少女が“性奴隷”に!韓国の描く慰安婦像と歴史資料の天地の差

 

韓国経済新聞/中央日報が紹介している本が、なかなかヒドイ。(2020.07.12)

【BOOK】「私は慰安婦ではない」…12歳の東南アジアの少女も日本軍の性のおもちゃ

21人の「慰安婦おばあさん」が「直接体験した話」をアン・セホン氏が聞いて文章にしている。
それを読むと、当時の日本軍は人間以下のまさに鬼畜。

・日本軍はここまで入ってきて銃刀で脅し、数え年で12歳(小学校5年生にすぎない)の少女まで蹂躪した。

・日本軍は妊娠しないというあきれた理由で生理が始まっていない幼い少女を性的奴隷に動員した。

・道を歩いていて、家に1人でいて、両親とともにいても強制的に連れて行かれた。両親を殺すと脅され(東ティモール)

・1歳の幼い娘が殺されるかと思って(中国)

・されるがままになった。日本刀で太ももを刺され(インドネシア)

・振り回した刃物で耳を切られた(フィリピン)

・「私は犬や馬とまったく同じでした」(東ティモール)

 

「われわれが目を背けていたり見ることができなかった事実」と書いてあるから、韓国でこの本の内容は歴史の真実として認識されているはず。
ただ事実と言うからには、それを裏付ける根拠が必要だ。

「わたしはこの男にお尻を触られた!」と女性が言ったとしても、客観的な証拠がなければそれは事実と認定されないというのは世界の常識。
証言がそのまま事実と認定され、それに基づいて誰かが罰をうけるようなことはあってはいけない。
もし証言がウソだった場合は、言った本人が「偽証罪」で罪に問われる。

 

 

では改めて確認してみよう。
日本軍が小学校5年生ほどの少女を性奴隷やおもちゃにした、少女を強制連行した、日本刀で刺したといった恐ろしい話が強調されているけど、根拠は何ひとつ示されていない。

そもそもアン氏が「慰安婦おばあさん」から聞いた話をそのまま文章にしたかどうかも分からないし、重要な部分がすべて闇の中にある。
だから結論からいえば、事実認定で最も大事となる証拠がゼロという状態では、ここに書かれた話を歴史の真実と言うことはできない。

個人的には、この日本軍残酷物語は著者の創作と考えている。
特に小学校5年生ほどの慰安婦が実在したという根拠を知りたい。
ことし5月、韓国の元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)さんが記者会見で、「私がなぜ性奴隷ですか。その汚い『性奴隷』という言葉をなぜ使うのか」とこの呼び方に激しい嫌悪を示して韓国社会が大騒ぎとなった。それを受けてこの本では、東南アジアの女性にその呼称を当てはめたように思う。

 

著者のアン氏は「東南アジアの被害は多くの日本人が知らない」としたうえで、「全アジアの問題として解決していくためにも各国の被害者の声が消える前に記録され知らされなければならない」と強調する。ファクトチェックは完全に置き去りだ。

ここにある内容が本当に被害者の声か分からないし、それに著者はなんで日本人や台湾人慰安婦に話を聞かなかったのか?
あとで誰かに確認されると困るからだろう。

東ティモール人やフィリピン人が話した内容が、現在の韓国社会で歴史的事実とされている「性奴隷説」や「強制連行説」と完全に一致しているという点も不自然だ。
この本に書かれている歴史は韓国の国民感情に沿ったもので、著者や出版社にとってあまりにも都合がいい。

また本が出版されるタイミングも絶妙で、もうすぐむかえる8月14日は韓国で「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」になっていて、翌日15日は韓国が日本の支配から解放された重要な記念日だから、8月中旬は1年の中で反日ムードが特に高まる。
だからこのとき「反日もの」を出すとよく売れるのだ。

 

 

でも歴史の一次資料なら、証言がそのまま根拠になる。

そのことについては、現代ビジネスの記事(2109/6/13)に登場する歴史学者・呉座勇一氏の説明を拝借しよう。

歴史学における一次史料というのは、事件を見聞した当事者が事件発生とほぼ同時に作成した史料のことである。

「俗流歴史本」の何が問題か、歴史学者・呉座勇一が語る

 

「そのとき・その場」で得られた証言なら、歴史的事実と言うことができる。
だからそうではないもの、例えば戦争が終わって50年以上過ぎたころに得られた証言は、そのまま真実と考えるわけにはいかない。
その場合はそれを事実と裏付ける根拠が必要になる。

当時の慰安婦の実態については、アメリカ軍が作成した「日本人戦争捕虜尋問レポート No.49」という一次資料がある。

 

ビルマ(現ミャンマー)のミッチーナで慰安婦から話を聞くアメリカ軍の軍人。(1944年8月14日)

 

太平洋戦争の最中の1944年、米軍が戦争捕虜となった慰安婦から聞き取り調査をおこなって報告書を作成した。
それを見ると、当時の慰安婦の生活や待遇などが分かる。

they had plenty of money with which to purchase desired articles. They were able to buy cloth, shoes, cigarettes, and cosmetics

While in Burma they amused themselves by participating in sports events with both officers and men, and attended picnics, entertainments, and social dinners. They had a phonograph and in the towns they were allowed to go shopping.

Japanese Prisoner of War Interrogation Report 49

 

彼らは欲しいものを買うためのお金をたくさん持っていた。布、靴、タバコ、化粧品などを買うことができた。

彼らは将校や男性と一緒にスポーツ大会に参加したり、ピクニックや娯楽、社交ディナーに出席したりして楽しんだ。

慰安婦はたくさんのお金(plenty of money)を持っていて、服・靴・タバコそれに化粧品など欲しいものを買うことができた。
ビルマにいる間、彼女たちは日本兵とスポーツ・イベントに参加したり、ピクニックや娯楽をしたり、社交ディナーに出席したりして楽しんだ。レコードプレーヤー(phonograph)も持っていて、町へ買い物に行くことも許されていた。

この報告書の内容は、これが作成されたときから現在まで一文字も変えられていない。
アン・セホン氏が描く慰安婦とは別世界だ。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

韓国が伝えない慰安婦の”真実”、実際はどんな生活だったのか?

 

ただ、この報告書にあるのは、第三者から記した客観的な事実だけで、慰安婦本人の気持ちはわからない。
慰安婦に苦痛を与えたことについては日本政府も認めて、お詫びの気持ちを表明している。
それにこれはビルマでの一例で日本軍慰安婦の全体像でもないから、ぜひ他の地域の様子も確認してほしい。
もちろん一次資料で。

 

現代では毎日ぼう大な情報が生み出されているから、一般人にも情報の選択眼が求められる。

NHKのクローズアップ現代(2017年2月6日放送)で、ジャーナリストの池上彰さんが真実とフェイクについてこう語った。

人は真実ではなくて、とにかく感情的に心が揺さぶられれば、それでいいと。
真実は二の次だというようなことが広がっている、これが去年の流行語に選ばれた。
もはや、そういう時代になっているのかということですよ。

フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ

この視点から、「12歳の東南アジアの少女も日本軍の性のおもちゃ」と米軍の資料を比較してほしい。

 

根拠を示さずにと主張すると、慰安婦の実際の生活が分からなくなる。
特に感情的な文章で読み手の心を揺さぶるフェイクニュースが氾濫すると、それだけ真実が見えにくくなってしまう。
その証言内容が事実であることを知るためには、「そのとき・その場」で得られた一次資料かどうかを確認しないといけない。

「日本軍が12歳の少女を性奴隷にした!ただし根拠はない」という主張はあまりにひどい。
「われわれが目を背けていたり見ることができなかった事実」が韓国社会に多すぎる。

誰かが真偽不明の情報を流して韓国人の反日感情をあおると、回りまわって日本で嫌韓が生み出され、両国関係はさらに沈んでいく。
この悪循環を断ち切るためにも、真実を見きわめる眼が大事だ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。