「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している ー 共産主義という妖怪が」
19世紀にマルクスとエンゲルスが書いた「共産党宣言」はこんな不気味な言葉からはじまる。
これは世界的に有名なフレーズだから常識として知っておこう。
*「幽霊が出る」という訳文もある。
ロシアの切手に描かれたタッキー&翼。
じゃなくてマルクス(左)とエンゲルス
ときは流れて2020年のいま、ヨーロッパを徘徊しているのは「レイシズム」という妖怪だ。
中国発の新型コロナウイルスへの不安や恐怖がアジア人への憎悪や嫌悪にかわって、人種差別行為がヨーロッパの各地で発生している。
フランスやイタリアのSNSには、アジア人が差別的な言葉を浴びせられたという声がいくつも投稿される状況だ。
例えば、店のレジで働くアジア人がいると、接客を拒否して「母国に帰れ」と言い放つ人間がいたり、イタリアでは中国人旅行者がつばを吐きかけられたという。
AFPの記事(2020年1月31日)でフランス中国人協会の代表がいまのヨーロッパの空気をこう話す。
「外国人嫌悪が入り交じった集団ヒステリーがあり、フランスのアジア系住民に対する人種差別発言に歯止めがきかなくなっている。まるでアジア系住民全員が保菌者のような言われ方で、近寄るなと言わんばかりだ」
「まるでアジア系全員が保菌者扱い」新型肺炎で人種差別相次ぐ、欧州
ヨーロッパで勢いを増す人種主義。
そんなムードに対抗して、フランスのツイッターでは「#JeNeSuisPasUnVirus(私はウイルスじゃない)」がトレンド入りした。
でも、この妖怪はいま北米を徘徊中だ。
読売新聞(2020/02/02)
北米や欧州で、新型コロナウイルスの感染拡大に絡み、アジア人への差別的言動が広がっている。
欧米に広がるアジア人への偏見…伊音楽院「東洋人レッスン中止」
中国人だけではなくて、韓国人や日本人といったアジア人全体が差別の対象になっている。
上の読売新聞の記事は「感染の不安が偏見を増幅させている」と指摘する。
きのうミュンヘンにいるドイツ人とスカイプで話をしたときに、ヨーロッパを徘徊するこの“妖怪”について聞いてみた。
すると、もともとドイツには中国人の住民が少ないから、変化といえば観光客が減ったことぐらいで、人種差別的な言動は、いまはないと言う。
でも、それもきっと時間の問題でいずれドイツにも差別的言動が現れる。
今回の騒ぎの前からドイツにはアジア人に対して蔑視や憎悪を持つ人種差別主義者がいて、その勢力は増えている。
それはいまのドイツでは無視できないほどの影響力があって、選挙では外国人排斥を主張するような極右政党が支持を集めている。
彼の意見では、いまヨーロッパで最大の問題は外国人移民との共存で、実際のところこれがうまくいっていない。
外国人をトラブルメーカーとみて忌避する雰囲気が強くなっているところに、今回の新型肺炎が重なって、アジア人を「ヨーロッパに禍(わざわい)をもたらすウイルス」のように見る人が増えて、そんな意識が人種差別行為となって現れたという。
このドイツ人は日本が好きで、留学生として半年ほど住んでいた経験がある。
そのときにタイ人やベトナム人などのアジア人との付き合いがあったから、アジア人への蔑視はまったくない。
むしろ多様性を楽しんだり尊重している。
彼はヨーロッパ各国が団結してひとつの国となるEUの考え方を理想的と思っているから、きのうイギリスがEUから脱退したことで、EUの価値がゆらぐことを心配している。
このウイルス騒動そのものは近いうちに収まると彼は考えているけど、今回のパニックが人々にあたえた「外国人嫌悪」の影響はその後も長くつづくとみている。
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