欧米人が驚く明治日本:でも政府は不平士族に困っていた

 

アメリカの著作家、写真家、地理学者で、さらにナショナルジオグラフィック協会初の女性理事になったという、超アクティブなエリザ・シドモア女史が明治の日本へやって来た。
戊辰戦争で江戸幕府を崩壊させた明治政府が、それまでの古い価値観や制度を一変させて新生日本を築いていくようすを見て、彼女は旅行記にこう記す。

政治的にも社会的にも、日本人は西洋世界を手本にし、その結果による王政復古は、今世紀最大の驚異的政治問題を提示しました。

古い秩序の突然の放棄、そして近代的秩序の出で立ちで武装する国民皆兵が、直面する危機解決の最も現実的永続的手段としてただちに導入された事は、少なくても欧州の間ではたいへんな驚きでした

「シドモア日本紀行: 明治の人力車ツアー  (シドモア日本紀行 講談社学術文庫) 」

 

最後の将軍・徳川慶喜が政治の権利を天皇へ返したあと(大政奉還)、明治新政府が成立すると、版籍奉還や廃藩置県によって全国の「藩」を廃止し、全国を中央政府の下に一元化した。
日本の明治維新は当時の欧米人にとっては、信じられないような驚異的なものに見えたらしい。

でも、ローマは一日にして成らず。
それは決して簡単ではなかった。
戊辰戦争での明治新政府軍は、薩摩(西郷隆盛)・長州(大村益次郎)・土佐(板垣退助)らによる諸藩の集合軍で政府直属の軍隊ではなかった。
一応、御親兵(ごしんぺい)はいたけど、数が少なくてこれで国難に対応するのは無理。
ということで欧米列強にならって、政府は江戸時代にあった身分を廃止し、四民平等を導入してすべての人を「国民」に統合したうえで、1873年に徴兵令を出して広く兵士を集めて新しい軍隊を作ることにした。

これはつまり、何を意味するのか?
徴兵令によって「国民軍」を創設するということは、それまで人民を支配する側にいて、日本最大の人口を占めていた武士を完全に解体させることになる。
特権を当然のことと思っていた彼らが、政府からいきなり「いらない子」扱いされて黙っているわけがない。

 

シドモア(1856年 – 1928年)

 

いまからちょうど150年ほど前のこの時期、「佐賀をさがそう」なんて言われなくても、全国の注目が佐賀に集まっていた。
特に明治政府は固唾をのんで佐賀の情勢を見守っていた。
というのは徴兵令の3年後、1874年(明治7年)の2月に江藤新平や島義勇をリーダーとして、明治政府に反旗を翻して戦いを挑んだから。
社会を根底からつくり変えていた明治政府は武士のいろいろな特権を廃止して、士族(旧武士)の激しい怒りを買っていた。
それがたまりにたまって、ついにドッカーンと暴発した不満士族の反乱の第一号が「佐賀の乱」。
1874年のきょう2月19日、江藤新平ら反乱軍が佐賀城に立てこもっていた明治政府軍(鎮台部隊)を攻撃して勝ち、政府軍は多くの死者・負傷者を出して敗走した。
それでも政府軍がその後の激戦を制して、3月1日に佐賀の乱を鎮圧することに成功する。フ~。

このあと1876年に神風連の乱(熊本県)、秋月の乱(福岡県)、萩の乱(山口県)が立て続けに起きて、1877年についにラスボス登場。
西郷隆盛を大将とする旧薩摩藩の士族が立ち上がり、明治政府との西南戦争がぼっ発した。
佐賀の乱から始まって、最大規模の西南戦争に政府が勝利することで国内の士族反乱は消滅する。
「もう武力で政府を倒すことは無理ゲー」ということを、全国へ知らしめたのが西南戦争だった。
それでその後、「これから言葉を武器にして、言論によって国を変えていこう!」となって自由民権運動が全国に広がる。

こうして御親兵とかいう雑魚キャラレベルの戦力から、実戦経験とトレーニングを受けた近代的な軍隊ができていく。
社会が安定したことで、政府は本格的に「日本いろいろ大改造」に着手することができたのだ。
第三者の欧米人にとっては、それが驚異的なスピードでスムーズに行われたように見えたのかもしれないが、明治政府にはかなり冷や冷やした場面も多かったはず。
でも朝鮮や中国では近代化に失敗したことを考えると、古い秩序を放棄して近代的秩序を創出した明治日本がはやっぱりすごかった。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。