雪中送炭の逆:不安を利用して金もうけ、「ぼったくり」の語源

 

15年ぐらい前に中国旅行をしていたときのこと。

そのときは道教のお札がほしくて日本語ガイドと一緒に道教寺院をまわっていて、ある寺でやっとそれを見つけることができた。
英語で「これがほしかったんです!」と言っあと、ガイドに値段を聞いてもらう。
すると、道士(お寺でいうお坊さん)から金額を聞いたガイドが「え?」と驚いた顔をする。
「ぼったくりか」という予想は的中で、中国人プライスの10倍ほどの金額を要求しているという。

ガイドが交渉してくれて200円ぐらいに落ち着いてお札を買ったけど、あとでガイドから怒られてしまった。

「ほしかったなんて言ったり、そういう顔をしてはダメですよ。それを聞いたら値段が上がりますから。相手が困っているとわかったら、値段をつり上げるのが中国の商売人です」

道教という宗教施設なら信者に道徳や正しい生き方を教えるところだと思ったけど、そこはやっぱり中国、道士でも平気でぼったくりやがる。
もちろんこれがすべてはなくて、中国語には「雪中送炭(雪里送炭)」という言葉がある。
「雪が降って寒い時に炭を送る」ということで、困っているときに必要な物を送るというハートウォーミングな意味だ。
日本なら「敵に塩を送る」みたいなものか。

 

道教のお札

道教某些道士声称用符箓可以召神徠鬼,趋吉避凶,降妖镇魔,治病除灾。

符籙

 

さていま韓国では「雪中送炭」の逆、 「泣き面にハチ」「弱り目に祟り目」という状態が起きている。
新型コロナウイルス感染症が広がりつつある中、予防に必要なマスクの値段が高騰しているのだ。「している」ではなくて値段を意図的につり上げる奴らがいて、SNSには市民の怒りや怨嗟(えんさ)の声があふれている。

道教のお札以上のぼったくりで、約10円のマスクを約129円で販売するケースがあるし、1日で価格が数倍にふくれ上がることもある。
「インフレの激しかったトルコでは、朝と夕方ではコーヒー1杯の値段が変わっていた」という話を聞いたことがあるけど、いまの韓国のマスク事情もそれに近いかも。

中には決済を済ませたのに、販売者側が「品切れ」といって一方的に販売をキャンセルして、そのあと値段を上げて再販売するという悪質なケースもある。
これに国民は「不安と死を利用して商売しているようなものだ」とぶちギレだ。

朝鮮日報の記事(2020/01/29)

需要が増えればある程度価格が上がるのは当然の現象だが、人々の不安心理を利用し、極端に暴利をむさぼるのは不合理だという指摘が出ている。

「今だ!」マスク値上げする販売業者ら…「度を越した暴利」と批判

 

「今だ!」というのは韓国人だけじゃない。
相手が困っているとわかったら、値段をつり上げる人間は日本にもいる。
マスクの値段が10倍近く上がったり、1箱4万円以上というスーパーセレブなマスクも登場している状態だ。

 

いまの韓国人の気持ちを表す言葉、「ぼったくり」という日本語が生まれたのは大正時代の「米騒動」のときだった。
第一次世界大戦が起きて米の値段が上がった時、「今がチャンス」とばかりに一部の米商人が買い占めや売り惜しみをしたことなどから、米価が昇竜拳のように上昇。
これに怒った主婦が怒り出して暴れだし、政府は軍隊を出して鎮静化させた。

この米騒動のときに、日本政府がだした「暴利取締令」の「暴利」が動詞化して「ぼる」になったと言われる。
「事故」が動詞化して「事故る」になるみたいな。
*「暴利を貪(むさぼ)る」から「ぼる」ができたという説もある。
不安心理を利用して暴利をむさぼる業者に庶民が怒るのは世界の当たり前。
だから「雪中送炭」の精神はいつでも世界中で美徳になる。

 

 

よかったらこちらもどうぞ。

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

外国人から見た日本と日本人 15の言葉 「目次」

 

2 件のコメント

  • >「ほしかったなんて言ったり、そういう顔をしてはダメですよ。それを聞いたら値段が上がりますから。相手が困っているとわかったら、値段をつり上げるのが中国の商売人です」
    >道教という宗教施設なら信者に道徳や正しい生き方を教えるところだと思ったけど、そこはやっぱり中国、道士でも平気でぼったくりやがる。

    あはははは~。アジア諸国を旅慣れているはずのブログ主さんにしては初歩的なミスを犯したものですね。そんなの当然ですよ。発展途上国だけじゃない、欧米だって、日本だって同じです。(ただし「ぼったくり行為」が存在している取引分野とか、その程度は、国によって色々違うけれども。)
    ニーズが高ければ価格は上がる、自由市場経済の原則通りです。それがどの程度まで許容されるか、それを悪とみなすかどうか、判断基準は社会的慣習によるのです。日本社会の考え方が決して世界基準じゃない。
    ま、そんなこと言われるまでもなく充分ご承知だとは思いますが。

  • このときはガイドがいたから油断しました。
    中国人を目の前にして道士がぼったくるというのは想像外です。
    さすが中国ですね。
    大した額ではないので、いいレッスンでしたよ。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。