【徴用工問題】韓国と日本で決定的に違う2つの認識

 

日本と韓国で世論調査を行って「いまの日韓関係を一言でいうと?」ときいたら、いちばん多い答えはきっと「戦後最悪」だ。
ここ数か月、日韓のメディアでまくら言葉のようにセットで使われている。

その最大の原因は、徴用工をめぐる問題という点でも日韓は一致している。
きょねん10月、韓国の最高裁が日韓請求権協定をひっくり返して日本企業に賠償を命じた。
国家間の合意を国内法で否定するのは国際法で禁止されている。
この判決によって国際法違反の状態が生じたけれど、韓国政府は「憂慮している」なんて言うだけでずっとこれを放置。

関係が戦後最悪をどんどん更新していって、あせった韓国側はようやく徴用工問題の解決策を出してきた。
いまは文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が提案した「1プラス1プラスアルファ」の解決案が韓国の国会で審議されているところ。
これは韓日の企業に加えて両国の国民から寄付金を集めて、それを原告側に慰謝料として支給するというプランだ。
でも、無理だろこれ。
企業や国民の“自発性に”まかせて、原告側1500人のために280億円が集まるだろうか?いや不可能だ。(反語)

そもそもこの案には原告やその支持者が猛反発しているのだ。

聯合ニュースの記事(2019/12/16)

こうした内容は謝罪をしていない日本政府に免罪符を与える可能性があるなどの理由で市民団体が強く反発しており、論争を呼びそうだ。(中略)被害者である韓国企業と国民からも寄付金を募ることや、自発的な募金のため強制徴用を行った日本企業が参加しなくても特別な制裁方法がないことも問題とされる。

強制徴用問題 韓国国会議長の法案が成案=慰謝料支給時は裁判請求権放棄

罪がないのに「免罪符」とは?

 

いまの日韓で埋められない溝はこの「被害者である」である。
合意も国際法も破った韓国が被害者意識をもっていて、その立場で意見を言っている。
今回の件でそれを主張していいのは、信頼を裏切られた日本のはずなのに。
この認識の違いはいくら話しても分かり合えない。

ちなみに韓国の世論は真っ二つだ。

朝鮮日報の記事(2019/12/17)

徴用被害者への寄付金支給案 韓国で賛成53%=反対は42%

 

「1プラス1プラスアルファ」案が話し合われている一方で、徴用工問題について日本政府はいまどう考えているのか?

政権のかなめで安倍首相に近い麻生副総理が文藝春秋とのインタビューでこう話している。

文藝春秋digitalのインタビュー記事(2019/12/10)

そもそも1965年の日韓請求権協定で、日本は韓国に対し、無償3億ドル・有償2億ドルの経済支援を行いました。結果、「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の経済発展に繋がったわけです。それを今さら「なかったこと」にすると言われたら、ちょっと待ってくれと言うしかない。

麻生太郎副総理が激白 「安倍総理よ、改憲へ四選の覚悟を

 

「合意違反は絶対に認めない」というのが日本の立場だ。
まあ、そうだわな。
日本からばく大な経済協力金を満額受け取り、それをもとに経済発展に成功したあとで、それを「なかったこと」にして、また日本からお金をとろうとする発想が認められるわけない。

いま日本が注目しているのは、原告側が日本企業の財産を現金化する動き。
韓国側が越えてはいけない一線、ルビコン川をわたったら、「(日本としては)厳しい例をあえて言えば、韓国との貿易を見直したり、金融制裁に踏み切ったり、やり方は色々あります」と容赦はしないらしい。
つまり、韓国がわたるのはルビコン川ではなくて三途の川と。

ただそうなると韓国側もまた被害者感情を爆発させて、日本に対する報復措置をとって韓日で報復合戦がはじまるだろう。
でもそうなったら、「日本より経済規模の小さい韓国が先に疲弊するのは間違いない」と麻生副大臣は太鼓判を押す。

韓国紙の報道を見ていると、被害者意識もそうだけど、この点でも認識が間違っているとよく思う。
「そうなったら韓日が共倒れになる」みたいな記事が多いけど、経済規模がまったく違うという現実をスキップして都合のいい論理を展開している。
すでに解決した徴用工問題で、日本企業に賠償金を(寄付金でも)支払わせることはあり得ず、打ち合いになれば日本が必ず勝つ。
そう考えると「1プラス1プラスアルファ」案が韓国の国会で通ったところで、日本が受け入れる余地はなさそうだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。