はじめの一言
「彼らの無邪気、率直な親切、むきだしだが不快でない好奇心、自分で楽しんだり、人を楽しませようとする愉快な意志は、われわれを気持ちよくした。
(ブラック 明治時代)」
「逝きし日の面影 平凡社」

今回の内容
・絶対に負けられない戦い
・敗者の名誉も守る
・「本当ですか?日本人はやさしいですね」
・絶対に負けられない戦い
「絶対に負けられない戦い」
というものは、今の時代にはない。
負けても次があるし、まあなんとかなる。
でも、明治時代にはそんな戦いがあった。
これに負けたら「次」はなく、そこですべてが終わりという戦いが。
その一つが「旅順占領」だ。
バルチック艦隊の極東回航前にロシア太平洋艦隊の基地旅順を潰滅するため、1904年6月かから乃木希典司令官の第三軍が攻撃、3度の肉弾攻撃に失敗、多大の犠牲を払った末、203高地を攻略。1905年1月、守備軍司令官ステッセルが降伏した。
(日本史用語集 山川出版)
もし、この戦いに負けていたら日本は日露戦争に負けていただろう。
そうなったら、ロシアの植民地になっていた可能性もある。
ああ、恐ロシア。

日露戦争で日本を支援したイギリスの国旗
大連の博物館
・敗者の名誉も守る
この旅順での戦いに勝利したことを聞いた明治天皇は、こう言われた。
日露戦争において旅順陥落の知らせを聞いた明治天皇の最初の発言は、降伏したロシアの将軍ステッセルの武人としての名誉を大切にせよというものでした。
よかったとか、すばらしい勝利だということではなかった。敵の将軍のことを心配していたのです。これは立派な態度だと私は思います。
(明治天皇を語る ドナルド・キーン)
「負けた人間の名誉を大切にする」
これは明治天皇だけがもっていた考えではなかった。
明治天皇が好きだった西郷隆盛もこの考えをもっていた。
江戸城無血開城のときの西郷の態度を、勝海舟はこうほめている。
「少しも戦勝の威光でもって敗軍の将を軽べつするというようなふうがみえなかった
(氷川清話 講談社学術文庫)」
こういう薩摩の武士の魂が、明治天皇や乃木希典に伝わったのかもしれない。
明治天皇は、西郷隆盛が好きだったし。
そもそも乃木希典は、薩摩出身だしね。

激戦のすえ、203高地を制した
でも、「敗軍の将の名誉を守る」という美風は、明治の日本人に広くいきわたっていた。
イザベラ・バードというイギリス人は、日清戦争のときに日本人のその気持ちにふれて感激している。
このとき日本人は、日本軍と勇かんに戦って負けた清軍の左宝貴(さほうき)という将軍のために、次のような碑を建てていた。
将軍が斃れたと思われる地点にはまわりに柵をめぐらした端正な碑が日本人の手で立てられており、その一面にはこう記してある。
奉天師団総指令官左宝貴ここに死す。
またべつの面にはこうも記してある。
平壌にて日本軍と戦うも、戦死。
敗軍の名将に捧げた品位ある賛辞である。
(朝鮮紀行 イザベラ・バード )

旅順での戦いのあとの会見(ウィキペディアから)。
真ん中が乃木希典。
・「本当ですか?日本人はやさしいですね」
「戦いが終ったら勝者も敗者もない」
という考え方は、日本にはむかしからあった。
鎌倉に円覚寺(えんがくじ)というお寺がある。
ここに、台湾人、香港人、タイ人といったときに彼らがこの寺の由来をしって驚いていた。
この寺は、元寇があったときの執権「北条時宗」がたてている。
「国を守ってもらう」という理由のほかに、「元寇で日本と戦った元や高麗の死者をともらうため」というものがあった。
国家の鎮護、禅を弘めたいという願い、そして蒙古襲来による殉死者を、敵味方の区別なく平等に弔うため、円覚寺の建立を発願されました。
「敵の魂まで、日本人と同じようにとむらう」
このことが台湾人、香港人、タイ人には「考えられない」ということだった。
「中国人なら、絶対にしませんよ」
香港人は断言していた。
でも、「敵や敗者をとむらう」ということをさかのぼったら、平安時代のアテルイにまでいきつくかもしれない。
清水寺には京都から派遣された坂上田村麻呂と戦った東北の人「アテルイ」と「モレ」の碑がある。
二人は平安朝廷の東北平定政策に対して勇敢に戦いましたが、郷土の犠牲に心を痛め、征夷大将軍・坂上田村麻呂公の軍門に下りました。将軍は両雄の武勇、器量を惜しみ朝廷に助命嘆願しましたが、許されず処刑されてしまいました
石碑は、平安建都1200年を期して1994(平成6)年に有志により建立されました。

このアルテイの碑の理由をいっしょにいた韓国人の友人に話すと、驚いてこういっていた。
「本当ですか?日本人はやさしいですね!」
負けた人間には同情ではなくて、敬意をしめす。
日本人のこんな良いところは、今でもきっとあるはず。
今回の内容に興味をもったら、「丁汝昌(ていじょしょう)」も調べてほしい。

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