日本だけの歴史:外国人のナゾ、将軍と天皇の違いって?

 

江戸時代、8月1日は「八朔(はっさく)」という武士の祝日だった。
*これは旧暦で現在のカレンダーなら8月30日。
この日は1590年に徳川家康が江戸城に入城した重要な日だから、それを記念して8月の朔(=ついたち)の日には、白帷子(しろかたびら)を着た大名や旗本が江戸城に来て、徳川将軍家へお祝いの言葉を述べる行事が行なわれていた。

 

江戸城登城風景図屏風

 

そんな江戸時代の日本についてアメリカ人と話をしてると、「アレ?そのころの日本の首都って京都なの?江戸じゃないの?」とビックリされた。
3年ほど浜松に住んでいて日本の歴史をかじった彼女は、当時の首都を完っ全に江戸だと思っていた。
その時代の日本を支配していたのは幕府でそのトップが将軍だから、彼は日本を動かす最高実力者ということになる。
そんな将軍は江戸に住んでいて、そもそも「江戸時代」というのだから、日本の首都はてっきり江戸だと彼女は思い込んでいた。
京都が日本の首都だったことは知っていたけど、それは江戸時代の前の話で、そのころ天皇がどこに住んでいたのかは知らない。
江戸時代に天皇が日本のどこにいたのかなんて、考えたこともなかったと言う。

これとまったく同じカン違いをしていたインド人もいたから、江戸時代の首都を誤解している外国人はけっこう多いかも。

 

日本の首都は天皇のいるところで、江戸時代には京都に住んでいたから、そこが日本の都になる。
「天皇」を英語にするとエンペラーになるという、日本の超・超・基礎はそのアメリカ人も当然知っていた。
それでボクが「将軍を英語にすると general でしょ?ジェネラルの地位がエンペラーより上のはずがない」と言うと、彼女はこう反論。

「軍のトップであるジェネラル(軍司令官)は、あくまで1人の軍人であって政治家ではない。エンペラーが国の最高指導者ということなら分かるけど、江戸時代の日本では、将軍がその地位にいたと思う。じゃあその時代、エンペラーは京都で何をしていたのか?彼はどんな役割を果たしていたのか?」

東洋における将軍とは「軍を将(ひき)いる」ということだから、国を導く政治家ではない。
まあリビアのカダフィ大佐みたいに、軍人と政治家を兼ねた国のトップもいるけどそれは例外だ。
ふつうはジェネラルが政治を行なうことはないし、その地位は完全にエンペラーの下にある。
ジェネラルはエンペラーの命令で軍を動かすのであって、勝手に軍を動員したら反逆行為やクーデターになる。

 

江戸城

 

江戸時代の幕府と朝廷、将軍と天皇の関係は、徳川家康が1615年に制定した「公家諸法度(禁中並公家諸法度)」で決まった。
*禁中(=天皇)

「天子(天皇)は御学問のこと第一」といった内容で、これによって天皇や公家が日本の政治に関わることはできず、「幕府<朝廷」の力関係が決定づけられる。
天皇や公家は世間の動きに関心を持つ必要はなくて、学問や趣味の世界で生きていればいいと。
日本の最高実力者が将軍でも、天照大神の子孫である天皇には宗教的な権威があって、将軍でもこれを上回ることはできない。
そもそも天皇によって、武士のトップである征夷大将軍に任じられることで、初めて「日本にの支配者(将軍)」になることができるのだから、幕府にとって天皇は必要不可欠な存在になる。
天皇がいないと将軍になれない!

中国ならその時の皇帝を倒し、別の人間が新皇帝に即位して新しい王朝を始めることができた。
西洋では市民が革命を起こし、皇帝を公開処刑にしたり追放して新しい時代をスタートさせた。
日本の歴史では、こんな血なまぐさいことは一度も起きなかった。
天皇ではなくて、将軍が暗殺されたことなら何度かある。
*歴代の天皇の中では唯一、6世紀に崇峻(すしゅん)天皇が臣下に暗殺された。

独力で征夷大将軍になることはできないし、将軍になれなかったら、徳川家の立場は日本中にいる有象無象の大名と変わらない。
そうなると、また応仁の乱のような大混乱が起きていたかも。

幕藩体制なんて政治体制は日本だけのオリジナルで世界史には無い。
世界には将軍と天皇という独特の存在も無ければ、両者による二重統治も存在しなかった。
江戸時代に存在が見えなかったとしても、天皇がいつも日本の頂点にいたからこそ、明治時代になると日本はひとつにまとまって、改革を進めて近代国家に生まれ変わることができたのだ。
将軍の正しい英語訳は「shogun」で、これを「general」とか言っちゃうと、外国人はよく分からなくなる。
江戸幕府なら「Tokugawa shogunate」だ。
外国人に話す時にはご注意を。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。