『ジョジョの奇妙な冒険』でドイツ軍人として登場するシュトロハイムは、「ドイツの科学は世界一チイイイイ!!」というキャッチーなセリフで有名だ。
実際、ドイツは昔から高い科学技術をもっていた。
ドイツ語の「Sticken(窒息させる)」と「Stoff(物質)」を組み合わせてつくった「Stickstoff(シュティクシュトフ)」を、日本語に訳すと「窒素」になる。
空気の約80%を占めているのがこの気体だ。
1913年、ドイツでそんな窒素を使い、アンモニアを大量につくる技術が確立された。
その一報を聞いた皇帝ウィルヘルム2世は「これで戦争ができる。絶対に勝てる」と喜んだらしい。
爆薬のほかに、アンモニアからは窒素肥料をつくることができ、この技術さえあれば武器や食料を自給できると考えられた。
そう見込んだドイツは第一次世界大戦に参戦するも、結局は連合国に敗北する。
屈辱的なヴェルサイユ条約を結ばされ、巨額の賠償金を支払い、領土を奪われた。
この大戦でドイツは負けたものの、「リヒトホーフェン」という空のレジェンドが誕生した。

マンフレート・フォン・リヒトホーフェン
リヒトホーフェンはドイツ軍のエース・パイロットで、赤く塗られた機体に乗っていた。
理由は単純で、戦場で自分の赤い飛行機を見たら、誰の印象にも刻まれるだろうという目立ちたがり精神によるものだ。
しかし、彼は有言実行の男だった。
リヒトホーフェンのパイロットとしての腕前は「チート級」で、一人で80機を撃墜して、第一次世界大戦に参加したすべての国で最高の撃墜機記録を持っている。
そしてその赤い機体から、ドイツでは 「赤い戦闘機乗り」、敵のフランスでは「赤い悪魔」、イギリスでは「赤い騎士(Red Knight )」や「赤い男爵(Red Baron)」と呼ばれ、怖れられると同時に敬意を払われていた。
「赤い男爵」というのは、リヒトホーフェンが実際に貴族(男爵)だったことによる。
しかし、英雄にも最期はくる。
リヒトホーフェンは1918年4月21日、フランスのソンム上空で行われた空中戦で、敵機に肺と心臓を撃ち抜かれて25歳の若さで亡くなった。
彼の遺体はフランスで埋葬された後、ドイツ側の要求で1925年に母国へ戻ってくる。
その様子はまさに「英雄の帰還」といった状態だ。
ヴァイマル共和国大統領ヒンデンブルク元帥(大戦時のドイツ軍参謀総長)は「ドイツ国民の名において遺体を迎え入れること」を要請し、ベルリンまでの鉄路や駅には市民や元従軍兵士らが敬意を表すためにあつまった
敵国のパイロットたちもドイツで行われた国葬に参加したというから、リヒトホーフェンがどれほど有能で特別な存在だったかがわかる。

墜落したリヒトホーフェン機
敵軍の兵士が「撃墜王」の機体と知り、記念品としていろんなものを奪いまくった結果、彼の飛行機は無惨に破壊された。
日本全国にあるオートバイショップの「レッドバロン」の社名は、この撃墜王リヒトホーフェンに由来する。
「レッドバロン」の公式フェイスブックページにはこんな説明がある。
「無敵の撃墜王リヒトホーフェン。
中世の騎士道精神そのままに栄光と名誉の戦いは、
人々から「レッドバロン」—燃える男爵と称賛され、
今に語り継がれています。」
人生に冒険とロマンを求め、独自の文化を築く人間こそがモータースポーツライダーと考えるレッドバロンは、その理想像を「情熱的な紳士」とし、リヒトホーフェンに重ねた。

誰だか分からなくても、日本中の人が知ってるドイツ人がマンフレート・フォン・リヒトホーフェン。
第一次世界大戦での活躍から「赤い悪魔」、「赤い騎士」、「レッドバロン」と呼ばれていて、もはやアニメキャラみたいなこの伝説的なパイロットについて、現在のドイツ人はどう思っているのか?
このまえドイツ人と話をしたときに聞いてみたら、「彼はドイツでとても有名だけど、人気はないね」と素っ気ない。
ヒトラーの悪行から、いまのドイツでは第二次世界大戦だけでなくて、過去のすべての戦争に否定的なイメージがある。
第一次世界大戦はもちろん、1870年の普仏戦争も。
リヒトホーフェンは歴史上の人物として知られているけど、戦争のヒーローだから、いまのドイツに彼をほめたたえる空気はない。
日本の「レッドバロン」の看板を見ても、あの絵では彼がリヒトホーフェンとは分からなかった。
彼については独特の赤い機体で覚えているから、ドイツのお店にあるポップであの飛行機の絵を見ればすぐに分かる。
いまのドイツでは軍人を使って商品や店をPRすることはないから、彼の写真を見ても、自分ならきっと誰か気がつかない。
そんな話を聞いていると、日本のように赤い機体ではなくて、パイロットとしての彼にスポットライトを当てて、「無敵の撃墜王リヒトホーフェン」と宣伝するのはドイツ本国ではNGのような気がする。
そういえば、上の映画の日本人のレビューで「戦争映画なのに恋愛のシーンが多すぎる」といった不満が多かったのも、戦争をタブー視するドイツ社会の雰囲気を反映しているせいかも。
ここまで現代のドイツ人が「軍」に過敏になっているのは、ヒトラーの犯した人類史的な犯罪「ホロコースト」の影響だ。
大戦中は敵からも敬意を払われた撃墜王リヒトホーフェンの名誉や名声は、ヒトラーのせいで失墜したらしい。
ホロコーストとは無関係の日本なら、英雄を英雄と堂々と言うことができる。

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