差別ではなく区別!アメリカの人種差別を「合法」にした判決

 

コロナウイルスは怖いけど、そのワクチンを接種するのも恐ろしい。
そんな人のために、ワクチンを接種したら1000円の商品券をあげるねー、という自治体が出てきたことを前回の記事で書いた。
これはとても日本人らしい発想で、下はとてもアメリカらしい現象だ。

日本経済新聞の記事(2021年2月1日)

米、コロナワクチン接種の進捗で人種差 白人に偏る傾向

ワクチン接種が進むにつれて、人種によって接種率に違いのあることが明らかになってきた。
市長が「深刻な差が見られている」と言うニューヨーク市でその割合は、白人が48%、アジア系が15%、ヒスパニック系が15%、黒人は11%だった。
市の人口構成と比べても、黒人やヒスパニック系住民の接種は少ない。
アメリカの他の地域でもNYとも同じように、接種しているのは白人に偏る傾向がみられるという。

コロナの犠牲者でも人種によって差がある。

コロナの死者数では他の人種と比べ黒人が多く、人種差が問題視されてきた。ワクチンでも人種の偏りをなくすことが今後の普及の課題となりそうだ。

 

この原因には、

・特に有色人種の間で、ワクチンに対する不信やためらいがみられる
・医療システムに対する不信感
・接種を予約するためのインターネット環境の不備、情報不足

などが指摘されている。
白人の多い地区ではワクチン接種がむずかしいから、ヒスパニック系の多い地域に「遠方から多数の白人が押し寄せる事態」が起こっていると記事にある。
こんな国は世界でもアメリカぐらいでは?

 

 

今回の件とは直接関係ないけれど、アメリカの「病気」である人種差別が遠因になっていることは間違いないだろう。
ワクチン接種をためらわせる要因は、黒人が教育や情報入手で、相対的に劣悪な環境に置かれていることをうかがわせている。

人種差別を経験したことが大きな理由となって、いまは日本に移住して働いているヒスパニック系のアメリカ人から、米国社会で差別が固定化された馬鹿げた判決があるという話を聞いたので、これから紹介しよう。

まず19世紀から20世紀なかばのアメリカではこんな感じに、列車やバスの待合室や座席が白人と有色人種(Colored)では常識として分けられていた。
この場合のColoredは実質的に「=黒人」と考えていいだろう。

 

 

トイレ、学校、図書館、ホテル、レストランなどでも白人と他の人種は分離されていた。

1892年に、この差別にプレッシーという人物が激怒する。
彼には少し黒人の血があるものの見た目は白人と変わらないのに、ルイジアナ州法では「黒人」に分類されたため、「Colored」の車両に座らないといけなかった。
それを無視して白人車両に座っていた彼は、車両を移動することを拒否して警察に捕まり、投獄された。

この黒人分離は人種差別だとプレッシーは裁判に訴えた。が彼の主張は退けられた。でも負けずに上告する。
これが全米の注目が集まったプレッシー対ファーガソン裁判だ。

日本では「差別はダメだが、区別はOK」なんて言う人がいる。では列車の中で、白人と黒人を分けるのは区別か差別か?
アメリカの最高裁判所が1896年5月18日に、「分離すれど平等」の主義のもと、公共施設での黒人分離は人種差別に当たらないという判決をだす。
アメリカ社会ではファイナルアンサーだ。

これは事実上、人種差別を容認する判決だから、その後のアメリカ社会では人種差別行為が合法的に堂々と行われるようになる。

この判決を受けて、南部諸州のみならず国内の全州で、白人以外の全ての有色人種に対する制度的な差別が、1964年の公民権法制定までのあいだ「合法」行為として大手をふってまかり通ることとなった。

アフリカ系アメリカ人公民権運動 

 

「白人と黒人を分けるのは差別ではなく区別だ」という時代が20世紀なかばまで続いたことで、アメリカ社会の人種差別意識が強められて、問題をより解決困難にさせたというのが先ほどのヒスパニック系アメリカ人の意見。
「プレッシー対ファーガソン裁判」の判決は、コロナワクチン接種の人種差とつながっているだろう。

 

 

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5 件のコメント

  • > ・特に有色人種の間で、ワクチンに対する不信やためらいがみられる
    > ・医療システムに対する不信感
    > ・接種を予約するためのインターネット環境の不備、情報不足
    この記事には重要な情報が欠けています。ワクチン接種の料金と、健康保険の適用の可否はどうなっているのでしょうかね? おそらく、州や都市・地域によって扱いは違うのでしょうけど。
    コストの話が明示されていないのでは、特定市場への普及の傾向に対する原因追求はできません。

    > アメリカの最高裁判所が1896年5月18日に、「分離すれど平等」の主義のもと、公共施設での黒人分離は人種差別に当たらないという判決をだす。
    まあ、感覚的には、「公衆トイレを男性用・女性用で分けるのは合法」というようなことなのでしょうね。あるいは、公共交通機関だから、日本の電車の「女性専用車両」みたいなものか?(←私がそう考えているわけじゃありませんよ、念のため。)
    でも現代においては、その「トイレの男女別」や「女性専用車両」だって、下手すれば「差別だ!」と言われかねない情勢ですが。

  • 上のコメントにも書きましたけど、検査やワクチン接種に料金が必要か否か、必要であるとすればどの程度か、各種健康保険・医療保険の適用を受けられるのかなどの点は、米国では、おそらく州・地域によって扱いに違いがあるのだろうと推定します。
    もともと、米国の医療は、日本のような「国民皆保険制度」が普及していません。また日本のように行政行為を何から何まで国が責任を負うのではなく、米国では、各州・各郡・各都市など地方自治体が最終責任を負って行政行為を執行する範囲が非常に大きい。ですから、国民の全員が「完全平等」な扱いを受けられるようなことは、まずありません。日本とは全然違います。
    税金(消費税・物品税)だって、州によって0%から15%くらいまで違いがあるのですから。

  • 医療保険の話になると、ワクチン接種が無料か有料かで話は大きく変わってきます。
    まずはその点を確認するのがいいでしょう。

  • 大坂なおみ選手が全豪オープンテニスで優勝した際のインタビューで、決勝相手のジェニファー・ブレイディ(米国)への呼びかけを、直前に本人へ尋ねたにもかかわらず、間違えて言及したとか。
    おそらく興奮していたのでウッカリ間違えたのだろうとは思いますが、でも、そのことを取り上げたSNSの非難発言が多くて炎上したとか。発言者はほとんど英語だったとか。
    これを見ると、米国を中心とした欧米白人社会の黒人差別意識は未だに根強く残っているようですね。残念だ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。