【イギリスの置き土産】インドの警察官が高圧的で暴力的な理由

 

新型コロナの感染が拡大すると、日本では自分勝手な正義感に感染した迷惑な人間が登場した。

飲食店のシャッターに「早く店を閉めろ」とビラを貼って回る自粛警察が全国各地に現れ、この現象は外国人には珍しかったらしく、いろんな海外メディアが「日本の同調圧力がわかる事例」として記事にして伝えた。

新型コロナの感染は世界規模で進んでいるから、それへの対応でその国の「らしさ」も見えてくる。
インドでは、自粛要請を無視する人やマスク未着用の人に対する警察官の取り締まりがあまりに乱暴だったため、複数の海外メディアがニュースで取り上げた。

例えばこれはフランスAFPの記事。(2020年4月3日)

他の複数の州でも、警察官がドライバーを道路脇で殴打する様子や、閉鎖に違反した人々にスクワットや馬跳びの罰を与えている様子が捉えられた。

善玉と悪玉、全土封鎖下で違反者取り締まるインドの警察官

 

具体的には、こんなふうに警官が固い木の棒で市民をひっぱくことを指す。

 

この動画に付いたコメントを見ると、「これはやり過ぎだ!」「人権侵害」といった批判が殺到するかと思ったら意外と需要がある。

We need these police on the beaches in Florida for all the college kids on Spring break.
(大学生の集まるフロリダのビーチにこんな警察官が必要だな)

We need this cops in the Philippines
(フィリピンにもこんな警察官がほしい)

この程度のことで市民を棒で引っぱたくというのは日本ではあり得ないけど、アメリカ人やフィリピン人から見てもこれは異常らしい。
ここまで高圧的で暴力的な警察官は世界でも少ないはずだ。

 

 

作家の三島由紀夫は「呼ばれた人しかインドに行けない」と言ったというから、これまで7回ほど訪印したボクはかなりインドからお呼びがかかったと思う。

これまでのインド経験から言わせてもらうと、他の国と比べてインドの警察官は市民に対して鬼のように厳しい。
インドを旅行中、上の動画のように警官が市民を棒でぶったたく場面に何度か遭遇した。

首都デリーをインド人のガイドと歩いていたら、とつぜん「バシッ」という音が聞こえてきて、思わずその方向を見たら、お腹の出た警官が自転車に荷物を載せて移動していた人を棒でぶったたいている。
裸足で半裸、骨が浮き出るほどやせたその男は何も抵抗しない。
男の背中を2、3回たたいた警官は、荷物(売り物?)の木製の箱までたたいて壊してしまう。

ぼう然とその様子を見ていたボクに、インド人ガイドが「よくあることです。警察官の機嫌が悪かったのか、あの男が警察官にぶつかったかもしれません」と言う。

インドの警察官が横暴で暴力的という話は日本人旅行者から聞いて知っていたけど、それを間近で見るとかなり衝撃的。
ある日本人旅行者はその理由をカースト制度に求めて、「警察官は王族や戦士などのクシャトリヤ・カーストの人が多いから、下のカーストには容赦ないんです」と話していた。

でもこのときいたインド人はこの説を否定し、「イギリスの植民地支配のせいですよ」と言う。

 

イギリス領インド帝国
イギリスは現在のインドに加えてパキスタン、バングラデシュ、ミャンマーをふくめた広大な領土を植民地にした。

 

インド警察はイギリスによって1861年の警察法によって組織された。

なぜこのタイミングかというと、1857年にインド大反乱(第一次インド独立戦争)が起きてイギリス側が大ダメージを受けたから。

ムガル皇帝バハードゥル・シャー2世を反乱軍の最高指導者とし、皇帝復権を宣言して対イギリス戦争開始を表明した。(中略)この反乱を機に、旧王侯、旧地主、農民、都市住民ら反英勢力が、宗教・階級の枠を越えて一斉に蜂起した。

インド大反乱

 

こんな悪夢が二度と起こらないよう、イギリスは帝国にいる3億以上のインド人をしっかり支配するために警察を創設した。
軍隊の役割もあたえられたインド帝国警察は、イギリスの植民地支配を維持するための手足となり、国民の動きを監視して武力を用いた制圧も日常的に行っていた。

 

丸腰のインド人が警官隊に棒で殴られている。
この様子はさっきの動画とそっくり。

画像は「NHK 映像の世紀」のキャプチャー

 

でも同時に軍隊や警察のなかで、それまでヨーロッパ人だけのものだった高位の官職にインド人が任命されるようになった。
これをインド化という。

どこの国でも統治には飴と鞭が必要で、警察の創設がムチとしたらインド化はまさにアメ。

1948年にインドがイギリスから独立すると、インド帝国の警察はそのままインド警察に置き換えられた。

In 1948, a year after India’s independence from Britain, the Imperial Police Service was replaced by the Indian Police Service, which had been constituted as part of the All-India Services by the Constitution.

Indian Imperial Police

 

インド帝国警察の暴力的で高圧的な態度も、そのままインド警察に引き継がれて現在にいたるとみてよさそう。
こういう歴史背景を考えると、インド人ガイドの説明はきっと正しい。
イギリス植民地時代に、警察官が治安維持として行っていた抑圧的なやり方や考え方がいまでも影響をあたえている。
木の棒で国民をぶったたく姿は100年ほど前のイギリス人と同じ。

 

そのせいか、知人のインド人が日本の交番のサインを見て感動した。

 

 

SNSにこの写真と一緒に、「I’d vote it. the best Police station signage in the world」(警察署のサインとしてはこれが世界最高)と書き込む。
インド警察の実態を知ると、彼がこのサインに心が震えた理由が見えてくる。

 

でもこんなふうに、親しみやすく国民に新型コロナについて伝えるインドの警察官もいる。

「ハーヒフーヘ、ホー」

 

 

こちらの記事もどうですか?

日本の夏の”異常な”暑さに、外国人観光客の反応は?アジア人編

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

インド 目次 ①

インド 目次 ②

インド 目次 ③

 

2 件のコメント

  • >ある日本人旅行者はその理由をカースト制度に求めて、「警察官は王族や戦士などのクシャトリヤ・カーストの人が多いから、下のカーストには容赦ないんです」と話していた。
    >でもこのときいたインド人はこの説を否定し、「イギリスの植民地支配のせいですよ」と言う。

    インドのことであるから、日本人旅行者が言うことよりもインド人が言うことの方が正しい、とは限りませんね。
    私は、その日本人旅行者の言うことも、どちらも正しいと思いますよ。
    インド人(特に上級カーストで高学歴・高職位のインド人)であれば、自国のカースト制度の影響は、外国人に対してなるべく認めたくはないだろうし。そもそも、植民地支配の影響が残っている「だけ」が理由だとしたら、ずいぶんと時間が経っているように思いますが・・・。
    ま、「そういう考え方もできますね」というところかな。

  • 要は客観的な根拠があるかどうかです。
    「イギリス植民地支配のせい」ということについては以下のソースがありました。

    「現代インドにおける暴動予防の政策研究」
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajiakeizai/60/2/60_73/_pdf/-char/ja

    神戸大学の「現代インドのコミュニティ・ポリシング活動における暴動予防に関する研究」
    http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/thesis2/d1/D1006553.pdf#search='1861%E5%B9%B4+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89+%E8%AD%A6%E5%AF%9F

    カースト説についてはハッキリした根拠が見つからなかったので、否定も肯定もできませんでした。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。