日本で有名な都市伝説に「口裂け女」がある。
大きなマスクをした若い女性が下校中の子どもに声をかけ、「わたし、きれい?」とたずねる。
「きれい」と子供が答えると、「これでも?」と言ってマスクを外すと、耳元まで大きく裂けた口が開いていた。
というものもあるし、「きれいじゃない」と言うと子供が殺されるというバージョンもある。
火のない所に煙は立たぬで、この話には元ネタとされる説がいくつかあるのだ。
そのひとつが明治時代、滋賀県に住んでいたおつやという実在の女性で、恋人に会うために山を越えないといけなかったおつやは、女性ひとりでは危ないと考え、髪は乱して白装束をまとい、手には鎌を持った異様な姿で峠を越えたという。
そんな話から口裂け女になったという説がある。
その他もろもろはここで確認を。
すこし前に「エイズ・メアリー」という世界的に有名な都市伝説を紹介した。
男性が海外で知り合った女性とホテルで一夜を共にして、朝起きるとその女性はもういない。
そして洗面台の鏡を見ると、「Welcome to the world of AIDS」(エイズの世界へようこそ)と赤い口紅でメッセージが残されていた。
わりと知られた都市伝説だ。
これにも元ネタがある。
エイズ・メアリーのモデルとなったのはメアリー・マローン(1869年 – 1938年)というアイルランド系のアメリカ人女性。
メアリーは体内にチフス菌を持っていたけど、発病しないという健康保菌者だった。
病気が顕在化しないだけで、彼女から他人にチフス菌がうつる可能性はあり、実際そうなってしまった。
そんな「チフスのメリー」の話は、アイルランドで起きたジャガイモ飢饉にさかのぼる。
これは高校世界史でならうことだから覚えておこう。
ジャガイモ飢饉
1840年代半ばに、ジャガイモの疫病による凶作で発生したアイルランドの飢饉。100万人以上が餓死する一方、ほぼ同数の人がイギリスやアメリカに移住した。
「世界史用語集 山川出版」
くわしいことはこの記事を。
多くの人に腸チフス(Typhoid fever)を感染させて、のちに「チフスのメリー」(Typhoid Mary)と呼ばれたメアリー・マローンもこのときアメリカに移住したひとり。
14歳で単身ニューヨークへ来たはいいけど、手に職を持っていなかった彼女は家事使用人として働きはじめる。
料理の才能があったメアリーは周囲から認められ、貧しかった彼女はやがて金持ちの料理人となって高給取りの身分となった。
ここで終わればアメリカンドリーム、でも「チフスのメリー」はここから。
当時のニューヨーク周辺では腸チフスが流行っていて、メアリーが働いていていた家の住人もこの感染者となった。
何度か勤め先を変えたメアリーの周囲では、人々が次つぎと腸チフスにかかって、洗濯婦をしていた女性が死亡する。
メアリーが来るとその周りでチフス患者が発生することに気づいた衛生士のジョージ・ソーパーは、彼女が感染源であると確信し、メアリーに尿と糞便のサンプルを提出するよう求めたけれど、激怒したメアリーに拒否された。
次は医師が訪ねてきたけど、メアリーはこれも追い返す。
3度目はとうとう力づくで、ジョージ・ソーパーは5人の警官と一緒に行って、クローゼットに隠れていたメアリー・マローンを見つけて強制的に身柄を確保。
その後、彼女の便からチフス菌が検出されたことで、メアリーはノース・ブラザー島の病院に収容された。
収容、隔離されたメアリー
いちばん手前だとおもう。
ニューヨーク・アメリカン紙の記事(1909年)
メアリー・マローンは腸チフスの保菌者ではあるけど、病気を発症しない「健康保菌者」と判明し、これまでの謎が解けた。
やがてメアリーは隔離病棟から出て自由の身となる。
はじめは衛生局に定期的な連絡を入れていたけど、しだいにそれがなくなり、メアリーの行方はわからなくなった。
そして1915年、偽名を使ってメアリーが働いていたニューヨークの病院で腸チフスが流行。
25人の感染者と2人の死者を出した感染源はメアリーとわかり、彼女は再びノース・ブラザー島の病院に隔離され、そこで死ぬまで23年間を過ごした。
この世を去ったメアリー・マローンは「チフスのメリー」(Typhoid Mary)として語り継がれ、まわりまわって「エイズ・メアリー」という都市伝説につながる。
また何かあれば、形を変えて復活するずだ。
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