はじめの一言
「日本人は私がこれまで会った中で、もっとも好感のもてる国民で、日本は貧しさや物乞いのまったくない唯一の国です(オリファント 幕末)」
前回話題となった「インドの季節」で、思い出したことがある。
インド旅で出会った日本人旅行者がこんなことを言っていた。
「日本には四季があるけど、インドの季節は三つしかない。『hot(暑い)』『hotter(もっと暑い)』『hottest(最高に暑い)』の三つだけ」
これをシク教徒のインド人に話すと、「それは知らなかったよ」と笑い出す。
インドでそう言われているのかと思ったけど、日本人が勝手につくった話らしい。
でも、これはあながち間違っていない。
インドは広いから場所によって気温はちがうけど、彼がいたところでは、短い冬と長い夏しかないという。
「だいたい一年中暑い。短い冬が過ぎたら、気温がグングン上がるんだ。5月か6月が1年で最も暑い時期になる。首都デリーのあたりでは、40度を超えることがある」
日本と違って、インドでは5月ごろで一番暑くなる。
このときがhottestだ。
「暑くて死にそう」というのは言葉じゃなくて、インドでは実際、暑さによってたくさんの人が命をうばわれている。
2015年の酷暑では、2200人以上が亡くなった。
Hazard labの記事(2015年06月02日)から。
インドでは先月21日以降、北部の首都ニューデリーや中部のテランガーナ州ハイデラバードなどで最高気温が42℃~45℃に達し、この熱波の影響で中部を中心に2200人以上が死亡したとインド災害管理局が伝えた。
5月6月のインドは、暑いのではなくて熱い。
ボクはこの時期にインドに行ったことはないけど、この暑さを経験した猛者(旅行者)には何人も会ったことはある。
インドの安宿では、基本的に冷房がない。
代わりに、部屋全体に風を送る大きなファンが天井にある。
言ってみたら、巨大な扇風機。
でもこのファンが、この時期になると「巨大なドライヤー」になってしまう。
風が当たると熱くて苦しくなるらしい。
「だから夜も寝られないんです。部屋はサウナ状態ですから、屋上で寝ることもありましたね」
と、日本人旅行者が遠い目をしてあの日をふり返る。
彼は「貧乏旅行でもこの暑さは無理!」と泣く泣く高いお金を出して、冷房付きの部屋に変えた。
そしたら、その日の夜は停電で、冷房が使えなかったらしい。
暑さに怒りが加わって、ますます寝られなくなったという。
また、これは別の旅行者から聞いた話。
昼間は暑さで出かける気になれないから、彼は部屋のベッドで寝ていた。
目が覚めて「外に出ようか」と、台の上に置いてあったメガネをかけようとする。
でも、フレームを持った瞬間、「熱っ!」とメガネを放り投げてしまった。
陽がさすところにメガネを置いてしまったらしい。
インドの直射日光をため込んだメガネフレームは、もはや危険物。
インドの暑さで、今まで聞いた話でボクが1番驚いたのが「インドでは5月6月になると、あまりの暑さに蚊も飛ばなくなる」というもの。
「本当だよ。夏になると蚊は姿を消すんだよ。で、また暑さが下がるころに復活する。だから、インドで蚊は『冬の虫』と思われている。これはインド人も言っていた」
インドで蚊は冬の虫!
日本とはパラレルワールドだ。
この話は別の人からも聞いた。
「インドの暑さは異常。夏になると蚊が死ぬんだよ」
やっぱり世界は広かった。
この話を知り合いのインド人に聞いてみた。
「インドでは『蚊は冬の虫」というイメージがあるって聞いたけど、これは本当?」
「冬の虫?そんなことは聞いたことがないな」
とインド人シク教徒の彼は言う。
なんだ。あれは、バックパッカーの都市伝説だったのか?
「でも、あまりの暑さで、蚊が飛ばなくなるのは本当だ。だから、インドの夏は蚊がいなくなる。冬が来たらまた蚊が飛び始めるんじゃくて、10月ごろにモンスーンが来てから、また蚊が飛ぶようになるんだよ」
ということは、夏になると蚊がいなくなることは間違いなさそう。
やっぱり、日本とはパラレルワールドだ。
彼は続けて言う。
「5月のインドは大変だよ。50度近くまで気温が上がることもある。そうなると、金属製のドアノブに触れなくなるんだ」
どうやら、鍋つかみのような「ノブつかみ」が必要らしい。
「バイクに乗る時が大変なんだ。炎天下に置いてあるバイクのシートが、どれだけ熱くなるか分かるか?」
お尻が溶けそうですね。
*「あまりに暑いと蚊が飛ばなくなる」という説については、アース製薬が「蚊は気温25~30度のときが一番活発。30度を超えると動きがにぶくなる」と回答している。
くわしいことは「ねとらぼ」の記事(2018年07月18日)で。
「蚊は気温35度以上だと活動しない」とTwitterで話題に アース製薬に本当か聞いてみた
でも、インドで溶けるのはお尻じゃなかった。
「5月6月には、暑すぎて道路が溶けるんだよ」
え?
道路が溶ける?
インドの暑さ伝説はいろいろ聞いたけど、「道路が溶ける」というのは初耳。
でも、それは具体的にどんな状態だ?
ダリの絵で、時計が溶けているのは見たことがある。
でも現実世界で、道路が溶け出す事態が想像できない。
この話をしていたとき、ボクたちは日本の高速道路を走っていた。
「こういう道路がインドでは溶けるってこと?」
もう一度聞き返すと、彼ははっきりと「melt(溶ける)」と言う。
後ろの座席にいたインド人も話に加わる。
「本当だ。暑くなると、インドのハイウェイは溶けるんだ」
いや、だからその状態が分からないのだが?
彼らの話の話では、インドの道路で使われているタールが「hottest」のシーズンになると溶けてしまうという。
インドで使われているタールはもともと劣悪なもので、暑さに耐えられない。
インドの酷暑で、タールが溶けて道路が軟らかくなるらしい。
インドで車を運転していると、道が軟らかくなっている部分が分かるという。
すると「あ、ここは溶けてるな」と思って、スピードを落として安全に走行する。
「そういう道路でスピードを出すと、とても危ないんだよ」
それは言われなくても分かる。
ネットで検索すると、その画像が出てくる。
高速道路ではなくて、デリー市内のアスファルトの道も溶けている。
やっぱりインドの夏はすごかった。
ちなみに韓国では暑さでアスファルトがふくらみ、道路に亀裂が入って割れてしまった。
朝鮮日報の記事(2018/07/22)から。
全羅南道庁と李舜臣大橋の維持管理事務所によると、21日午後2時10分ごろ、麗水から1キロ地点の光陽方面の車線で道路の一部が割れて盛り上がった
猛暑で李舜臣大橋の路面に亀裂、一時通行規制 /麗水
車が常に一定の速度で走るためには、まずは質の高い道路が必要になる。
道路の状態が気温に左右されないもの。
夏になると溶け出す道路なんて論外。
その論外な道を知っているインド人からすると、日本の道路は「perfect(完全)!」になる。
時速100キロで走っても、車内でほとんど揺れを感じない。
日本の高速道路はカーブが少ないし、トンネルの中も明るい。
彼らはそんな「日本の普通」に感動していた。
言われみれば、たしかにそうだ。
セントレア空港までバスで走っていて、コーラのペットボトルをトレイに置いても倒れることがない。
こんな道路を造ることができる国は、世界でどれだけあるのだろう?
コーラのペットボトルを手でしっかり持っていても、あまりの揺れで、中身がこぼれそうな国はある。
カンボジアとかインドとか。
でも、飲み物がこぼれるくらいならまだいい。
ラオスでトラックの荷台に乗せられたときは、道に空いた穴で大きくバウンドするたびに、体が車外に放り出されそうになった。
あれは命にかかわる。
ということで、友人のインド人から見ると、日本の高速道路は間違いなく「奇跡」だ。
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