韓国人から見た日本社会との違い。「上級国民・下級国民」の差

 

日本で3年間ほど英語を教えていて、いまは韓国のソウルに住んでいるアメリカ人の知人がいる。
このまえ彼女とスカイプで話をしたとき、日韓での生活の違いについてきくと、韓国ではデリバリーが発達しているからすごく便利だと言う。

宅配屋さんが街のそこら中にあって、競争が激しいから安い料金でいろんなモノを持ってきてくれる。
ちなみに彼女がその日の夕食で食べたトンカツもデリバリー。

ただ日本と違ってもしアパートに客がいなかったら、配達人は荷物を部屋の前に「おきっぱ」にするらしい。
「日本ほどの気配りやサービス精神をここで望んではいけない」というのがそのアメリカ人の意見。

そんな話を思い出したのは、韓国在住のジャーナリスト・黒田勝弘氏が産経新聞のコラム「ソウルからヨボセヨ」に書いたこんな文章を見たから。(2021.2.6)

高級マンションでは食べ物の出前持ちが貨物専用エレベーターに追いやられ「オレたちは貨物かね!」と“人権侵害”に集団抗議している。

韓国人は配達民族

 

「わが国は何でも配達(ペダル)してくれるからペダル民族なんだ」と韓国人が言うほど、あちらではデリバリー文化が発達しているらしい。
韓民族の古い呼び方に「倍達(ペダル)」というのがあるから、これはそれにひっかけた表現だ。

それはいいんだが、生活を便利にしてくれる配達民族へ向けられるのが「軽視」や「蔑視」じゃたまらない。
高級マンションで配送人は住民用ではなくて、貨物専用エレベーターに乗るよう指示されるから、そんな態度が差別的だとして国家人権委員会に提訴したという。
でもこれはほんの一例。
配送人が屈辱を感じるような態度をとる韓国の金持ちはきっと多い。

 

どんな職業も平等で社会的な「階級」は法律上はないものの、英語にブルーカラーとホワイトカラー、日本語で下級国民・上級国民ということばがあるように、実際のところどの国の社会にも「格差」は存在する。
それはほとんどの場合、肉体労働者と頭脳労働者のあいだでうまれるものだ。
日本で生活している韓国人にきくと、韓国社会の「格差」や「身分制度」は日本よりもはるかに深刻で、昔からこれがよく問題になっているという。

本人の努力で地位や金が手に入ればいいけど、韓国社会はそういう仕組みになってはなく、生まれた家しだいでその後の人生がきまってしまう。
かなり極端に聞こえるが、5年前に韓国の20代30代で「スプーン階級論」という言葉が流行しているという話を韓国人から聞いた。

これは韓国紙・中央日報のコラム(2016.01.13)

今こそ彼らは遅ればせながらも現実を正しく見つめ始め、その原因が「金の箸とスプーン」「土の箸とスプーン」に代弁される不公正かつ不公平な構造にあるということを悟り始めた

「ヘル朝鮮」を「ヘブン大韓民国」に

*格差や競争などで、地獄のように生き苦しい韓国社会を若者が「ヘル朝鮮」と表現した。

 

上流階級に生まれてくることを欧米ではよく、「born with a silver spoon in one’s mouth」(銀のスプーンを口にくわえて生まれる)と表現する。
このことばを拡大させた「スプーン階級論」がこのころ流行って、韓国社会の不公正かつ不公平な構造を象徴することばとして若い人たちがよく使っていた。

これは親の金や職業によって、子どものスプーン(階層)がきまってしまうという論理。
財閥など最も恵まれた家の子どもは金のスプーンで、以下、銀のスプーン、銅のスプーンときて、「最下層」の泥のスプーンがある。

金のスプーンの家に生まれたら自動的に地位・名誉・金をゲットできて、泥のスプーンと呼ばれる貧しい階層に生まれると、努力はもはや無意味。
本人ががんばっても上に行くことはできない。
そういうのは韓国だけではなくて、日本の社会にもあるとこちらが言っても、「いえいえ、絶対に韓国のほうがひどいです。日本は社会的にも、人びとの意識でも比較的に平等ですよ」とその韓国人はゆずらない。

 

強力なコネのある家も金のスプーンで、政権の有力者がまさにこれに該当する。
チョ・グク元法務部長官の娘がニセの経歴証明書(ソウル中央地裁が偽造・虚偽と判断)で大学に合格し、さらに医師のインターンにも合格したことがわかって、全国紙・朝鮮日報が社説でこう批判している。(2021/02/05)

大学と医学専門大学院の入学自体が間違っているのに、なぜ医師のインターンになれるというのか。(中略)チョ・ミン氏は政権の力が及び得る病院だけを選んで受験した。

チョ・グクの娘がついに韓電傘下病院インターン合格、本当にこれでいいのか

 

これは5日後の朝鮮日報の報道(2021/02/10)

【独自】チョ・グクの娘チョ・ミン、偽造表彰状で「人格評価1位」になり奨学金も 

大統領の息子が書類にわずか4行書いただけで、「コロナ被害緊急芸術支援」の最高限度額の支援対象者に選ばれていたことが発覚し、批判を招いた。
朝鮮日報(2021/02/10)

野党は「大統領の息子による『親のおかげで国のカネ』としか考えられない」と批判している。

【独自】文大統領の息子ジュンヨン氏、わずか4行の記入でコロナ支援金1400万ウォン受け取っていた

 

国民のほとんどを占める『銅のスプーン』や『泥のスプーン』から見たら、「本当にこれでいいのか!」と納得できないことが韓国ではよく起こる。
だから不正のバレた特権階級は徹底的に叩かれる。

 

こんな「スプーン階級論」は日本人の感覚だと、かなり断定的で大げさなに聞こえると思う。
でも韓国の若い人たちにきいてほしい。きっと、「まさにそれですよ!」とこの理論に同意する。
日本ではイケメン芸能人でも頭にねじり鉢巻きをするけど、それについて「肉体労働者みたいじゃないですか。韓国人なら人前ではやりませんね」と言う韓国人女性もいた。

 

もちろん肉体労働者への「軽視」や「蔑視」は日本社会にもある。
日本の工場で働いていたフィリピン人が英会話の講師になったら、まわりの見方が一変したという聞いて「さもありなん」と思った。
でもフィリピン社会で上級国民はブルーワーカーに対して、もっともっと冷たく厳しい視線を送るから、それに比べたら日本はマシだとか。
日本では、配送人は荷物用エレベーターに乗るよう指示する高級マンションなんて聞いたことないし、「差別的だ!」と配送人が国家人権委員会に提訴する気配もない。
日本の社会にも「上級・下級国民」の格差はあるけど、韓国の「スプーン階級論」に比べたらぬるい。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。