インドで平和を考えた⑦「原爆ドームを見ても、日本人とインド人はまったく別の感想をもつ」

 

2013年12月にインドを公式訪問された天皇陛下が、大統領官邸で開かれた歓迎の晩さん会で、このようなあいさつをされている。

以下は、東京新聞の記事からの引用になる。

 

「天皇陛下はインド議会が毎年八月、日本の原爆犠牲者を追悼する黙とうなどをしていることに『国を代表、とりわけ犠牲者の遺族の心を酌み、心から感謝の意を表します』とあいさつされた」

 

これはブログで、何度か書いてきたけれど、国会でこの黙とうを行っている国は、世界で日本とインドだけだ。
ボクはこれをインドの旅をとおして知ったのだが、とても驚いた。

しかし、日本が原爆犠牲者に黙とうを行うことは当然のこととして、なぜインドも毎年行っているのかが分からない。

このことを何人からインド人に聞いてみたところ、大方次のような意見を言う。

「核兵器の恐ろしさを忘れないためだ」「もう、このような悲惨なことが世界で起こらないようにするためだ」

 

 

しかし、そう思うのなら、なんでインドは核兵器をもっているのか?

核兵器の恐ろしさを知っているのなら、日本と同じく核兵器をなくすべきではないか?あれば、使ってしまう可能性があるし、下手したら使いたくなることもあるかもしれない。
もっていなければ、その可能性はゼロだ。

 

インド旅行中に、インド人にインドが核を保有している理由を聞くと、こんな答えが返って来た。

「インドが核兵器をもっていることは、心強いし、誇りにも感じる」

しかし、核開発やその維持に必要となる費用や時間、労力を別のところに使うべきではないか?

インドの路上にいる物乞いを減らしたり、学校や病院を建てたりすることに当てる方が、どう考えても先だろう。

ボクがそう言っても、「それも必要だが、核兵器も必要だ」の一点張りで、話が平行線をたどったままだった。

そこで、日本に住んでいるエリート層のインド人に話を聞いた。
彼は、広島の原爆ドームに行ったことがあり、普通のインド人よりは核兵器や日本のことを知っている人物だ。 その彼は、こんなことを言う。

「戦争は絶対にしてはならない。そういうことにならないように、インドは核兵器をもっている」

結局、インドでボクが聞いた人と同じ意見だ。
ただ、続けてこうも言う。

 

「誰だって、戦争は嫌だろ?オレは、原爆でヒロシマがめちゃくちゃに破壊されたり、焼け焦げた遺体の写真を見たりして、核兵器がもつ恐ろしさや悲惨さが分かっているつもりだ。だからこそ、『インドに核を落とされたら』と考えるとゾッとするよ。

インドは絶対に、そうなってはいけない。だから、戦争を防ぐためには、核兵器をもつことが必要なんだ。インドが核をもっていたら、パキスタンや中国はインドに手を出せなくなるだろう?」

 

 

この辺の感覚が日本人とは違う。
日本人の感覚からすれば、原爆ドームに行って各種の展示物を見たら「こんな悲惨なことを人類が繰り返さないために、核兵器をなくそう」と考えるのが一般的だろう。

ところが、彼が同じものを見た場合は、「こんな悲惨なことがインドに起こらないように、インドは核兵器をもつことが必要だ」となる。

 

同じものを見て、まったく逆の感想をもつようになる。
結局、価値観もそれにもとづく考え方が違うのだ。

 

ただ、彼の話を聞いていると、インドがいつまでも核をもっていることを支持しているわけではないことが分かる。

「でも、いつかは、インドやパキスタンから核兵器がなくなればいいと思っているし、なくすべきだね。印パだけではなくて、世界中の国が核兵器を持たなくなればいいと願っているよ。

でも、今すぐ、インドから核をなくことなんて無理だ。それは考えられない。そんなことをしたら、きっと、皆が不安になって大きな混乱になる」

 

彼は、現時点ではインドは核兵器を持っているが、その状態がいいことだとは思っていない。いずれは、なくしていくことが望ましいという。
これは言い換えると、「核兵器が必要でなくなるまでは、持っていなければならない」ということになり、こういう考えがインドの核保有を認めていることになるのだろう。

 

もちろん、これは、彼の個人的な意見だ。
しかし、他のインド人に話を聞いても、同じような考えをしている人が多い。 「今は、インドは核兵器を必要としている」という現実を認識しつつも、「でも、いずれは、なくしていけたらいい」という理想ももっている。

いろいろな人に話を聞いていると、やり方に違いはあっても、最終的にはインド人も日本人が考えているような平和を望んでいるようにしか見えない。

日本とインドは、国会で毎年、原爆の犠牲者に祈りをささげていることでは同じではあるが、日本は非核三原則で核の放棄を宣言し、インドは核武装をしている。

 

しかし、共に同じく戦争を否定して、平和を望んでいる。 やっていることは正反対ではあるけれど、日本もインドも「核兵器が必要なくなる平和な状態」という同じゴールを目指しているようだ。

~続く~

 

2 件のコメント

  • 日本が既に核武装していたらアメリカは日本に核を落としただろうか
    軍事力を背景に外交交渉をしているのが世界の常識で 日本の非常識なところであると考えますが、それ以前に日本にはアメリカの軍事基地がいくつもある時点で独立国家ではなくアメリカに占領され続けている国であるという見方が国際社会では一般的で、核保有国のみで外交交渉しているのが現実です。

  • 核兵器をちらつかせれば世界で存在感を示すことができるというのは、北朝鮮を見れば明らかです。
    でも非核三原則をかかげる日本にそれはできません。
    でもそれが世界での日本の独自性ですから、それをいかして外交を展開するしかないでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。