中国と日本の「桃色」:神聖とエロ、聖俗真逆のイメージ

 

ネットを見てたら、日本語ペラペ~ラの中国人がこんな投稿をしているのを発見。

「中国有望な若手ピアニスト 李 雲迪 氏
昨日は、桃色事件に巻き込まれ、逮捕された。残念でなりません。」

ショパン国際ピアノ・コンクールで中国人として初めて優勝し、世界的にも有名なピアニストの李雲迪(ユンディ・リ)という男が買春の容疑で北京の警察(公安)に捕まった。
「上半身と下半身は別の生き物」と承知している中国人も(いやしらんけど)、国家を代表するような音楽家の不祥事に大きなショックを受けているらしい。

 

この事件は日本人のわっちには関係ないんで中国警察にまかせるとして、「へ~」と思ったのは、こういう男女の性的な事件を中国では「桃色」と表現すること。
中国で桃には不死や長寿、豊作、招福の良いイメージがあって、一般的にこの色はとても好まれている。
西洋社会でいう理想の世界「ユートピア」は、中国では「桃源郷」と表現される。
桃には魔除けの効果があるから、周囲に桃を植えることで、邪鬼や悪霊など一切の邪悪なモノが侵入できない「神聖なエリア」になるという。
ちなみにユートピアは「どこにもない場所(no where)」という意味があるとか。

そんな「ピーチパワー」のアイデアは古代の日本にも伝わった。
日本神話には黄泉の国(死者の世界)で、鬼どもに襲われたイザナギが桃を投げて追い払ったという話があるし、鬼を払う平安時代の「追儺」(ついな)の儀式が、現在の3月3日の節分(桃の節句)の起源になったという。
くわしいことはこの記事を。

【日本と中国の文化】神話や物語にみる、魔除けとしての「桃」

 

鬼や魔をやっつける「ピーチパワー」を持つ代表的な人物に桃太郎がいる。

 

中国で「桃色」にはこういう神聖でめでたい意味のほか、それと性反対、いや正反対のような男女の卑猥なエロ事情のイメージもあるらしい。

もちろん日本にもそんな見方はある。
「お色気映画」なんて呼ばれていた映画が1960年代に「おピンク映画」となり、その後「お」がとれてピンク映画という言葉が生まれたと言われている。
英語の「ポルノグラフィ」から、現在の日本で使われる「ポルノ」という造語ができたのは70年代に入ってから。
ちなみにそういう映画を英語だと「ブルー‐フィルム(blue film)」という。
個人的には「青」だとエロや猥褻の逆で、清潔で高潔な感じがする。

 

アメリカ人やイギリス人が桃太郎を「ピーチボーイ」と言うのを聞いて、なんとなく風俗店が思い浮かんで違和感を感じた。

 

「桃色」について中国語の辞書を見ると、男女関係や色恋ざた、男女間の紛糾といった意味がある。
前者は「桃色事件に巻き込まれ、逮捕された。」のことで、後者は例えば戦前の日本で起きた「桃色争議」のことだろう。
松竹が昭和8年に少女歌劇部に対し、一部人員の解雇と全員の賃金削減を通告すると、トップスターの水の江 瀧子(18歳)らが大反発し、松竹の少女部員230名が神奈川県の旅館に立てこもって世間の注目を集めた。
この労働争議についてくわしいことは「桃色争議」を見てくれ。
これは性的な意味はないから、若い女性や男女間の紛糾を「桃色」と表現したのだろう。

ウィキペディアの「桃色」を見るとこう書いてある。

「日本では「桃色事件」、「桃色遊戯」など男女間の色情にまつわる事物を表す言葉としても用いられる。」

有名人の不倫や買春でこんな表現を見たことないんだが。

とにかく中国と日本で「桃色」には邪悪を払う神聖なイメージと、エロ・卑わいを表す俗世的な正反対のイメージがあることは間違いない。

 

女優の水の江 瀧子(みずのえ たきこ:1915年 – 2009年)

 

おまけ

小粉紅」(ピンクちゃん)という中国語をご存じか?

若い世代の民族主義者を「未熟な共産主義者」、「共産主義に完全に赤く染まっていない」ということで「ピンク」と表現する。
色は本当に色んな意味がある。

 

 

こちらの記事もいかがですか?

中国文化の日本文化への影響②日本風にアレンジした5つの具体例。

中国 「目次」

日本 「目次」

韓国 「目次」

 

2 件のコメント

  • 確かに、日本では「ピンク映画」「ピンク産業」とか今でも言いますけど。
    中国で猥褻を表す伝統的な色は黄色だったはずです。「黄色電影」のように。もしかして「桃色~」は日本から中国へ伝わったのでは?
    その種の色表現は、記事にも書いてある通り、米国では「blue film(青色映画)」、スペインでは「Cine Verde(緑色映画)」となって、国によりバラバラです。(出典「日本人の知らない日本語2」・・・だと思った。)

    それから、最近は反対論も多いですが、青=男子、赤=女子、という性別表現をするのは、これまで世界でほぼ共通に使われてきた表現です。そのため、紫=同性愛者ほか性的マイノリティー、であるという考え方もまだ残っているみたいです。
    映画「ダーティーハリー」で凶悪犯に狙撃されそうになった「黒人のゲイ」が紫色のケープを羽織っているというシーンがあったのですが、初見時はその意味が分からず、10数年後に米国で少し暮らして初めてその意味を教えられました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。