【神仏習合】ドイツ人が日本で最も印象的だった文化

 

日本では9月になると、「死人花」「地獄花」「幽霊花」と言われ、不吉なイメージのある彼岸花が咲き始める。
その時期は、日本の大学に留学している外国人にとっては卒業シーズンでもある。
知り合いのドイツ人が今月9月に帰国する予定なので、その前に、彼のお気に入りのサイゼリヤへ行って話をした。
彼はこの1年間、日本でいろいろな経験をして、日本の文化はとてもユニークだと感じた。
特に、こんな考え方があることを知ったときは、ドイツ人的には衝撃的だったらしい。

朝日新聞の記事(2023/09/06)

北野天満宮で神仏習合の「北野御霊会」 神職が延暦寺の僧侶と共に

疫病の終息などを願う宗教儀式を「御霊会(ごりょうえ)」といって、有名なものに京都の祇園祭がある。
今回、同じ京都にある北野天満宮で、神道と仏教がタッグを組んだ。
北野天満宮の神職と比叡山延暦寺の僧侶が一緒に御霊会をおこない、神職は神に祝詞(のりと)を捧げ、僧侶はお経を唱えて、日本が平和で穏やかであることを祈願した。
お坊さんが玉串奉納という神事をしたというから、本格的にデタラメだ。

北野天満宮と比叡山による御霊会には、長い伝統とドラマチックな復活の物語がある。
この儀式は987年に始まり、京都人の言う「先の大戦」、つまり15世紀の応仁の乱で途絶えたが、2020年にコロナという大厄災の終息を願って、約550年ぶりによみがえったのだ。
そして今年もそれがおこなわれた。
「北野御霊会」を開催した関係者は、北野天満宮も比叡山も長い間、京都や日本国を守り、災いをはらう祈りを続けてきた。これからも神仏の祈りを通じて、日本人が培ってきたものを大事にしたいと語る。
サラリと言うが、この発想が知人のドイツ人には衝撃的だった。

インドで生まれた仏教と日本で誕生した神道はまったく別の宗教だけど、どっちも人々の安全や平和を祈願する役割は変わりはない。
「和を以て貴しとなす」の日本では2つの宗教が一体化し、「神仏習合」の文化が伝統になったから、一見デタラメなことでも、実はつじつまが合ってしまう。
だから、ネットのコメントを見ても、この行事に違和感を感じる人はいない。

・神と仏とどっちが強いんだ
・祇園祭は牛頭天王を祀る疫病退散だったのにコロナで中止してたよな
・日本のこういうところが好き
長崎のキリストも呼んでこいよ
・東京でもやろう
五條天神社と寛永寺
・江戸時代までは寺と神社は一緒の敷地内にあり、坊主と神主は兼任してた

 

日本人は「神仏習合」というユニークな宗教観を持っているから、宗教の壁をわりと簡単に越えることができる。
東大寺ではキリスト教まで参加して、一緒に祈りをささげた。

 

話題をドイツに移すとしよう。
2年前、ドイツで世界初となる画期的な試みがスタートした。

英メディア「The Guardian」の記事(27 May 2021)

‘House of One’: Berlin lays first stone for multi-faith worship centre 

イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の礼拝所を1つの建物の中に集めた「ハウス・オブ・ワン」の建設がこの年に始まった。
「ハウス・オブ・ワン」にはモスク、シナゴーグ、教会が別々に作られ、中央に共有スペースが設置される予定。
だから、各宗教の礼拝が終わった後、信者たちはここでお互いの宗教について学ぶことができる。
無宗教の人でも利用することができるから、この共有スペースに壁はない。
この3つの宗教の合同礼拝所を作り、それぞれの信者を結び付けようとする試みはこれが世界初。
1989年に東西ドイツを隔てていた巨大な壁が崩壊したベルリンでは、多様性が特に尊重されているから、価値観や考え方の違う各宗教がお互いを認め合い、平和共存する「ハウス・オブ・ワン」を建てるにはピッタリの場所だ。

 

イスラム教、ユダヤ教、キリスト教は実はまったく同じ神を信じている。
この3つの宗教は、人類最初の預言者アブラハムが信じた神を崇拝しているから、「アブラハムの宗教」と言われる。
でも、歴史的には十字軍の遠征でキリスト教徒とイスラム教徒が殺し合ったり、ヨーロッパではキリスト教徒によるユダヤ人への迫害が行われたりして、価値観の違いから、多くの残虐行為が発生した。
こんな背景があるから、同じ屋根の下にイスラム教、ユダヤ教、キリスト教の礼拝所を集めるという試みは本当に画期的だ。

 

知人のドイツ人は、子どものころはカトリック教会へ通っていた。
でも、高校生になると、宗教は現実的にはいろいろな争いの原因になっていて、自分の信仰が無意味のように感じるようになり、結局はどの宗教も信じなくなる。
彼は「ハウス・オブ・ワン」を知らなかった。
でも、異なる価値観を持つ各宗教がお互いを認め合い、平和的に共存するというアイデアを知って、「それはすばらしい!」と彼はとても感動した。
…なんて展開になるかと思ったら、そんな単純ではなかった。

「いまドイツでは、ユダヤ教やイスラム教に対するヘイトが高まっていて、差別的な嫌がらせ行為が増えている。ハウス・オブ・ワンの考え方はとてもすばらしいよ。でも、現状はそれほどヤバいってことだろうね。平和な社会を実現する取り組みには誰だって賛成するけど、やり方が極端だから、その理念はあまり広がらない気がするんだ」

一神教の世界で生まれ育った彼は、異なる宗教間の歩み寄りは本当に難しいと感じていたから、この試みは理想が高すぎて、結果や効果については期待できないらしい。

彼はそんな考え方を持っていたから、日本に来てから、まったく違う2つの宗教が1つになる「神仏習合」という文化があることを知り、価値観がひっくり返され、強い衝撃を受けた。
ある日、日本人の友人に仏教と神道、お寺と神社の違いを聞いたら、「う~ん、よくわかんない」と言われて、ビックリしたこともある。
お坊さんが神社で神事をする国だから、一般人の認識がこの程度でも不思議ではない。

彼としては、各宗教が違いを乗り越えなくても、共存していければ十分と考えている。
だから、そんな次元を飛び越えて、違いが分からなくなるほど一体化する「神仏習合」という考え方がとても新鮮でユニークに感じた。
日本には、ハウス・オブ・ワンという建物は無くても、すでにその理念は常識になっている。

そんなことで彼の経験では、これが日本とドイツ社会との大きな違いで、最も印象に残る日本文化となった。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。