きょう12月1日は「カレー南蛮の日」。
明治41年(1908年)ごろにカレー南蛮を考案した「朝松庵」の店主・角田酉之助の誕生日が12月1日だったことからこの記念日ができたとか。
もっともカレー南蛮の発明者には別の説もあるのだけど、まぁここではどうでもよく、それより問題はこの漢字だ。
日本に10年以上住んでいて漢字や歴史にやたらくわしいアメリカ人が、あるとき「南蛮」の意味は「southern barbarian(野蛮人)」と知って衝撃を受けて、それ以来この言葉が嫌いになったという。
熟慮の末、それまで好きだったチキン南蛮にもサヨナラすることにした。
はっ!その程度で食べるのをやめるなんて、このチキン野郎め。
というのはいいとして、せっかくだからここでは「南蛮」の歴史を見てみよう。
16世紀の戦国時代、キリスト教の宣教師などのヨーロッパ人がやって来たとき、日本人は自国中心的に「南蛮人(南から来た野蛮人)」と呼んだ。
さらに時代をさかのぼるとこの言葉は中国由来で、「中国こそ世界の中心!世界最高の文明をもった国である」という思い上がった中華思想をもっていた古代中国人は四方の異民族を見下して、それぞれ東夷・北狄・西戎・南蛮と呼んでいた(四狄)。
夷・狄・戎・蛮はすべて、中国文明(中華)の外側にいるバーバリアン(野蛮人)という意味と考えてかまわない。
古代中国からみると、日本人も東夷(東にいる野蛮人)だった。
だから中国が周辺国と外交や貿易をおこなうとき「対等」はあり得ず、中国を主人、その他の国を家来とする「朝貢」という従属関係だけが成立した。
まぁ日本はそれを認めなかったのだけど。
戦国時代の日本人もこの中華思想を自国に当てはめて、南から船でやって来たポルトガル人やスペイン人を南蛮人と呼ぶようになる。
ちなみに南蛮人は主に南欧系のヨーロッパ人のことで、イギリス人やオランダ人は「紅毛人」と呼んでいた。昔の台湾人もヨーロッパ人を「紅毛人」と呼んでいたけど、その範囲は分からぬ。
でも南蛮貿易と呼ばれるヨーロッパ人との取引が始まると、「南蛮」という言葉から野蛮人の要素がなくなっていく。
やがて本来は辺境の未開人に対する蔑称だった「南蛮」は、異国風で物珍しい文物を指す語となり、後の「舶来」と同じような意味で使われるようになった。
「野蛮人」から「舶来(海外の)」という意味になって、現代の日本では「チキン南蛮」や「カレー南蛮」といった食べ物ぐらいでしかこの言葉は使われなくなった。
確かに漢字をみると「southern barbarian(南の野蛮人)」なんだけど、明治の文明開化の時代には日本人こそむしろ野蛮人で、西洋人にあこがれる風潮があったのだから、いまの日本でそんなネガティブなイメージはまったくない。
16世紀の日本人じゃあるまいし、令和の日本人に中華思想なんてあるものか。
でも、「この漢字には「虫」の字が入っているじゃないですか。南蛮は相手を見下したイヤな言葉ですよ」とアメリカ人から言われると、「じゃあ、オマエはチキン南蛮も南蛮カレーも食べるな!人生の半分を損することになるけどな」と言い返すしかない。
外国人が日本語の理解を深めるのはいいことだけど、面倒くさい事態も起こるのだ。
外国人用の役所の書類に「ALIENS(エイリアン)」と書いてあったのを見てイギリス人が爆笑した。
これは変えた方がいいけど、南蛮はそのままでいい。
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へー、でもそれ、古典文法的には正しい英語じゃないですか。今はダメなんですか?
その単語、リドリー・スコット監督、シガニー・ウィーバー主演の映画が80年代に大ヒットしなけりゃ、今でもそのまま何の問題もなく使えたと思うのですがね。
日本だと、アナグラムでENALI という人物を主人公に据えた「異星の人」という小説(作:田中光二)が当時あって、SFにしては割合に売れました。ラジオ・ドラマ化もされましたし。
アメリカでも A-number とかあるし気にする事でも無いのでは?
それより英国人、alien ときたのに、スティングの Englishman in New York を思い出さなかったのが残念
外国人の感覚だとダメでしょうね。