【多文化共生】日本にいるイスラム教徒が“マジで”困ること

 

ここ数年、浜松市内でイスラーム教徒を見る機会がめちゃ増えた。
もうマクドナルドの店内で、となりの席にヒジャブをかぶったムスリム女子がおしゃべりをしていても驚かない。

 

ヒジャブをつけたイスラーム教徒

 

でも日本はまだまだこの宗教になじみはない。
豚やアルコールがダメなイスラーム教徒も食べられるハラールフードはチラホラ見るようになったけど、近ごろではこれが大きな問題となっている。

中部経済新聞の記事(2020年8月6日)

ムスリム、土葬の墓地なく 永住増加「家族のそばで」

この世に別れを告げると、仏教徒の日本人は火葬されることがほとんどだから、宗教によって土葬が定められているイスラーム教徒の要望にはなかなか応じられない。
ここ近年、日本人と結婚して日本に永住するイスラーム教徒が増えているけど、国内で土葬ができる墓地は7カ所しかないらしく、「人生の終わり方」は本当に大事なことだからこれに悩む在日イスラーム教徒は多いようだ。

 

これと同じことを、3ヶ月前に神奈川新聞も記事(5/8)にしていた。

忍び寄る“葬儀崩壊” 感染防止策は公的扶助対象外、ムスリム土葬困難…

*この記事はコロナで亡くなった場合を想定したものだけど、内容はさっきの記事と同じ。
日本で土葬が困難なことにイスラーム教徒が悩んでいる。

 

バングラデシュのムスリム・ファミリー

 

日本イスラーム文化センターの事務局長が火葬についてこう話る。

「ムスリムにとって土葬は絶対。火葬は故人の侮辱に当たる。(感染者の)土葬が認められなければ、国際問題に発展してしまう」

イスラーム教にとって死とは通過点で、土葬には土から生まれた命を土に返すという意味合いがあるらしい。
また神奈川で飲食店を経営するイスラーム教徒も、火葬だけは絶対にダメだという。

「火葬を受け入れることはできない。ムスリムにとって絶対に守られなければならない権利」
「ムスリムが亡くなって火葬され、問題となってからでないと対応してもらえないのでは」

 

上の2つの記事は、日本人にイスラーム教への理解や配慮を訴えているのだけど、ネットの反応を見る限りではむしろ亀裂を深めている。
こういう記事に対して、ネットの声はいつもこんな感じの否定的のものばかり。

・日本に合わせろ
・火葬がほとんどの国に来て土葬させろって無理過ぎる
・郷にいれば郷「が」従えって?
・他国で自分の宗教を主張してゴリ押しするな
・他人には寛容さを求めるのに自分たちは宗教を盾に譲らない

でも、これらはまだやさしい方。
実際には殺気立っていて、ここでは載せられないものが多い。

 

 

個人的には在日イスラーム教徒の知り合いが何人もいるから、彼らが住みやすい社会になってほしいと思う。

だからこういう記事でよくある、

「ムスリムにとって絶対に守られなければならない権利」
「土葬が認められなければ、国際問題に発展してしまう」

といった表現は日本人の反発を生んで、逆効果になるとしか思えずいつも気になる。

ただ日本で土葬は法律で禁止されているわけではなくて、それが可能な県もいくつかあるから、そうしたところでイスラーム教徒が土地を購入して墓地をつくるのが現実的。
すでにある墓地なら、広くなっても反対運動は起こらないだろう。

日本はアラビア諸国と違い、国教となる宗教はなくて政経分離が原則だから、役所の協力にも限界はある。
「絶対に守られなければならない権利」というのは、基本的に自分たちの力で確保しないといけない。
それか、その権利が守られる国を選択するか。

 

知人のアメリカ人の場合、日本に来る前に会社側から日本がどんな国でどんな不便があるのか説明を受けて、それを受け入れて来日した。

イスラーム教徒を受け入れる会社や自治体などは、事前に土葬困難な日本の状況を説明しているのだろうか?
少なくとも、それを承知の上で来日してもらわないと、あとでお互いが困ることになる。
「ムスリムにとって土葬は絶対。火葬は故人の侮辱に当たる」と主張をするだけでは、協力者より敵の方が増えそう。
これじゃ多文化共生は不可能だ。

 

外国人との共生については、その先進国のやり方を参考にしたほうがいい。
いろんな人種・宗教の人たちがひとつの社会で生活するには、みんなが同じルールを守ることがベストではなくてマスト。
そうしたきまりの多くはその社会の伝統的な価値観に基づくもので、それに従えない場合は、その地域や国で生活するのはむずかしい。

フランスの例を見てみよう。
フランス人男性と結婚したイスラーム教徒の女性が「宗教的信条」を理由に、別の男性との握手を拒否したところ、フランス政府が「フランス社会に溶け込んでいない証拠」とみなして市民権の付与を拒否した。
怒った女性は仏政府を訴えたものの、最高裁がそれを認めず原告側の敗訴が決定。

AFPの記事(2018年4月20日)

市民権授与式で主催・関係者との握手を拒んだイスラム教徒のアルジェリア人女性にフランスのパスポート発給を認めなかった政府の決定を支持する下級審判決を維持し、原告側の上訴を棄却した。

フランス、「握手拒否」したムスリム女性の帰化認めず

 

これが日本ならどうだろう?
宗教的な理由を主張して女性が握手を拒否しても、「わかりました。大丈夫ですよー」で済みそう。
これで「日本社会に溶け込んでいない証拠」と政府がみなして、日本人と結婚した外国人に市民権を与えないことはないだろう。

でも、フランスでは握手することが最低限のマナー。
その価値観を尊重できない人間には市民としての権利は渡せない、と国が一線を示すことは大事だ。
日本の多文化共生は相手の主張に耳を傾け、日本の社会をそれに合わせることを重視していて、こうした厳格さに欠けているとよく思う。
できること・できないことの一線を明確に示さないと、要求ばかりでてきて、日本人が共生疲れを起こしそう。

 

 

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3 件のコメント

  • >イスラーム教徒を受け入れる会社や自治体などは、事前に土葬困難な日本の状況を説明しているのだろうか?
    >少なくとも、それを承知の上で来日してもらわないと、あとでお互いが困ることになる。

    土葬したいなら、それを許可している自治体・墓地へ行って、そこで土葬すればいいですよ。

  • イスラム教って政教分離が難しいと聞きますね。
    キリスト圏の国でのイスラム教徒も同じように国や自治体にイスラム教方式のやり方を要求しているのでしょうか。

  • 欧米は昔からイスラーム教徒との付き合いはありましたし土葬も同じですから、日本よりスムーズに対応できていると思いますよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。