ワタクシ、国際文化交流という高尚な趣味を持っているもんで、外国人に日本の歴史や宗教について説明することがよくある。
ほとんどの場合はボクが教えるけど、たまに外国人から「え、それホント?」ということを教えてもらって目がウロコが落ちることもある。
今回はそんな話ですよ。
きょねんの秋ごろ、日本の大学で学んでいたムスリム(イスラーム教徒)のインドネシア人と一緒に、コーヒーを飲みながらあれこれ話をしていたときのこと。
話題が宗教にうつって、彼に仏教と神道のどちらが好きかをたずねたら、「仏教よりは神道ですね。神道にはいろんな神さまがいて、それぞれ個性や役割があって面白いです」と言う。
ムスリムの彼にとって神は唯一絶対のアッラーだけ。
だから八百万の神々がおわす神道なんて、一神教の信者にはまさに天敵。一番許せないものでは?
と思ったけどこのインドネシア人の話では、神道の神々はユニークな日本文化の「アイテム」で、武神や疫病除けの神など個々の神について知るといろんな発見があって面白い。
大きな石や木、風などが神になるという発想は分かるけど、トイレの神や貧乏神は想定外。
でも、そんな神様について話を聞くと、日本人の価値観や大事にしている考え方が見えてくる。
イスラーム教で神はアッラーだけだから、彼にとって多神教の文化はとても興味深い。
イスラーム教の世界でこういうのは厳禁
神道についてはふつうの日本人よりくわしそうな彼が、このときこんな質問をする。
「神社にいる神さまが男か女か見分ける方法を知ってますか?」
たしかに神道の神には、男神と女神と、それと駄目神がいる。(いやいやいや)
*これは中国思想・陰陽説の影響で、神にも男(陽)と女(陰)の性別があるという話を聞いた。
陽気(陽の気)と陰気(陰の気)のように陰陽説に基づくものは、いまの日本の日常生活でたくさんある。
性別判別なら、単純に神さまの絵を見ればすぐに分かるけど、文字だけだとハードルは高すぎる。
イザナギ・イザナミの有名どころはいいとして、「思金神」や「迦具土神」が男神で、「阿加流比売神」や「葦那陀迦神」が女神だなんて文字だけで誰がわかるか。
そういえばマンガ「孔雀王」のせいで月読(つくよみ)はずっと女神と思っていたのに、じつは男神と知ったときの衝撃といったらそれはもう…。
それに、一般的には女神とされる天照大神はじつは男神という説もあるのだ。
でもそのインドネシア人は神社を見るだけで、そこに祀られている神が男神か女神か分かると言う。
建物から神さまの性別を判断するのはボクには無理ゲーだけど、このムスリムいわく、千木(ちぎ)を見れば一目瞭然、百戦無敗。
千木とは神社の屋根にある「V字」のように見える出っ張りで、神社建築のシンボルになっているもの。
武士の兜(かぶと)のように先端がとんがっている千木が「外削ぎ」、水平になっている千木(下)は「内削ぎ」と言う。
神社の屋根を見て、千木が外削ぎならそこにおわす神さまは男神で、内削ぎなら女神ということがわかる。
だから外削ぎは「男千木」、内削ぎは「女千木」と呼ばれているのだ。
さっき外削ぎが武士の兜(かぶと)のように見えると書いたのはそういうこと。
そんなことを、イスラーム教徒のインドネシア人から教わるとは思わなかった。
日本の歴史や文化にくわしい日本人に神社を案内してもらったときに、日本人でもあまり知らないようなこの情報をゲットしたらしい。
ハニワに千木らしきものがあるから、起源は古墳時代か?
使わぬ宝はないと同じだから、さっそく実践してみよう。
この神社で祀られているのは男神か女神か?
この水平の千木は内削ぎ(女千木)だから、中にいらっしゃるのは女神さま。
それもそのはず、これは伊勢神宮の内宮で天照大神を祀っているから。
では続いて第二問。
この神社で祀られているのは、男神か女神か駄目神か?
外削ぎの「男千木」だから祀られているのは男神。
これは出雲大社で、祭神は大国主大神。
でも、ここで注意がある。
神社の屋根の千木が内削ぎなら女神、外削ぎなら男神という神さまの性別判断の仕方をここまで書いてきたけど、じつはこれにはハッキリとした根拠がないのですよ。
それに伊勢神宮下宮のように、神さまは豊受大神という女性なのに千木は外削ぎという例外もある。
確実な情報として東京都神社庁のホームページを見たら、こんな説明がされていた。
千本の先端が垂直に切られている場合は、男神を祀(まつ)っていることを示し、水平に切られている場合は、女神を祀っていることを示すと一般的にいわれていますが、異なる場合もあります。
どこか他人ごとで、この説が正しいのか間違いなのかよく分からない。
神社庁でも断定できないらしい。
でも、神社庁はこの見分け方を否定していないし、間違った説をわざわざ紹介することもないから、これにはそれなりの信ぴょう性があるとみていい。
異なる場合もあるということだから、基本的には千木の先端で神さまの性別を判断していいのだろう。
神道好きのイスラーム教徒のインドネシア人が教えてくれた、男神/女神の見分け方はわりと正しかった。
以下、おまけ
神道には、病気治癒・戦いや受験・金運アップなどなどいろいろな神さまがいる。
その考え方をイスラーム教に当てはめると、同じではないけど近いものはあるとこのイスラーム教徒が言う。
全知全能のアッラーには「慈悲ぶかき者」、「王」、「許しを与える者」といった役割に応じた99の別名があるから、彼の意見ではこの考え方は神道(多神教)に似ている。
くわしいことはここをどうぞ。
こちらの記事もいかがですか?
女性蔑視①欧米人から見た神道とキリスト教、日本とヨーロッパの違い。
コメントを残す