日本にいる外国人から、ときどきこんなことを聞く。
「日本人って信仰心ないよね。宗教に関心ないし」
仏教と神道のちがい、お寺と神社のちがいを聞いても「よく分からない」と言う日本人が多いという。
お寺なのに柏手(かしわで)を打つ日本人がいたとか。
さすがにそりゃマズイね。
でも日本はそんな国。
宗教について知らなくても、生活で困ることはない。
それに宗教心があんまりないから、日本では宗教の争いが起こらない。
それで在日インド人は、「それが日本の素晴らしいところだ」とほめていた。
インドはこの逆。
「ヒンドゥー教徒にとって神聖な牛を、イスラーム教徒が殺した!」ということで、そのイスラーム教徒がヒンドゥー教徒に殺される事件は今でもたまに聞く。
「日本人って信仰心ないよね。宗教に関心ないし」という点では、日本人より中国人のほうがきっと上。
信心のない日本人でも、受験の前には神社やお寺に行って合格祈願をする。
でも、「私は合格祈願を一度もしたことがありません」と言う中国人に何度か会ったことがある。
そんな日本人は見たことない。
生まれてから一度も合格祈願をしたことがないという人が、日本にどれだけいるのか?
ただ中国では、本人ではなくて親が祈願に行くことが多いらしい。
こんなことがあったから、レコードチャイナの記事(2016年1月12日)を見ても、「やっぱりね」という感じ。
米国ピュー研究所が2015年末に発表した宗教や信仰に関する調査によると、宗教や信仰が重要と考える中国人はわずか3%で、世界平均の55%と比べて極めて低く、ワースト2位である日本の11%と比べてもずっと低かった。
「信仰心のなさ」では、中国人と日本人が世界のワンツーだったとは。
では、なんで中国人は信仰心がうすいのか?
中国人の日本語ガイドに聞くと「それはきっと、文化大革命のせいですよ」と言う。
文化大革命とは、1970年前後の中国で起きていた政治・権力闘争のこと。
これは毛沢東の主導による。
この文革によって中国社会は破壊された。
高校世界史ではこう習う。
文化大革命
全国的に社会機能は混乱し、流血の武闘によって数百万人の死傷者が出たとされる。(中略)80年、中国共産党による歴史決議で文化大革命の路線は完全に否定された。
「世界史用語集 (山川出版)」
文化大革命での死者は、40万人から1000万人以上と幅広い説がある。
ウィキペディアでは、「これにより1億人近くが何らかの損害を被り、国内の大混乱と経済の深刻な停滞をもたらした」と説明している。
文革による被害はどれぐらいなのか?
規模が大きすぎて誰にも分からない。
文化大革命では、下の人間が上の人間に打ち勝つという「下剋上」が起きていた。
学校では、生徒が先生や校長をつかまえて、自己反省をさせたりリンチをしたりしていた。
中学生が先生を殺してしまうようなことも起きている。
宗教も同じ。
上と下が逆転してしまった文革時代には、神や仏が人間より”下”になってしまった。
紅衛兵と呼ばれる人たちが、中国全土で道教や仏教のお寺を壊しまくる。
このとき多くの神像や仏像もたたきつぶされた。
天安門広場に集まる紅衛兵(1966年)
文化大革命のときの中国について、「mag2」の記事(2016.05.19)にこう書いてある。
ガーディアン紙は文革について、政治的、社会的混乱の10年間と語り、また20世紀の中国で、最も破壊的かつ後世を決定づけた出来事の1つと位置づけている。
文革当時、学生は、教師や、親までも含めて、権威ある人物を弾劾することが求められたし、伝統的な道徳と方針が攻撃され、仏教寺院が外観を汚され、破壊された、と同紙は伝えている。
これは「huffingtonpost」の記事(2014年08月29日)。
この運動の熱狂的信者たちは数千年に及び中国の思想の基盤として位置づけられてきた仏教及び儒教の寺院を冒涜した。
これが中国人の宗教観に影響をあたえないはずがない。
ボクが話を聞いたガイドは文革時代に大学生をしていた。
その当時は毛沢東主席が絶対で神も同然。
毛主席の考え方に反する存在は、学校の先生でも神でも許されない。
子どもが毛主席に批判的な親を、当局に密告することもあった。
ガイドもそのころは「信じられるのは毛沢東主席だけ」という状態で、それに反する人やものがあれば、自己反省をさせたり壊したりしていた。
文化大革命を経験したガイドは、これが中国人の信仰心に決定的な影響をあたえたと話す。
「あの前後で、中国人は変わってしまいました」としみじみと言う。
「宗教や信仰が重要と考える中国人はわずか3%で、世界平均の55%と比べて極めて低く」ということの理由に、文化大革命の影響があることは間違いない。
むしろ、「ワースト2位である日本」の理由の方が分かりにくい。
日本では、文化大革命のような宗教心がひっくり返るようなことがなかったと思うのだけど。
おまけ
文化大革命は下剋上の時代。
中国人ガイドは、「生徒が教師を殴ったり、髪の毛をそってしまったりした」とか「子どもが親を密告することもあった」と話していた。
その「後遺症」でいまも苦しんでいる人がいる。
文革のときに先生や親にひどいことをしてしまい、それをずっと後悔しながら生きていた。
それで最近になって、そのときのことを当事者に謝罪したり世間に告白したりする人が出てきた。
たとえば、「epochtimes」にはこんな記事(2010年11月11日)がある。
かつての紅衛兵らがかつての先生に公開謝罪する手紙が、中国紙・南方週末に発表された。謝罪するかつての教え子に、先生たちは「あなた達も時代の被害者だった」と応えた。
自分が密告したことで、母親がひどい目にあってしまった人もいる。
AFPの記事(2013年8月12日)から。
張氏は1970年に自分の母親が毛主席を批判したことを通報した。軍の当局者らが家にやって来て母に暴行を加え、連れ去った。
連れ去られたあと、母親は銃殺された。
張氏はいまも自分を「決して許せない」と言っている。
共産主義にとって宗教は打倒するべきものですから。それよりも日本のような先進国で共産党なんてものが存在出来ている事の方が私には理解が出来ません。
日本は民主主義の国ですから、いろいろな考え方や価値観がありますよ。
役割を終えれば自然となくなります。
まだあるということは、それを必要としている人がいるということですね。