前回、富山コーラン事件について書いた。
富山県で20代の日本人の女性が、イスラーム教の聖書である「クルアーン(英語読み:コーラン)」を破り捨ててしまった。
そのことに激怒したイスラーム教徒が日本各地から富山に駆けつけて、抗議活動を行うなど大きな騒動に発展する。
イスラーム教にとって、神聖なクルアーンを冒とくする行為は絶対のタブー。
このタブーに触れたら、すべてのイスラーム教徒を怒らせることなる。
富山コーラン事件は、日本国内の個人がやった行為だったから、それほど大きな問題にはならなかった。
でも、規模の大きい会社が宗教のタブーに触れてしまうと、国際問題になってしまい、結果的に大きな損害を受けることもがある。
横浜ゴムが以前、イスラーム教徒から抗議を受けて、タイヤを回収・交換し、生産中止に追い込まれてしまったことがある。
それは先ほどの富山クルアーン事件と同じく、聖なるクルアーン神聖性を冒とくするというタブーを犯してしまったから。
横浜ゴムがつくったタイヤの溝の模様がイスラーム教の神「アラー」のアラビア文字表記に似ていると、サウジアラビアやブルネイなどのイスラーム教の国から反発を受けた。
読売新聞の記事(1992.07.24)
わが国の経済・社会活動が世界のあらゆる舞台で展開されるようになったいま、各地の宗教や民族感情への細かな配慮の大切さがあらためて問われたケースといえそうだ。
溝の模様が「アラー」の文字と似る 謝罪も
これで横浜ゴムはこのタイヤの生産中止を決定。
横浜タイヤによると、この溝の模様は「運転安全性を重視してコンピューターがデザインしたもの」だったという。
コンピューターがデザインした模様だったけど、イスラーム教の信者からは「アラーを侮辱している」ように見えてしまった。
そんな苦情が来たことがきっかけで、イスラーム教の実力者が回収命令を出す事態になってしまう。
これに対して横浜タイヤは、イスラーム教に対する知識不足を認めて、日本イスラーム協会が出している雑誌に謝罪広告を掲載することで事態の収拾をはかった。
宗教心が薄いボクからしたら、「タイヤの溝が、アッラーというアラビア語に似ているから」という理由で、ここまで大きな事態になるのが不思議な気がしてしまう。
でも、イスラーム教徒は会社への嫌がらせでこうしたことを言っているわけではないし、横浜タイヤが認めているように、イスラーム教への知識不足が原因だったのだろう。
でも、これは横浜タイヤだけではなくて、宗教に鈍感な日本人だったらしてしまいそうな失敗だ。
イスラーム教徒だけではなく、キリスト教徒にとっても聖書は神聖なもの。
アメリカでは、「コストコ聖書事件」という日本だったら起こりそうもない出来事も起きている。
日本人は宗教のことで騒ぎを起こすことを嫌うし、宗教観はおおらか。
神道の神様にも、仏教の仏様にも手を合わせる。
そんな寛容な宗教観からしたら、世界での宗教のタブーはとても厳しく見えると思う。
でも、知識不足でタブーに触れてしまうと、その責任は取らないといけなくなる。
アラビア語で「ポカリスエット」と書いてある
横浜ゴムの場合は、タイヤの回収・無償交換と生産中止ですんでいる。
でも、「味の素」のケースでは、現地の日本人が逮捕されてしまった。
イスラーム教では、豚肉を食べることはタブーとされている。
インドネシアの味の素では、豚肉は使っていなかったけど、2000年に「豚の酵素」を使用していて大問題になった。
「味の素」の原料にイスラームで禁忌とされている豚肉が使用されている疑いがあるという噂が流れた。
材料として豚の成分を使用してはいなかったが、発酵菌の栄養源を作る過程で触媒として豚の酵素を使用していたために、現地法人の社長が逮捕され、味の素製品は同国の食料品店から姿を消した。
横浜タイヤや味の素の事件も、過去のこと。
でも、イスラーム教のタブーを知らなかったり軽く考えていたりすると、また同じ事件を繰り返してしまう。
ボクもそうだけど、ほとんどの日本人は宗教心が強くはないし、宗教には大して関心や知識がないだろう。
海外旅行で、マナー違反をするぐらいならまだいい。
でも、宗教のタブーには絶対に触れてはいけない。
カンボジアのモスク(イスラーム教の礼拝所)に行ったとき、こんなことがあった。
モスクの中に、きれいな装飾がされたクルアーンを見つけた。
その写真を撮ろうと思って、クルアーンに触ろうとしたところ、イスラーム教徒のカンボジア人に怒られてしまった。
「異教徒が、神聖なクルアーンを触ってはいけない」という理由で。
もしボクが触っていたらクルアーンをけがすことになって、彼らの気分をどれほど害していたか分からない。
海外旅行に行くときは、その国のマナーよりも先にその国の宗教のタブーを知っておくといいですよ。
同じ宗教なら、ほとんどの場合、他の国でも同じだろうし。
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