも日本だけは、例外的に、オオカミは「大神」から? という語源が指摘されるくらい、山の民に畏怖と敬意をもってみなされていると思います。その延長上に「もののけ姫」の設定もある。
「犬」って書くと、どうも可愛いあるいは忠実な「飼い犬」のイメージが強すぎて、ピンとこないです。
中国語のことについては中国人に聞いてみるのがいいでしょう。