きょねんの夏、ベトナム人とドイツ人、それと東ヨーロッパのリトアニア人と一緒に京都を旅行したときのこと。
もともと8月の京都は猛烈に暑いけど、2019年の日本の夏は異常で、京都に4年間住んでいたボクでも記憶にないぐらい、このときの京都は暑かった。いや熱かった。
外国人の彼らにとってこの暑さは前代未聞。
南部の都市ホーチミン出身のベトナム人でも「こんな暑さは経験したことないです。汗がとまりません」と言うし、ドイツの気候は全体的に日本より涼しいから、「この暑さには頭がおかしくなるよ」と言ってドイツ人はすぐに休憩をしたがる。
いちばん大変だったのがリトアニア人で、ロシアのすぐ横にあるリトアニアは寒さが厳しくて夏でも25℃を超えることはないという。
そんな耐熱性のないリトアニア人が気温38℃の京都を歩きまわったのだから、蒸し地獄をさまよったようなもの。
そんな外国人が「これは素晴らしい!本当に涼しそうだ」と絶賛したのが貴船の川床(納涼床)。
夏の暑さが生んだ日本文化
川沿いや湖のほとりにレストランを作るのはどこの国でもあるけど、川の上に食事どころを作って、お尻の下に水の流れを感じながら食事をする川床という伝統があるのは日本だけだろう。
川の清らかな流れを見るけで涼しくなるという感覚はみんなすぐに分かったけど、「ちょっと何を言っているのかわからない」と1ミリの共感もよばなかった納涼文化が風鈴だ。
京都に行くと旅館やお土産屋、レストランなどいろんなところに風鈴がぶら下がっていて、チリンチリ~ンと気持ちの良い音を響かせていたけど、これで涼しく感じたのは日本人のボクだけで、ベトナムも人ドイツ人もリトアニア人も「とても良い音だけど、なんでこれで涼しくなるの?」と不思議そうな顔をする。
日本人にはあの音が夏の蒸し暑さを打ち消してくれると言っても彼らには理解不能で、「この音と暑さは関係ない。だったらスイカやアイスクリームを食べたほうがいい」と風情のかけらもない。
ドイツ人は日本のアニメや映画が好きだったから、日本に来る前から風鈴を知っていたけど、これは音色を楽しむ日本文化とだけ思っていて、夏に涼をとるためのものという発想はまったくなかった。
このときの外国人の感想はみんな同じで、風鈴のデザインはきれいでかわいいし、音を聞くとリラックスすると全体的に好印象・高評価だったけど、これと清涼感は一切結び付かない。
これまでカリブ人やアラブ人などからも話を聞いたけど、風鈴の音に涼しさを感じると言った外国人はひとりもいない。
日本の中学校で英語を教えていたアメリカ人が母国に戻るとき、お土産で風鈴を買って、いまは家にそれを吊るしている。
風鈴の音を聞いても涼を感じることはまったくなく、単純に良い音だし家族も気に入っているから、一年中つけたままにしているという。
風が吹いてチリンチリンという音を聞くと日本での生活を思い出すから、そのアメリカ人にとって風鈴は夏の風物詩ではなくてなつかしさを感じるツール。
アメリカ人・アジア人・ヨーロッパ人がこんな感じなのだから、風鈴の音を聞いて涼しさを感じるのは日本人だけなんだろう。
2019年にNHKで放送された『チコちゃんに叱られる』でも、風鈴の音を聞いて涼しく感じるというのは日本人独特の現象だと言っていた。
この違いが生まれる理由は、日本人と外国人では脳が違うからか?
ちょっと前に、スズムシなどの虫の「声」を認識できるのは日本人とポリネシア人だけという話がネットで話題になった。
世界のほとんどの民族は虫の声を右脳で認識するけど、日本人とポリネシア人は左脳で認識するから、多くの外国人にとっては「雑音」でしない虫の音が、日本人とポリネシア人には「言語」として認識されるから、日本人にはスズムシの声が心地よく感じるという。
風鈴の音もこんなふうに脳の違いによるものかと思ったけど、「チコちゃん」の番組が言うには、風鈴の音を聞いて涼しく感じるのは、脳が誤解しているから。
つまりあれは気のせいであり錯覚。
脳の中で音を聞く場所(聴覚野)と涼しさを感じる場所(体性野)はまったく別だけど、風鈴の音を聞くことと風が吹いて涼しいという体験を何度もすることで、この二つが結びつくようになる。
「風鈴が鳴る→風が吹いている→涼しい」という経験を重ねることで、実際にそう感じるようになるらしい。
これは条件反射というから、音と同時にエサが出てくる体験を何度もすると、音を聞いただけで自然とよだれが出るようなもので、日本人は風鈴の音を聞くと自動的に涼しさを感じるようになっているのだ。
番組では面白い実験をしている。
30℃の部屋に3人の外国人を入れて10分間、風鈴の音を聞かせたあとに皮膚の温度を測ったら、3人とも体温が上昇していた。
外国人の場合、風鈴の音でかえって暑く感じたという。
でもこれと同じことを3人の日本人にさせたら、3人とも皮膚温度が下がった。
この結果がすべての外国人や日本人に当てはまるとは言えないけど、実験の信頼性は高いし参考にはなる。
「風鈴の音を聞くと涼しさを感じる」という日本人だけの現象は、そういう文化圏に生まれ育ったから、脳の違う部分が結びついて実際にそう感じるようになるということだ。
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>ちょっと前に、スズムシなどの虫の「声」を認識できるのは日本人とポリネシア人だけという話がネットで話題になった。
「虫の声」を外国人が聞き取ることはできないというのは聞いたことがあります。が、ポリネシア人も可能だとはしりませんでした。何か理由があるのかな?
確か、鈴虫を虫かごで飼うという話は、中国でもあったように思います。とすると、中国人(の一部)は虫の声を聴くことができるのかもしれない。
ハリウッド映画を見ていると、警官なんかが夜中に張り込みをするシーンがよく出てくるのですが、虫の声が全然聞こえてこなくて、とても不自然に感じます。だけどホタルには彼らも気づくのですよね(視覚だから話が違う?)
日本のドラマでは、ほとんど効果音として取り入れられているように思います。それどころか、虫の声が突然途切れたので「誰か来た」と気づくシーンも確かあったと思う。
日本では秋の虫の声を風情と感じる人が多いのですが、そういう見方はごく少数のようです。
音も平等はないのですね。