日本とインドの歴史や文化の違い タージマハルの見方

 

日本の小学校で英語を教えていたアメリカ人が授業中、児童から「先生の好きな日本の食べ物は何ですか?」と質問された。
「わたしはラーメンが大好き。特に豚骨ラーメン」と答えると、「ええー、それって中国じゃん。日本の食べ物じゃなーい」と否定される。
ラーメンは日本の食べ物や文化か、それとも中国のものか?
答えは中国起源の日本の食文化だ。
いま日本にあるラーメンは幕末~明治初期に、中国から伝わった麺料理が独自に進化したものだからルーツは中国にある。
でも中国人に聞くと、ラーメンは中国にはない麺料理だから、日本の食べ物や文化だと言う。
中国の麵料理とは明らかに違うから、中国のレストランにある日本のラーメンは「日式」という言葉が付けらていれる。

日本にある文化をめぐる問題や争点というと、海外(おもに中国)から伝わったものを日本文化と言えるかどうか?というものが多い。
この点、最近の韓国と中国はかなり深刻だ。
「キムチや韓服の起源は中国にあり、それらは中国文化だ」なんて主張を中国がすると、「中国は我が国の文化を盗むな!」と韓国側が激怒する。
その反応は第三者から見るとあまりに激しくて、海外メディアが記事にして報じるレベル。

中央日報(2022.02.07)

「五輪韓服議論」、外信も関心…ロイター「韓国が憤怒した」

まあ茶道や空手を「韓国起源」と主張されたら、日本人も似たような反応をする。
ということで、日本で文化をめぐる議論といえば大体こんな感じなんだが、インドの場合は本質的に違う。

 

きょう6月17日は、この建物ができるきっかけが生まれた日。

 

 

ボクの知る限り、世界一広い墓は大阪の仁徳天皇陵で、世界一高い墓はエジプトのピラミッドで、世界で最も美しい墓といえばインドのタージマハルだ。
ムガル帝国皇帝シャー・ジャハーンの最愛の妻、ムムターズ・マハルが1631年のきょう6月17日に息を引き取ると、皇帝は世界の半分を失うほどの悲しみを感じた(たぶん)。
その悲しみをカネにかえて、皇帝の持てるすべてを使って築いたお墓がタージマハルだ。
マハルとは「宮殿」で、タージマハルは「宮殿の王冠」という意味になる。

ガイドブックなんかには、この後シャージャハンは城に幽閉されて、愛するムムターズ・マハルを思いながら悲しみのなかで亡くなった、みたいなことがよく書いてある。
でも実際は、シャー・ジャハーンは女性について何一つ不自由しなかったというから、ムムターズ・マハルを想うことはあっても派手に楽しんでいたのだ。

タージマハルの説明④ 装飾・その後も元気なシャー・ジャハーン!

 

日本の歴史からすると、タージマハルのような建物は日本に存在しない。
ムガル帝国はいまのアフガニスタンのあたりからやってきて、16世紀にインドを制圧し支配した外部勢力で、彼らはイスラム教徒だから、それまでインドにいたヒンドゥー教徒は支配される側になる。
仁徳天皇陵やピラミッドと違って、タージマハルは異民族・異教徒が建てたものだから、ヒンドゥー教徒のインド人がこれをどう見るかは本当に人それぞれだ。

想像してごらん。
13世紀の元寇でモンゴル人が日本人の軍を撃破して、鎌倉幕府や朝廷(天皇)を滅ぼして日本の支配者となったとする。そしてモンゴル人の皇帝が何十万もの日本人に皇后の墓をつくるように命じてできた建物を、現在の外国人が「日本のシンボル」と考えているとしたら、日本人はどう思うか。
それを屈辱に感じるか、誇りに思うか。
そう言えばムガルの由来は「モンゴル」だったっけ。
ラーメンやお寺みたいに自分たちが主体で取り入れた文化なら、こんな複雑なことにはならない。

こんな視点からヒンドゥー教徒のインド人が、タージマハルをどう評価するのか興味があってこれまでいろんな人に聞いてみたら、こんなことを言う。

〇ネガティブ派

・あれはイスラム教の文化で、自分たちには関係ない。
・一神教のイスラム教徒だったムガル皇帝は、インドのヒンドゥー教徒を殺しまくった。そんな人間が妻の墓をつくるために、どれだけのヒンドゥー教徒が犠牲になったか考えると、あれを誇らしく思う気持ちにはなれない。

〇肯定派

・誰が建てたのかはどうでもいい。インドにあるものはインド人の文化で、タージマハルはどう見ても素晴らしい。
・タージマハルは世界七不思議のひとつに入っているほど、世界で高く評価されているからとても誇らしい。過去よりも、現在それがもたらす利益のほうが大事。

〇融合派

・イスラムの皇帝が命じてヒンドゥー教徒がつくったものだから、あれはどちらのものでもある。
・タージマハルにはインドの影響もあるから、あれはヒンドゥー・イスラム文化の結晶体だ。

 

この世界遺産については5年前、地元州が作成したガイドブックから削除されたことが分かって物議を醸した。

産経新聞(2017/10/19)

タージマハルが観光ガイドから消えた! イスラム系王朝の建造物なのでヒンズー至上主義勢力が反発か

タージマハルはイスラム系王朝の建造物だから、地元のヒンドゥー至上主義勢力の反発が原因と「みられる」と書いてあるけど、そう断定して間違いない。
これはウッカリではなくて意図的だ。
この州の首相は強硬なヒンズー至上主義者として有名な人物で、国内には「シャー・ジャハーンはヒンドゥー教徒を抹殺したいと思っていた」、「(タージマハルは)インド文化の汚点だ」とタージマハルの削除を支持する議員もいる。
もちろん削除反対の声も多くあって、結局どうなったのかは知らない。
日本だったらこんな問題は起こらない。

 

日本では国ができてから、外部の異民族に支配された歴史がないから、日本文化を代表するような建築物をめぐって、こうやって国民の間で見方が分かれるものはない。
多様性と対立・分裂の象徴でもあるタージマハルは、ある意味インドという国をよく表している。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。