シンガポールの罰金制度が厳しい理由とは?「性悪説」をとったから。

 

マレー半島の先っちょにシンガポールという国がある。

 

シンガポールは東京23区とほぼ同じ広で首都はない。

 

19世紀前半、イギリス人のラッフルズがこの地に「シンガポール」という名をつけた。
これは「シンガプーラ」というマレー語にちなむ。

シンガポールという国名は「ライオン・シティ(ライオンの都市)」という意味。
マーライオン(この記事の始めにある写真)は、シンガポールのシンボルとしてとても有名だ。

ラッフルズがシンガポールをつくっていたころ、日本では伊能忠敬が日本地図をつくっていた。

 

今のシンガポールは、1965年にリー=クアンユーの指導でマレーシアから独立して誕生している。
シンガポールはザ・多民族国家。
東京23区ほどの島国にいろいろな民族・言葉・宗教がある。

人口
約547万人(うちシンガポール人・永住者は387万人)(2013年9月)

民族
中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%
シンガポール建国の父・リー=クアンユーは中華系の人。

言語
国語はマレー語。公用語として英語、中国語、マレー語、タミール語

宗教
仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンズー教

このデータは、外務省のHPにある「シンガポール共和国(Republic of Singapore)基礎データ」から。

 

 

ライオン・シティのシンガポールは「ファイン・シティ」とも呼ばれている。

fineには、「すばらしい」の他に「罰金」という意味もある。

シンガポールの街は東南アジアの他の国と比べてとてもきれい。
路上にゴミが散乱していることはないし、建物に落書きもない。
その意味でシンガポールは「fine city(すばらしい都市)」だ。

シンガポールがそのすばらしさを保っている理由は厳しい罰金制度にある。
路上にゴミを捨てたりツバを吐いたりしたら、それだけで罰金(最高で約82000円)を払わないといけない。
その意味でシンガポールは「fine city(罰金都市)」だ。

 

シンガポールを旅行中、ボクもそんな目にあいそうになった。

それは電車に乗っていたときのこと。
持っていたペットボトルの水を飲もうとキャップに触れたとたん、まわりのシンガポール人に注意された。

「おい、やめろ!ここで飲み物を飲むと捕まるぞ」

じつはボクもそのことは知っていた。
シンガポールの電車で飲食をすると捕まって罰金を払わないといけなくなる。

そのことは知っていたのだけど、このときは考え事をしていてそのことに気がつかなかった。
「電車で飲食だダメだ!」と意識していればいい。
でも無意識の状態だと、ついつい日本での感覚で行動してしまう。

この時、まわりの人たちのストップがなかったら、罰金82000円を払わされていたかもしれない。

外国人だろうと無意識にした行動だろうと、シンガポールは厳しいから。

暑いと、ついうっかり日本の感覚で冷たい飲み物を飲みたくなりますが、観光客でも容赦なく罰金を課せられるそうなので注意が必要です。

1987年に開業した安くて便利な「MRT」

ここで書いた罰金の金額はシンガポールのこの情報サイトから。

タバコ・ゴミ・ポイ捨てなどの罰金一覧

旅行者が注意すべきことが書いてあるから、シンガポールに行くなら目を通しておいてもいい。
チューインガムを持ちこんだだけで、最悪82万円の罰金を払わないといけなくなる。

 

 

シンガポールでこんなにも罰金が厳しい理由はなにか?

「シンガポールが多民族国家だから」ということがその理由としてよくあげられる。
さっきも書いたけど、東京23区ほどのシンガポールにこれだけの民族が住んでいる。

中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%

「いろいろな民族がいるシンガポールをうまくコントロールするためには、厳しい罰金制度が必要だ」ということをよく聞く。

 

でも、日本にいる中華系のシンガポール人から聞いた話だと少し違う。
その人はシンガポールで罰金が厳しい理由をこう言う。

「シンガポールには中華系の人が一番たくさんいます。シンガポールを統治するときには、その中華系の人たちのことを考える必要があります。ハッキリ言って中華系の人たちは、ルールや法を無視する自己中心的な人が多いです。そのためにリー=クアンユーは、『中華系のシンガポール人をコントロールするためには、厳しい罰金制度で臨む必要がある』と考えました」

 

シンガポールの場合、中華系のシンガポール人にルールを守らせるようになったら、他の住民も自然にそうなるのだという。
厳しい罰金制度の理由は、「シンガポールが多民族国家だから」ということより中華系のシンガポール人をターゲットにして導入されたものらしい。

つまり、リー=クアンユーは荀子(じゅんし)の「性悪説」でシンガポール統治を考えたということ。

性悪説【せいあくせつ】

人間の本性は悪なりとする説。人の欲望は自然のままに放置すると社会を破滅させてしまう,ゆえに人の欲望は悪であり,これを礼によって整え,社会的秩序を維持せねばならないという。

「百科事典マイペディアの解説」

この文の中の「礼」を「罰金」に変えたら、そのままシンガポールになってしまう。

まずは、中華系のシンガポール人を政府の指示に従わせることを考えた。
それには厳しい罰金制度が有効だ。
その方法は他の民族にも通用するから、それで結果的に、多民族国家をうまく治めることができるようになる。

厳しい罰金制度にはそんながある背景があるのだろう。

 

 

シンガポールは本当に厳しい。
外国人にも容赦がない。

1994年にはアメリカ人の少年がムチ打ち刑を受けて、国際問題になっている。

この少年は自動車を壊したり落書きをしたりしたけれど、人にケガを負わせるようなことはしていない。

落書きや車の破損なら元に戻すことはできる。
でも、ムチ打ちによるからだの傷が消えることはない。
アメリカ大使館はシンガポールにそう伝えていた。

the punishment of caning was excessive for a teenager who committed a non-violent crime. The United States embassy in Singapore pointed out that the graffiti damage to the cars was not permanent, but caning would leave Fay with physical scars

Michael P. Fay

「暴力行為をしていない10代の少年にムチ打ち刑というのは、人権問題になる」ということで、当時のアメリカ大統領がシンガポールの大統領に連絡をして減刑を求めた。

それでもシンガポールはこの少年に刑を執行している。

シンガポールは本当に厳しい国なのだ。
でもルールを守っていれば問題はない。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。