友人のインド人に、ある日本人の写真を添付してメールでこんな質問をしてみた。
「この日本人の仏教僧はインドにいるんだけど、彼を知っている?」
すると、こんな答えが返ってきた。
「I really not sure whether this person is famous or not in India.
May be I have not put interest in this side.」
このインド人は、その日本人がインドで有名なのかよく分からないという。
そもそも彼はその方面に興味がない。
ちなみに彼はいまアメリカに住んでいる。
デリーに住んでいる別のインド人に、その日本人、佐々井秀嶺(しゅうれい)についてたずねると、こんな返事がきた。
「I apologize, I did not know about Shurai San.
But he may be more famous in other places like Nagpur.」
「インド人はよく誤るくせに、絶対に謝らない」という話を聞いた人がいるかもしれないが、日本で知り合うインド人は「ソーリー」と謝る人が多い。
彼は「Nagpur(ナーグプル)みたいな場所なら、その日本人は有名かもしれない」という。
ナーグプルはインド中部にある都市だ。
インドには、「不可触賤民」として差別を受けていた人たち(ヒンドゥー教徒)がいる。
ナーグプルは、戦後アンベードカルが彼らを仏教へ改宗させる運動をしたところで、インドでは仏教徒の多いところとして知られている。
「仏教への改宗運動」という言葉はこの記事のキーワードだ。
このインド人の返信はこう続いている。
「It is very surprising,… In ancient times, India sent people to other countries to spread Buddhism.
But now, people from those countries are coming back to India to spread Buddhism!!」
古代、インドは外国に人びとを送って仏教を伝えていた。
でも今では、そうした国から人びとがインドに戻ってきて仏教を伝えている!!
彼はそのことに「It is very surprising(本当に驚いた)」という。
まさにインド人もビックリ。

東南アジアで初めて仏教が伝わったところを、タイ語で「スワンナプーム」という。
スワンナプームはタイの国際空港の名称になっている。
「I apologize, I did not know about Shurai San」のShurai Sanというのが、佐々井秀嶺(ささい しゅうれい)という日本人の仏教僧だ。
佐々井氏は岡山県生まれの日本人だけど、インドの国籍を取っているから今はインド国民になっている。
ナーグプルにある寺で住職を務めている。
先ほどのアンベードカルの改宗運動の中心人物の一人でもある。
「不可触賤民」の人たちは、カースト制度(ヴァルナ=ジャーティ制度)の影響で激しい差別を受けてきた。
彼らの生活はこのようなものだったという。
住居も、町や村外れの、不潔な、生活用水もない場所に定められ、木の葉や泥以外の家に住むことができず、その暮らしは家畜以下であった
「アンベードカルの生涯 (光文社新書) ダナンジャイ・キール (著), 山際 素男 (翻訳) 」
皮革のなめしや染色、ゴミや屎尿の処理、ネズミ取り、死体処理、火葬などといった(ほとんどが世襲の)職業ゆえに「不浄」とみなされている
「インド入門 (新潮OH文庫 162) マノイ・ジョージ」
ダリットたちがヒンドゥー教徒である限り、こうした差別から解放されることはなかった。
そのため、多くのヒンドゥー教徒が仏教徒に改宗している。
アンベードカルがそれをおこなって、今は佐々井氏が彼の意思を継いでインドで活動している。
佐々井師は80万人ものダリットを仏教徒に改宗させたという。
この日本人仏教僧に政府も注目した。
2003年には、インド政府からマイノリティ・コミッション(少数者代表委員会)の仏教代表として、佐々井氏が政府委員に任命された。

ダリットの少女
作家の五木寛之氏は、「インドで闘う、日本人僧侶」と佐々井師を紹介している。
佐々井師はインドに渡ってから、39年間、一度も日本に戻って来たことがない。
五木寛之氏は『21世紀 仏教への旅 (講談社)』の中で佐々井氏についてこう書いている。
「インドの仏教徒たちから、菩薩のように慕われ、敬愛されている」
「インド仏教界の最高指導者のひとりと認められるまでになっている」
「インドのカーストの最下層の人びとに布教した日本の僧侶は、佐々井師以外にいないだろう」

インドの北部にはチベット仏教徒もいる。
佐々井師はインドでの活躍のわりには日本で知られていないと思う。
この人はあまりにも型破りな人だったため、日本の仏教界から「異端の人」と見られることもあるらしい。
異端とは、正統から外れていることを指す。
くわしくは「21世紀 仏教への旅 (講談社)」を読んでほしい。
でも、そんな人でなかったら、インドのカースト差別と闘うことはできないだろう。
佐々井師はもっともっと日本で知られていい人物だと思う。
ところで、現在のインドで仏教徒はどれぐらいいるのだろうか。
外務省のホームページにはこう書いてある。
ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、 仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%
今のインドの人口は約13億。
上の数字で計算したら、インドの仏教徒の数は910万人いることになる。
でも実際には、インドの仏教徒は1億人を超えているという。
インドで正確な統計をとることは本当にむずかしい。
本当は仏教徒だけど、奨学金をもらうために「ヒンドゥー教徒」と申告することがあるらしい。
こうしたところからも、インドの複雑な社会が見えてくる。
そのへんのことも、「21世紀 仏教への旅 (講談社)」に書いてある。

おまけ
「インドで一番有名な日本人はだれ?」とインド人に聞いてみた。
その答えがこれ。
It’s difficult to say the most famous Japanese people in India. You ask anybody, they can easily tell 10 famous Japanese companies.
But most people in my field of work could say Osamu Suzuki san is very famous.
「一番有名な日本人はだれか?」というのは答えづらいけど、日本の会社なら簡単に10は言えるらしい。
でも、彼にとって有名な日本人は鈴木修氏、自動車メーカー『スズキ』の会長だった。
マルチという自動車メーカーで働いている彼にとっては当然の答えだ。
インドの鉄道駅
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