海外では、駅や空港などの公共施設に、その国で活躍した人物の名前をつけることがよくある。
たとえば、台湾の台北にある国際空港は「中正(蒋介石)国際空港」だった。
蒋介石(しょうかいせき)は中華民国の初代総統。
蒋介石の本名は「中正」だから、そこから「中正国際空港」が生まれたわけだ。
むかしはチャイナエアラインの機内放送で、「まもなく当機は、蒋介石国際空港に到着します」なんて言っていた。
でも、2006年に名称が「桃園国際空港」に変わる。
歴史上の人物は、時代が変わると評価や人々の意識も変わることがあるからやっかいだ。
この他にも、韓国では地下鉄の駅名に英雄の名前が使われていたし、タイでは国王の名前が大学・道・病院の名称になっていた。
日本人はこういうことをあまりしない。
有名人の名前を道や駅の名称にすることは本当に少ない。
高知には「龍馬空港」、岡山県には「宮本武蔵駅」があるけど、これは例外的。
宮本武蔵駅
画像は美作市の観光情報サイトから。
アメリカでも「ジョン・F・ケネディ国際空港」のように、公共施設に偉人の名前をつけることがある。
今回はアメリカの「イノウエ空港」と「ヤマモト学校」を紹介しようと思う。
まずは、去年(2017年)、ハワイ州に誕生した「イノウエ空港」から。
イノウエとは、ハワイ出身の日系人「ダニエル・イノウエ(井上 建)」のこと。
イノウエ氏は太平洋戦争のとき、アメリカ軍の日系人部隊に所属してたたかっていた。
このとき彼はドイツ軍との戦闘で右腕を失う。
その後イノウエ氏は政治家になって、活躍の場をアメリカの政界にうつす。
彼が下院議員になって初めて登庁した日には、こんなことがあった。
ふつうアメリカの議員は右手を挙げて宣誓をすることになっているのだけど、彼にはそれができない。
イノウエ議員は左手をあげた。
「us-lighthouse」のコラム(2005年8月1日号掲載)から。
「右手がなかったのである。第二次世界大戦で、若き米兵として戦場で失くしたのだ。その瞬間、議会内に漂っていた偏見が消え去ったのは、誰の目にも明らかであった」と議事録に記録がある。
その後、彼は上院仮議長に選ばれる。
日系アメリカ人だけではなく、アジア系のアメリカ人が得た地位としてはアメリカ史上、これが最上位。
また、日米友好に貢献したことから、アメリカ政府から「自由勲章」を授与された。
一般市民への勲章としては、これも最高位のもの。
イノウエ氏は2012年にこの世を去る。
当時のオバマ大統領は「真の英雄を失った」との声明を発表した。
アメリカ人は、「イノウエ」を忘れない。
2013年に、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦が「ダニエル・イノウエ (DDG-118)」と命名された。
そして2017年には、ホノルル国際空港が「ダニエル・K・イノウエ国際空港」に改名された。
ホノルルはハワイ州最大の都市で、ここの国際空港はハワイの空の玄関口になる。
日本経済新聞の記事(2017/5/31)では、ホノルル市長がこう話している。
「イノウエ氏はこういうことを望んでいなかったかもしれないが、次世代に彼の功績を伝えることができる。『イノウエ』は発音しにくいかもしれないが、皆に覚えてもらえると思う」と述べた。
ハワイ「イノウエ」空港に改名で式典 看板も変更
ダニエル・K・イノウエ国際空港(ウィキペディアから)
次は「ヤマモト学校」。
このヤマモト学校はまだ正式に決まってはいない。
じつは、ちょっとした問題が起きているから。
カリフォルニア州にある中学校が校名を変えることにした。
「新しい校名はどんなものがいいと思いますか?」と地区の委員会が公募したところ、1600以上の学校名が集まる。
この中から、委員会が8つの候補を選んで発表する。
ここに「ヤマモト」がふくまれていた。
読売新聞の記事()によると、ヤマモトさんはこんな人物。
ヤマモト氏はパロアルトの高校を卒業。第2次世界大戦中、日系人強制収容所に入れられたが、その後、米陸軍に入隊し、欧州戦線で戦死。功績をたたえる「銀星章」を受章した。
「山本五十六」想起校名、米で物議…中国系反発
これから教育委員会が多数決をおこなって、新しい校名を決めることになっている。
でも、記事のタイトルにあるように、「ヤマモト」という名前に中国系の人たちが反発している。
彼らにとって「ヤマモト」は、「山本五十六」を連想してしまうから。
山本五十六は、太平洋戦争のときに連合艦隊司令長官をしていた軍人で、真珠湾攻撃を指揮したことでも知られている。
中国系の人たちにとっての「ヤマモト」はこっちの山本だから、「ヤマモト学校」を嫌がっている。
なかには、「ユダヤ人学校の校名に『ヒトラー』とつけるようなもの」と極端なことを言う人もいるらしい。
新しい校名は27日に決まる予定だけど、はたして「ヤマモト学校」は誕生するだろうか?
このニュースには、ネットでこんな声があがっている。
・ヤマモトと聞くと五十六よりも海苔を思い浮かべるけどな
・福岡県民に「ヤマモト」というと100%「山本華世」と答える
これマメな
・日本人名が気に入らないだけなんだよな
・カリフォルニアもうまいですなあ。
こうやってアジア人同士を対立させて勢力を削ぐんですかな。
・じゃ、リンミンメイにするよ
・ 北海道ではスタルヒン球場に文句いう人いないな
ソ連の人なんだが
・ヤマトにしてほしかった
・とりあえず反日しとけって感じだな(笑)
それにしても、人名を公共施設の名称にするのは、やっぱりむずかしい。
同じ人物でも、どうしても、人によって見方は違ってくる。
ドイツでも最近、特急列車に「アンネ・フランク」という名称をつけようとしたら、「ふざけてんのか!」とぶったたかれた。
マケドニアの国際空港は「アレキサンダー大王空港」というのだけど、ギリシャ人は「アレキサンダーはギリシャ人の英雄だ」と怒っている。
*マケドニアはこの空港の名称を変更することを発表した。
人名はいろいろとメンド―だから、駅や空港の名称は、自然や地名からとったほうがいい。
ちなみに、フィリピンでもっとも有名な日本人も「ヤマシタ」だ。
くわしいことはこの記事をご覧ください。
日韓の慰安婦問題、海外の反応は?アメリカ、イギリス、中東での表現
山本五十六(ウィキペディアから)
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