静岡県の袋井市はメロンで有名だけど、3月になると、「これでもか!」とばかりにひな人形が飾られる「可睡斎(かすいさい)」というお寺もわりと知られてる。
それが上の写真で、この圧倒的なひな壇はもはや「崖」。
これを前にすると、誰もがアフリカ・ドゴン族の「バンディアガラの断崖」を思い出すという話はとくに聞いたことがない。
でも、「可睡斎のひな人形はすごい」という話は聞いていたから、先週、インド人とミャンマー人とスリランカ人と見に行くことにした。
外国人が日本のお寺や神社を見ると、ときどき思わぬ反応を示すからおもしろい。
母国の価値観や常識にもとづいて日本のものを見るから、日本人にはないような発想も出てくる。
さて、インド人がひな人形を見たら何を思うのか?
世界遺産でもあるマリの「バンディアガラの断崖」
インド人は基本的に写真が好き。
可睡斎の入り口にあったこのひな人形を見ると、さっそくスマホを取り出す。
インド人は写真が好きだけど、自分はもっと好き。
ひな人形の写真を撮ったあと、今度はそれをバックにセルフィー(自撮り)。
そのあと「一緒に写ろうぜ」と誘って、みんなでセルフィー。
それをインスタグラムにのせて、知人友人が食いつくのを待つ。
まあ、日本人も似たようなものか。
「入り口でどんだけ時間つかってんだよ」と内心思っていると、インド人がひな人形を見ながらこんな質問をする。
「これはカースト制なのか?」
そうそう。
こんな人形を見たら、誰だってカースト制度を連想するわけねーだろ。
なんでここでそれ?
カーストって、中学校で習ったヒンドゥー教の4つの身分のことでしょ?
*下の4つは「ヴァルナ」というけど、ここではカーストとしておく。
バラモン:ヒンドゥー教の儀式をおこなうことができる神職者(坊さん)
クシャトリヤ(またはラージプート):政治をおこなう王や貴族。もちろん戦いも彼らの仕事
ヴァイシャ:物をつくったり売ったりする市民や庶民
シュードラ:奴隷や労働者
さらに、この4つのカーストに入ることができない「ダリット」と呼ばれる人たちもいる。
ひな人形は知ってる。
カーストの身分制度も知ってる。
でも、そのつながりが見えない。
‥と思ったけど、考えてみればこのひな壇は「カースト別になっている」と言えるかもしれない。
というわけで独断ながら、この「カースト視点」からてひな人形を見てみよう。
天皇皇后がモデルといわれる「内裏雛(だいりびな)」の“カースト”はクシャトリヤで間違いない。
その下の三人官女(宮中に仕える女官)のカーストが微妙。
仕事は召使いだから、たぶんシュードラ。
音楽を演奏する五人囃子(ごにんばやし)もシュードラだろう。
ボディガードの随身(ずいじん:右大臣と左大臣)は戦いが仕事だから、クシャトリヤ・カーストの人たち。
3人の仕丁(しちょう)はお付きの人間で護衛でもある。
護衛ならクシャトリヤだけど、「日傘をかざす」とか「えらい人の履物をあずかる」といった仕事はシュードラのものだろう。
上から五人囃子、随身、仕丁
「これはカースト制なのか?」とインド人が言ったから、てっきり上のようなことを聞いているかと思ったのだけど、じつはちがった。
彼は「これは世襲制か?」ということを聞きたかったのだ。
カースト制度では親の職業がそのまま子どもの職業になる。
バラモンの子はバラモン、クシャトリヤの子にクシャトリヤだ。
カースト・システムおいてこれは義務だから、「職業選択の自由」なんてものはあり得ない。
この視点から見てみると、お内裏様(天皇皇后)は子供も貴族の身分になるからこれはカーストだ。
あとの随身・三人官女・五人囃子・仕丁が分からない。
こういう人たちも、生まれたときに親の仕事を継ぐことになっているのだろうか?
だったらカースト制だし、自分で職業を選べるのならそうではない。
そんな話をインド人にすると、「なるほど」と納得していた。
ムガール帝国時代のインドなら、王宮での仕事は親から子に引き継がれるから、すべてカースト制になっていたという。
なるほど。
それにしても、さすがインド人。
ひな人形を見て、カーストが気になるのは彼らぐらいだろう。
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