海外にはない!?日本人の信仰と動物愛護精神「ペット観音」

 

神奈川新聞にこんな記事(2019年09月13日)があった。

ペットなどの火葬施設を廃止へ 横須賀

神奈川の横須賀市が2020年3月に、小動物火葬施設を廃止することにした。
そうなると、もうここでペットを火葬することができなくなる。
その後はペットを「ごみ処理施設で処分する」という。
これに動物愛護協会は「家族の一員をごみとして扱うのは納得ができない」と反発し、反対の署名活動を始めた。

ただ、この決定を支持するのも市民だ。
市が廃止を決めた理由はこの施設が老朽化したことに加えて、地元住民から施設の更新を望まない意見が上がっていたから。

民間のペット葬儀業者に頼めば「ごみ処理」扱いはまぬがれるけど、それなりの費用がかかる。
いまのままだと来年3月以降は、ペットの飼い主は葬儀業者かごみ処理施設かの選択をしないといけなくなる。

「市民 vs 市民」という対立構造だから横須賀市も大変だ。
ただネットを見ると、市の対応を支持する人のほうが多い。

・税金使ってまでやる必要はないんでは
・うちの地元は人間用の火葬場で焼いてくれるけどな
・横浜民は長年可愛がったペットが死んだらごみ袋にぶちこんで捨てるの?
・民間のペット火葬業者いっぱいあるじゃん
・別に協会で土地と最新の火葬場を用意するなら市もokだすんやで
・ゴミ処理場って言ったってゴミと一緒に燃やすわけじゃないんだし
・専用がない自治体在住だけど、連絡して市に取りに来て貰うかたちだな。
うちは段ボールる入れて渡した。

ボクの場合は飼ってた犬が死んだあと、自宅の庭に埋めて盛土をしたのだけど、いまではこのスタイルは古いのか。

A:かわいいペットをごみ処理施設で処分するというのは納得できない。
B:じゃあ、民間業者に頼めばいい。
A:そういう問題じゃない。

という争いは日本以外の国でもあると思う。
でも、こんな「ペット観音」のような存在は日本以外に聞いたことがない。

 

 

観音菩薩の化身のひとつ「馬頭観音」は馬の守護仏で、死んだ馬を供養するために祀られることがある。
そこから馬だけではなく、すべての畜生を救う観音ともされている。
でも馬頭観音は下のような怖ろしい顔をしているから、上のペット観音はこれとは違うと思う。

くわしいことは馬頭観音をクリック。

 

上のペット観音は浜松のお寺にあるものだ。
いままでこのお寺に、インド人、タイ人、香港人、台湾人、インドネシア人、アメリカ人、イギリス人、ドイツ人、トリニダードトバゴ人などさまざまな外国人を連れて行って話を聞いてみたけど、母国にペットを供養するための神や仏がいるという話を聞いたことがない。

アメリカ人やドイツ人は、ペットのための神なんてキリスト教の考えにはないと言う。
「こういうのを見ると日本人は生き物に対して愛情があると思うけど、クジラやイルカを殺して食べるのを聞くと残酷だと思う」と話す。
「やかましい」と思うけど、まあこれは欧米人の視点だ。

猿や牛などを神聖視するヒンドゥー教徒のインド人の話では、生きている動物なら大事にするけど、死んだあとは気にしないという。

スリランカ人は一般的に仏教への信仰があつい。
ここに連れてきたスリランカ人はなるべく殺生はしない主義で、蚊をたたいて殺すことはない。腕や足に止まった蚊にフッと息をかけるだけ。
でも気分や状況によっては、バシッとあの世に送る。
そんな動物愛護と仏教の精神をもつスリランカ人も、ペットのための仏(菩薩)なんてものは初耳。

タイも仏教徒が多い国で、日本人より信心深い人が多い。
そんなタイ人の話では、タイでも犬や猫を大切にしていて、托鉢で集めた食べ物の残りを犬や猫あげているという。
だからタイのお寺には犬猫がたくさんいる。
境内で犬に噛まれたという日本人旅行者もいた。
もう少し人間も大事にしてほしい。

香港や台湾にも観音菩薩はあって信仰は盛んだけど、ペット観音は見たことも聞いたこともないという。

仏教には輪廻転生という思想があるから、上に出てきた仏教徒も「犬や猫が人の生まれ変わりかもしれない」という考え方は理解できた。
でも、ペットを供養するための神や仏という発想は知らない。
ということでボクの知る限り、こんな存在があるのは日本だけだ。
日本人の動物愛護精神と信仰心がからみあって、ペット観音という独特の存在を生み出したのだろう。

 

 

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8 件のコメント

  • やっぱり5代将軍綱吉の生類憐みの令の名残なんでしょうか?
    供養はそれ以前からあったのかもしれないけど。
    悪法と言われていますが世界初の動物愛護法だとNHKの歴史番組で言ってました。
    「塚」の発想は日本独特なものなんですね。 ペットに限らず日本はなんでも供養しますもんね~。
    物を大切にするってどこの国にもあると思うけど、供養をするって発想はどこからきたんでしょうね。
    神社仏閣の金もうけから?

  • 書き忘れ。 横須賀って公共でペット用の火葬施設があったんですね! いいなぁ。
    こちらは民間しかないです。 ウチが連れて行ってるところは火葬だけなので骨は持って帰って庭に埋めてます。 猫で2万円ちょいします。 犬は大きさによって。 鳥は5千円。
    公共施設だといくらなんだろう? 火葬後の処理はどうなってたのかな。
    もちろん市に連絡してから段ボール箱に入れて燃やせるゴミの日に出して処分も出来ます。
    人間と同じ施設でお願い出来るところもあるとはびっくりです!
    そういう火葬場が作ってあるっていいですね♪

  • 「人間だけでなく、動物の命も大切に扱うべきだ」とする考え方は、このブログに述べられている「輪廻転生」の影響もあるかもしれないですが、日本の仏教の教えでは「不殺生戒」の影響が大きいのではないでしょうか? 「放生会」とかもありますし。ペット供養だって、日本(の仏教)では存在して当たり前だと思います。
    不思議なことに、日本以外の国では仏教でも他の宗教でも、動物の命をあまねく大切にするよう唱える教えを見たことがありません。海外の多くの文化・宗教においては、動物は「人間が殺して食べるためのものであり、食料として入手したことを神に感謝するための生贄」としか扱われていません。伝統的にそのような思想であるにも関わらず、現代になってから気まぐれにクジラにだけは「権利」を認めて、食料とするための捕獲にさえ反対する欧米人のなんと浅はかなことか。一昔前には彼らも食べていたのだから余計に納得できません。
    日本人は、我々の食べ物となったクジラの命に対してさえ、捕鯨の地元ではちゃんと供養をして感謝しています。欧米人のように、かつては人種によって人間を差別し、現代では「知能によって動物を差別する」ような、そんな程度の低い宗教観に基づいて非難を受けるいわれは無いと思いますね。
    世界は様々、違いがあるのを認めるべきです。

  • 生類憐みの令の影響。あるかもしれません。
    あれで日本から犬食がなくなりましたから。
    知り合いの外国人が日本の寺で、メガネやロボットを供養している様子を「なにこれ!」とSNSでシェアしていました。
    何事にも魂があるという発想でしょうか。
    「塚」ですけど、一般人の墓が「塚」、皇帝の墓が「陵」、皇帝ほどではないけど尊敬されている人の墓は「林」というらしいです。
    むかし中国人ガイドから聞きました。
    中国で「林」は孔子の「孔林」と関羽の「関林」だけだそうです。

  • この施設でかかる費用が気になったのですけど、そこまでは調べませんでした。
    民間業者に頼めば猫で2万円ですか。地方によって値段に差はありますけど、払えない額ではないですね。
    反対派の人たちは、人間と同じ施設で火葬するということに反発したかもしれません。
    どっちの気持ちもわかりますし、むずかしいです。

  • さすがにゴミと一緒はないでしょ(マンガ「寄生獣」を思い出しました、人間とそうでない者との感覚の違いがそこにある)。こちらの地域では、人間の火葬場と同じ施設で、ダンボールの棺桶に入れて、ある程度は他の動物が入ったいくつかの棺桶とまとめてだけど、ちゃんと火葬してくれますよ。
    もちろん民間のペット葬祭場もあります。財産に余裕のある人は、そういう民間の施設を利用すべきです。
    何でもコストだけで考えるのって、まあ、寂しい話ですよね。それほど地元の税収が厳しいのかね? 少しくらいは他の人の気持ちのために(理屈では無駄遣いかもしれない)予算を使ってあげても、いいんじゃないの?

  • 「不殺生戒」の影響はあると思いますよ。
    それとここには書きませんでしたが、「一切衆生悉有仏性」という仏教の考え方も。
    「全ての生きとし生くるものは、仏性即ち、仏になる可能性を有している、という大乗仏教における重要な思想の表現」です。
    クジラやイルカ漁については欧米人と議論しましたが、自分の力では彼らを説得するのは無理と諦めてます。
    この点での彼らの拒否感はとても強いですから。

  • 賛成派も反対派も市民ですから、役所としては「両者で話し合ってくれ。うちはどっちでもいい」という考えだと思います。
    批判されるのが嫌でしょうから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。