「The king is dead, long live the king!」にみる日英の違い

 

イギリス人を静岡市にある清見寺というお寺に連れて行ったとき、上の特別な部屋があった。
日本語を勉強していて、ある程度の漢字の読み書きはできる彼女でも、さすがに「玉座」の意味までは分からない。

このお寺には明治天皇(大正天皇かも)が宿泊したことがあって、こんな玉座を当時のままの状態で見ることができる。

『玉石混淆』の四文字熟語で使われる玉がこれで、宝石(おもにヒスイ)のことを指す。
天皇に関係するものには最高の敬意を示すため、日本語ではこんなふうに「玉」の接頭辞を使って表現することがある。
天皇がお座りになるところは「玉座」でその肉声は「玉音」、体は「玉体」などと言う。
昭和天皇が手術を受けたときには、「史上初めて玉体にメスが入った」と表現するメディアもあった。
江戸時代末には、薩摩や長州の藩士が隠語として天皇を「玉」と言うこともあったらしい。

こういう「玉」の発想は中国に由来する。

 

紫禁城(北京)にある中国皇帝の玉座

 

お寺にあった玉座から、天皇に関することについて、日本語には特別な用語があるという話題になる。

だからお亡くなりになったときには「崩御(ほうぎょ)」という最高敬語が使われ、ほかに「お隠れになる」という表現もある。
このことばが天皇に対してだけ使われる理由には、太陽神の子孫である天皇がいなくなることは「太陽が雲に隠れる」ということにつながるから、といった説がある。
この考え方からうまれたことばが「雲隠れ」。

 

日本に天皇がいれば、英国には王がいる。
イギリス人に、国王に対して使う特別な英語表現があるかきくと、ちょっと考えてから、英国では王が亡くなると「The king is dead, long live the king!」のことばを使う習慣があると言う。
前者の「The king」はこの世を去った王で、後者の「The king」は新しく即位する王のこと。
この両者を同時に言うことで王権の即座の移動、つまり王政の継続をあらわす。
「王は死んだ。しかし王政はこれからも続く」といった意味で、この慣用句は国民が新王への忠誠を誓う言葉だったようだ。
「long live the king」の訳には「国王万歳」「新王に栄えあれ」などいくつかある。
いずれにしても、個人としての王はいなくなったけれど、今後もイギリスには王が君臨し続けるということだ。
ちなみにこの“元ネタ”は、フランス語の「Le Roi est mort. Vive le Roi!」(ルイ(=国王)は死んだ。国王万歳」だ。

日本語には「天皇は崩御された」のすぐあとに「新天皇陛下万歳!」と言うような、天皇制の永続性を強調する表現はないだろう。

イギリスのことわざなら、「All is fair in love and war」(恋愛と戦争では何でも正しい)は知っていたけどこれは初耳。
聖グロリアーナ女学院3年生のダージリンが言うには、「イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」らし。

 

歴史的な意味があり、記憶にも残りやすいこのフレーズはいまでは一般的にも使われている。
後継者や交代をテーマにした記事や、広告の見出しなどで人気のテンプレのようだ。

In modern times, this phrase has become a popular phrasal template. Given the memorable nature of the phrase (owing to epanalepsis), as well as its historic significance, the phrase crops up regularly as a headline for articles, editorials, or advertisements on themes of succession or replacement.

The king is dead, long live the king!

 

1946年に国際連盟が解散して国際連合として生まれ変わるとき、国際連盟の創設者の一人であるロバート・セシルは総会で「The League is dead; long live the United Nations!(国際連盟は死んだ、国際連合万歳!)」と言った。

ネットを見るとイギリスの紅茶会社が発行する「紅茶パスポート」に、「TEA IS DEAD, LONG LIVE TEA !」と書いてある。
つまりこれで紅茶を何度も飲めるということだろう。

 

「史上初めて玉体にメスが入った」という日本では、「The emperor is dead, long live the emperor!」の考え方は受け入れられるとしても、皇室用の表現を一般人や企業が使うことは考えられない。
同じ『君主』のいる日本とイギリスでも、このへんの”恐れ多さ”や国民との距離感はやっぱり違う。

 

タイでも『long live the king!』のフレーズを見た気がする。
あれも英国式で、個人ではなく「王室万歳」の意味なのかも。

 

 

“イギリス”なんて日本だけ。4つで1つのUKは女王でまとまる

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ヨーロッパ 目次 ③

ヨーロッパ 目次 ④

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。