韓国には「破虜湖(パロこ)」というダム湖がある。
「なにそれ響きがかわいい」というボクの知的水準から言うのもなんだけど、これを知っていたらけっこうな韓国通、歴史通だと思う。
韓国の地方にある破虜湖には深い意味がある。
韓国メディア・朝鮮日報によると、この湖のあたりは1951年の朝鮮戦争のとき「韓国軍と国連軍が中国軍を全滅させた戦場」だった。
同じく韓国メディアのハンギョレ新聞は、「韓米連合軍が中国軍との戦闘で2万4141人を射殺する大勝を収めた」と書いている。
ただ大勝利の「代償」も大きく、当時の韓米連合軍は中国軍兵士の死体の処理にこまってしまった。
それでブルドーザーなどを使って、戦場に散らばっていた死体を湖に投げ込んだという。
悪く言えば放棄、良く言えば水葬だ。
でも待ってほしい、ここはダム湖。
つまり、ここの水を生活用水として使う住民がいるのだ。
(いまは骨だけかもしれないけど)2万を超える死体が眠っている湖の水を飲んでいることになる。
こうした事情もあって、ここに沈んでいる中国人の死体を掘り起こして中国側に引き渡そうという動きもある。
くわしいことはハンギョレ新聞の記事(2018-06-26 )をどうぞ。
重装備動員し中国軍の遺体を破虜湖に水葬
その後、李承晩(イ・スンマン)大統領がここを訪れたとき、このときの大勝利を記念してこの湖を「破虜湖」と名付けた。
これは「虜(異民族・蛮人)を打ち破った湖」という意味になる。
韓国人にとっては誇らしく、中国人には屈辱的だ。
戦争で亡くなった2万以上の同胞の魂がいまもあって、その湖が「野蛮人を打ち破った」と呼ばれている。
中国は共産党が治める国だけど、儒教の影響があるから先祖を尊ぶ考え方は強い。
それで韓国を訪れる中国観光客の間から「不快だ」という声が上がる。
そしてそれを中国外務省が吸い上げて、韓国側に湖の呼び方を変えるよう要求した。
これに対して韓国では、「韓民族の勝利の記録を中国側の思い通りに変えろというのだ(朝鮮日報)」という反対意見がある一方で、中国がそう言うのならと呼称の変更を考える動きもある。
現状ではその方向に進んでいるらしい。
破虜湖がある江原道は新しい湖名として“本来の名称”である「大鵬(テブン)湖」を検討しているとか。
まあこれは韓国の問題だから、「テブンこ」でも「パロこ」でも好きな方を選べばいい。
響きなら後者だ。
でもこれは、正義の国・大韓民国にとってはまったく悩ましい問題だ。
韓国には「心の痛みを訴える人が被害者だ」というストレートな考え方があって、政府はそういう人たちを救って間違った過去を正す責任がある。ということを文政権はよく言う。
「その呼び方は気分が悪い」と被害を訴える人がいるのなら、文大統領にはその声に応える義務がある。
正義を叫ぶなら、その重みも背負わないといけない。
正義が好きな人は大変だ。
1951年、この付近で激しい戦闘がおこなわれた。
韓国という国は伝統的に中国に弱い。
日本人からすると、中国がうらやましくなるほど韓国は弱い。
「西高東低」というのは日本の冬型の気圧配置で、「西低南高」といえば韓国の外交姿勢になる。
韓国は中国には頭が上がらないけど、日本にはいつも上から目線。
なんだかんだ言って結局、韓国は中国の要求をのむだろう。
良い悪いの問題ではなくて伝統だ。
でもそんな韓国を無知で事大主義と怒る人もいる。
朝鮮日報のコラム(2019/05/28)
「破虜湖」改名を推進する韓国政府の無知と事大主義
まず地名の変更は「韓国の大勝利」という歴史も消してしまう。
それと先ほど大鵬湖を“本来の名称”と書いたけど、正確にいうとそれは間違い。
この湖は1944年にできた人工湖で、それをつくったのは日本人だった。
大鵬湖は日本統治時代に付けられた名前だから、「本来の名称に戻す」という江原道の姿勢は植民地時代の名称にしてしまうことなる。
これは韓国にとって問題だ。
韓国では日本植民地時代の遺物を「日帝残滓(にっていざんし)」と呼んで、これを敵視し、社会から消し去る運動がさかんにおこなわれている。
でも「家族」や「大統領」などの言葉や通貨の「ウォン」など、韓国社会にある日帝残滓はたくさんあるのだけど。
くわしいことはここをどうぞ。
社会からなくすべき日本風の呼称をなんでいま復活させるのか?
それに歴史的背景を無視して、中国の要求にただ従うのは事大主義だ。
*事大主義とは「自分の信念をもたず、支配的な勢力や風潮に迎合して自己保身を図ろうとする態度・考え方(デジタル大辞泉)」
現状では中国観光客が怒るけど、湖名を変更すると、輝かしい勝利の歴史はきっと消えてしまう。
かといって大鵬湖に変えれば植民地時代に逆戻りだ。
中国の怒りか民族の誇りか日帝残滓か?
地方の湖の呼称問題だけど、韓国にとってこれは究極の選択だ。
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