エジプトにあるシナイ半島には、「恋するダハブ」がある。
ボクは行ったことはないけど、確かにダハブという街はある。
この街で日本人のカップルが多く生まれたそうで、そのことから「恋するダハブ」という名がついたらしい。
要するに、エジプトの「テラスハウス」だ。
でも、ボクはシナイ半島で人生最悪のぼったくりにあったから、恋の気配どころか殺意しか感じなかった。
このシナイ半島には、とっても不思議な建物がそこに行ってきたことがある。
それが、「聖カタリナ修道院」。
前にも少し記事で書いたけど、「こんな建物は、ここ以外に世界のどこにあるんだろう?」と、思ってしまうようなところ。
ここはキリスト教の修道院なんだけど、中にはモスク(イスラム教の礼拝所)がある。
「キリスト教の修道院(教会)の中に、モスクがある」
「モスクの中に、キリスト教の礼拝所がある」
そんなことは、他では聞いたことがない。
「同じ建物のなかに、違う宗教の施設がある」というのは、なかなかない。
しかも、キリスト教とイスラーム教は一神教の宗教じゃないか。
その2つの宗教施設がある場所なんて、聖カタリナ修道院以外にどこがあるんだろう?
でも、このシナイ半島にある「不思議」は、聖カトリナ修道院だけじゃない。
ここには、不思議な人たちがいる。
それが、「ベドウィン」と呼ばれる人たち。
ベドウィン
アラビア語で「荒れ野」に住む者を意味する単語が、ヨーロッパ諸語に入って成立したもので、アラブ系遊牧民を指す呼称。彼らの多くは、アラビア半島を故地とし、アラビア語をもちい、父系の血族部族社会を形成して、羊・牛・ロバ・ラクダ・馬などの遊牧で生活している。
(世界史用語集 山川出版)
イメージとしては、「都市には住んでなく、アラビアの砂漠にいる遊牧民」みたいな感じだ。
そんなベドウィンが、シナイ半島にもいる。
シナイ半島で、ボクも彼らに会ったことがある。
見た目は、エジプト人やヨルダン人といったアラブ人と変わらない。
「アラブの遊牧民」にしかボクには見えなかった。
だから、宿のエジプト人スタッフのこんな言葉を聞いて驚いた。
「いや、彼らはヨーロッパから来たんだ」
は?ヨーロッパ?
じゃあ、あのベドウィンたちは、ヨーロッパ人ってこと?
「そうだ」と言う。
「本当だろうか?」
と、このときは半信半疑で話を聞いていた。
でも、宿のエジプト人の話は本当だった。
彼らは確かにルーマニア人だった。
ボクが行った聖カタリナ修道院は、6世紀に東ローマ皇帝ユスティニアヌスの命によって建てられている。
彼はその労働者を現在のルーマニア(当時のダキア)で徴募し、奴隷としてこの地に送り込み、建設に従事させた。そして、建設が終った彼らはカタリナ僧院の契約遊牧民となった
(民族とは何か 山本七平)
ということで、シナイ半島のベドウィンはルーマニア出身になる。
ルーマニア出身というが、その外貌は純然たるアラブ人で、イスラム教徒である。砂漠の民に特有の、強い紫外線による深い皺が顔面を走り、日に焼けて浅黒い。まとっているのはアラブの下衣と上衣であり、頭巾をかぶり紐で止めている。私はその首長に「あなた方の先祖はルーマニアから来たと聞いたが、その通りなのか」とたずねた。彼はっきりと「その通りだ」と言った。
(同書)
6世紀にルーマニアからシナイ半島に連れてこられて、1500年の間にすっかり砂漠のベドウィンになったという。
どこから見てもアラブ人にしか見えない彼らは、人種としては間違いなくルーマニア人になる。
このことは、「人種」と「民族」を考えるうえで興味深い。
ただ、「人種」と「民族」についてはいろんな見方がある。
例えば、大辞泉を見てみるとこうある。
人種:人類を骨格・皮膚・毛髪などの形質的特徴によって分けた区分。一般的には皮膚により、コーカソイド(白色人種)・モンゴロイド(黄色人種)・ニグロイド(黒色人種)に大別するが、この三大別に入らない集団も多い(大辞泉)
民族:言語・人種・文化・歴史的運命を共有し、同族意識によって結ばれた人々の集団
評論家の山本七平氏は、「人種」と「民族」の違いをこのように述べている。
簡単に言えばそれは「氏と育ち」であり、氏を「人種」、育ちを「民族」と一応、表現してもよいと思う(同書)
この具体例で、さっきのベドウィンが登場している。
ただこの本のなかで、山本七平氏はこのベドウィンの人種について「ルーマニア出身」「ルーマニア人」としか書いていない。
「人種」については、いろんな考え方がある。
先ほどの大辞泉にあった「三大別」に当てはめると、アラブ人もヨーロッパ人と同じ「コーカソイド」になるだろう。
山本七平氏の場合は、ルーマニア人が白人で、アラブ人は日本人と同じく「有色人種(colored)」という分け方をしているのではないかと思う。
これは、下のような考え方になる。
18 – 19世紀に提唱された人種を肌の色で分ける五つの分類のうち、黒人(黒色人種、Black)・黄色人種(Mongoloid) ・赤色人種(Red) ・褐色人種(Brown) と並ぶ1つに位置づけられる。あるいは、白人以外の人種を総称して有色人種(colored) と呼ぶ。
(ウィキペディア)
*ただ、この「白人」と「有色人種」という分け方については、批判もあるのでそれを記事の下にのせておく。
ボクの友だちで、黒人のアメリカ人がいる。
彼女が日本で生まれ育って、日本以外の国に行ったことがなかったとする。
この場合、彼女は完璧な日本語を話し、宗教・文化・歴史的運命を日本人と共有する「日本人(民族)」になるだろう。
つまり、人種は黒人で民族は日本民族(人)という存在。
これからは、日本でもこうした人たちは増えるはず。
現にスポーツ選手では、黒人と日本人のハーフがたくさんいる。
彼らは日本人(民族)だし、それが「日本のふつう」になる時代は来るはず。
2015年のミス・ユニバース世界大会で、日本代表に選ばれたのは日本人と黒人のハーフである宮本エリアナさんだった。
総勢43名のファイナリストをわけてグランプリを獲得、日本代表に選出された。同年12月、アメリカのラスベガスで開催された世界大会に出場し、トップ10に入賞した。
これからは、こういうことがきっとあたり前になる。
こうみるとシナイ半島のベドウィンは、人種としてはルーマニア出身の白人だけど、言語も文化も宗教も歴史も現在のルーマニア人とは共有していない。
アラビア語を話すイスラム教徒のアラブ民族(人)になる。
だから、人種としては白人で、民族としてはアラブ民族という不思議な人たちになる。
ひょっとしたら、ボクからぼったくったタクシードライバーも、先祖はルーマニア出身の白人だったかもしれない。
補足
人を人種で分けることは、差別と結びつきやすいという危険性がある。
ウィキペディアでは、こんな文があったからそれものせておく。
人種分類はその性質上、優生学などの差別的な思想と結び付きやすく、実際にクー・クラックス・クランやナチスのような勢力を生み出す遠因となった。そのため、現在の生物学における人種に関する研究は、現生人類は一種一亜種であるという前提の上で慎重に行われている。あくまで人種とは現生人類の遺伝的多様性の地域的・個体群的偏りに過ぎず、人種相互に明瞭な境界はないとする。
おまけ
2016年9月1日の朝日新聞デジタルの記事で、このようなものがあった。
縄文時代に日本列島で狩猟採集生活をしていた縄文人の遺伝的特徴は、東アジアや東南アジアの人たちとは大きく離れていることがDNA解析でわかった。
「縄文人の核DNA初解読 東アジア人と大きく特徴異なる」
DNA解析の結果、縄文人は東アジアや東南アジアの人たちとはかなり違うということがわかった。
よかったら、こちらもどうぞ。
どのブログを見ても貴方の交友関係が広いなと思うのですがどうしたらそこまで広くなるのですか。
コメントありがとうございます。
1人の外国人と知り合えば、その人を誘うと友人を連れてきてくれるので、それで関係が広がりますよ。
車を持っていない外国人は多いので、こちらが車を出してどこかに行こうと言うとよろこぶ人は多いです。