軍事クーデターの副作用。ミャンマー人と日本人の「亀裂」

 

東南アジアの仏教国・ミャンマーに住む人たちは基本おだやかで心が広い。

これまでに現地へ何度か行った経験とミャンマー人との付き合いから言わせてもらうと、仏教思想の影響が強くてミャンマー人は怒りを示すことが少なく、欧米人のように自分の権利を強く主張することもない。

そんな国で軍によるクーデターが発生。
民主化運動のシンボルで実質的な国のトップだったアウンサンスーチー氏らが軍に捕まって、いまは自宅軟禁の状態を強いられている。

それをニュースで知って、知人のミャンマー人に「そちらの様子はどうですか?早く平和になることを祈っています」とメールを送ったのが始まりだった。
すぐに、「ミャンマーに配慮してもらってありがとうございます」というお礼メールがきた。だけならよかった。
そのあとデモの画像や動画なんかをバンバン送ってくるから、こちらはいまやや困り中。

ミャンマー国軍に抗議の意思を示すために、市場のおばちゃんが金属製の食器をたたく動画はまだいい。
しかし、抗議デモに参加し、負傷して頭から血を流す人の映像を見せて「ここではいま、こんなヒドイことが起きています!シェアしてください」とリクエストするのは、正直言ってやめてほしい。
*このデモ参加者は亡くなっているかもしれない。

日本は日本で解決しないといけない問題が山盛りだから、「市民は国軍に絶対に負けません!」という思いにはちょっとついていけず、こちらとしては距離を置きたくなる。

日本にいるミャンマー人が最近、こんな内容のメッセージを発信していた。

「最近ミャンマーで起きたことは多くの日本の方がご存知だと思います。わたしたちミャンマー人のほとんどは、以前の軍事政権に戻すことは許せません。きょねんの選挙で不正が行われたとは考えていません。今回のクーデターは軍の利益のためこのような非実現的なことが起きたのです。正義を勝ち取るため、日本もミャンマーを助けてください。」

そして近く東京で行う予定の抗議デモに、ぜひ日本人も参加してほしいと訴える。

これに対するある日本人のメッセージが印象的だ。
クーデターを許せない気持ちはわかるし抗議デモをするのも理解できるけど、「警察に道路使用の許可を取っていますか?」というツッコミを入れた。もし取っていなければ不法行為だから、どんな動機でもそれは許されないことだと。

この日本人はミャンマーが好きで親緬的(緬甸=ミャンマー)だと思うけど、明確な一線を引いているようだ。
以前、「オイオイ」というような映像を送られたのかもしれない。

 

アウンサンスーチー氏と、『ビルマ解放の父』として尊敬されている父親のアウンサン将軍

 

知人の在日ミャンマー人のSNSでも、「きょう東京で行われた抗議デモに参加しました!みなさん、声をあげてください!」という投稿を何度も見た。
「いいね」を押してもよかったのだが、それをすると、またいろんな画像や動画が送られてくる予感がしたから今回はスルー。

ミャンマーでは軍による支配がずっとつづいていて、その間、言論の自由は制限され国民は政治に参加することができなかった。
軍政を批判すれば政治犯として捕まり、拷問が行われていたという。
こうした国民への人権侵害を理由に欧米を中心に国際社会が経済制裁をしていて、ミャンマーは長く世界最貧国にあった。が軍の関係者の住む世界はまったく別。
彼らは特権的立場にいて、国の富を独占していた。

そんな軍政の時代が終わったのは2011年のことだから、まだ10年もたっていない。
それで、あんなひどい時代は二度とごめんだという思いから、在日ミャンマー人が立ち上がるのはわかる。

2月1日には東京の国連大学前に1000人、3日には外務省前に3000人の在日ミャンマー人が集まって、日本政府にこんな「お願い」をした。

 

 

でも、日本人からはこんな冷めた意見が目立ったという。

「ミャンマーの争いを日本に持ち込まないでほしい」

「外国人が日本国内でデモをやるのはおかしい」

くわしいことは文春オンラインの記事(2021/02/05)で。

在日ミャンマー人デモに日本人から賛否……「ミャンマーの争いを日本に持ち込むな」という意見に彼らの思いは届くか

それにいまは時期が悪い。
コロナの感染拡大が止まらなくて緊急事態宣言がでている東京で、この「密」は日本人の受けが悪すぎる。

「迷惑をかけたら大変申し訳ございません」と日本人に配慮する投稿もチラホラあるものの、「海外にいる私たちも現地のミャンマー国民たちも軍事政権に色々な方法で戦っています」という気持ちのほうがやっぱり強そうだ。

軍事クーデターによって、ミャンマー人と日本人の”亀裂”が発生するという別の問題をうまないといいのだが。

 

おまけ

ミャンマーの市場の様子

 

 

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2 件のコメント

  • うーん、ブログ主さんの言いたいことも分るのですが。
    国際コミュニケーションの場において名前(たとえ仮名であっても)を出して何かを発言した以上、既にあなたは「アジア唯一の近代化・民主化を果たした経済大国先進国である日本国の国民の一人」とみなされているということです。特に、東南アジアの人々が「発言する日本人」を見る場合には、そのような目で見られるのです。そのような目に耐えることもあなたの義務となったのですよ。

    見るに耐えないほど残酷な被写体の写真であろうと、デモへの参加をしつこく呼び掛けるメッセージであろうと、味方になってほしい世界中の人々からその手の情報が大量に届くことは、避けられないでしょうね。
    反応したくなければそのまま放置すればいいことです。紙の広告や写真と違って嵩張るものでもないですし。
    不要な情報は「ごみ箱」へ転送するだけでしょう?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。