韓国のホルホル記事②ヨーロッパ文明の父!高仙芝と製紙法

 

さて、前回に続いて韓国の楽しいホルホル記事を見ていこう。

でも初めてこのページを見てくれた人は、チョイとおさらいをしておこうか?
「タラス河畔の戦い」と「ホルホル」を知ってるよ、という人は先に進んで。

何それ?
というと人は、下を読んで。

人類で初めて製紙法(紙の作り方)を発明したのは、中国人。

そして、その製紙法はタラス河畔の(かはん)戦いによって、8世紀(751年)にイスラーム圏の国に伝わる。
その後、12世紀ごろにはヨーロッパにも伝わった。

これがいわゆる「製紙法の西伝(せいでん)」というもの。

 

このタラス河畔の戦いでは、「唐(中国)」と「アッバース朝(イスラーム教の国)」が戦った。

「タラス河」は今のキルギスという国にある。

 

この戦いでの唐軍の将軍は、「高仙芝(こうせんし)」という人。
この人は、高句麗系の人。

高句麗(こうくり)」とは、韓国の昔の国。
日本が弥生時代や飛鳥時代だったときに、朝鮮半島にあった国。
つまり、高仙芝と今の韓国人と同じ血でつながっている(と韓国では考えられている)

ここがポイント。

・この戦いに高仙芝は負けて、退却した。
・このときイスラーム教の国につかまった中国軍の捕虜のなかに、製紙法(紙の作り方)を知っている人がいた。
・結果的に、製紙法がイスラーム圏とさらにヨーロッパに伝わって人類の歴史を変えた。

 

これらのことをもって、韓国の週刊誌が「製紙法を伝えたのは我らが先祖だった!」と、韓民族の偉大さを伝えるコラムをのせている。

こういうのを「ホルホル」という。
ホルホルとは「헐헐」という韓国語で咳払いの音をあらわす言葉(日本語の「エッヘン」に近い)で、そこから転じて、日本のネットでは、自慢げな様子や誇らしい様子をあらわす言葉として「ホルホルしている」なんてつかわれる。

 

日本人に比べて韓国人は愛国心が強い。
そんな韓国人が、「韓国は偉大だ」「われら韓民族を誇りに思う」と満足しているような様子を見せる。
そんなのときに、日本人が「ホルホルしてるね」と使うネットの言葉。
でも、これは韓国人だけに対する言葉ではない。「日本すげえ!」という日本人に対しても、「あいつ、ホルホルしてる」と使うこともある。

このホルホルについては、前にくわしく書いたから、興味がある人は見て。

最近、ネットで見る日本と韓国の「ホルホル」とは。意味や具体例

 

このホルホルという言葉には、いろいろなニュアンスがある。
相手をバカにするニュアンスをこめてこの言葉を使うこともある。

でも、この記事で使うホルホルは、韓国人に親しみを込めたもの。
人が自分の国を誇らしく思うことは、自然なことだし大切なことでもある。
むしろこの点では、日本人は韓国人を見習ってもいい。
もっと「日本ホルホル」すればいい。

 

 

さっきも書いたけど、韓国人は愛国心が強い。

韓国という国や韓民族という民族に対する誇りも高い。
だから、韓国ではそんな自尊心を満たすために、「韓国は偉大な国だ」「韓民族はすばらしい民族だ」といった記事やコラムがよくある。

今回紹介する韓国の「ホルホル記事」も、そんなもの。
韓国人はどんな人たちなのかも分かって面白い。

 

そのホルホル記事というのが、「週刊東亜(韓国語)」にあるこのコラム。

【韓国歴史】 高句麗人の末裔、高仙芝はヨーロッパ文明の父~これは中国史?韓国史?

 

では、このコラムを前回からの続きを読んでいこう。

このため、チ・ペソン延世大歴史文化学科教授は「高仙芝評伝」で製紙技術伝播の触媒の役割をした高仙芝を「ヨーロッパ文明の父」と呼ばなければならない、と主張する

 

「(われらと同じ韓民族である)高仙芝を『ヨーロッパ文明の父』と呼ばなければならない」

このようにいい切る強さに、韓国人が韓民族を誇らしく思う様子が伝わる。
こういうのを「ホルホルしているね」という。

もう、韓国らしさ全開。

 

さて、どこからツッコもうか?

まず「『ヨーロッパ文明の父』と呼ばなければならない」って、これは誰が呼ばないといけないの?
韓国人だけだよね?
人類には関係ないよね?

 

「製紙技術伝播の触媒の役割をした」

へえ、触媒ですか。

触媒(しょくばい)とは「化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応の速度を変化させる物質(デジタル大辞泉の解説)」というもの。

 

「触媒」っていうけどさ、高仙芝(こうせんし)は具体的に何をしたの?
前回にも書いたけど、高仙芝がしたことはタラス河畔の戦いで負けたこと。
そして撤退したこと。

その結果、たくさんの中国人が捕虜としてイスラーム教徒の軍に捕まった。
そして、そのなかに製紙法を知っている人がいた。
それだけ。
ザッツ・オール。

 

このことを、韓国語で「触媒」と表現するのか。
なるほどね。

 

 

でも高仙芝は、製紙法がイスラーム教徒に伝わったことを知らなかったんじゃないの?
本人は製紙法をイスラーム教徒に伝えようとしていたわけじゃない。

高仙芝はイスラーム軍に捕まった捕虜のなかに、製紙法を知っている人がいたかを知っていたのか?
たぶん、知らなかったんじゃないかな。

 

要するに、こういうことだ。

製紙法がイスラーム側に伝わったことについて、高仙芝は直接の関係はない。
高仙芝が戦いに負けて軍を引き上げたことで、結果として製紙法がイスラーム側に伝わったということだから。
偶然に偶然が重なっただけ。

 

このコラムを書いた人も、高仙芝の働きと製紙法の西伝にはほとんど関係がないことを知っていたのだろう。
だから、「触媒」という分かりにくい表現をしたんだと思う。

 

こんなあいまいな根拠で、「『ヨーロッパ文明の父』と呼ばなければならない」と高らかに宣言してしまうところがすごい。

でも、韓国人ならそうこなくちっちゃ。
それぐらい誇らしくホルホルしてほしい。
ここまで堂々とするかは別として、遠慮がちな日本人も韓国人の「ホルホル」に見習うところはある。
韓国人がするように、もっと日本の良さを日本人に積極的にアピールしたらいい。
韓国人と同じことをする必要はないけどさ。

 

「最近、日本を持ち上げるホルホル番組が多くて、気持ち悪い」という人もいる。

でも、韓国のホルホル番組やホルホル記事に比べたら、まだまだ。
日本ホルホルなんて、韓国には遠く及ばない。

このコラムの続きは、また次回に。

 

今回の復習

・「タラス河」は現在のどこの国にある?
・タラス河畔の戦いのときの唐の将軍はだれ?
・化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応の速度を変化させる物質はなに?

 

答え

・キルギス
・高仙芝
・触媒(しょくばい)

 

おまけ

2016年の10月にも韓国の「ハンギョレ新聞」にホルホル記事があったから、のせておきますね。

[インタビュー]「千年の紙」韓紙を抱き大阪へ向かった民主闘士

「中国を通じて韓国に伝えられた紙を、高句麗の僧侶の曇徴(タムジン)が610年に日本に伝えたのです。その後、高句麗出身の高仙芝(コ・ソンジ)将軍によって再び西洋に伝播されました」。

 

まず、「高句麗出身の高仙芝(コ・ソンジ)将軍」については、記事に書いたとおり。
「高句麗の僧侶の曇徴(タムジン)が610年に日本に伝えたのです」という説はある。
でも、曇徴が伝えたという確証はないため、「その可能性はある」というていどの話。中国の製紙法が朝鮮半島をとおって日本に伝わったことは、間違いないだろうけどね。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。