インドネシアの“恐怖の文化”。火山の迷信と呪術師ドゥクン

 

近ごろSNSを中心に、「富士山がおかしい」と話題になっているのをご存じだろうか。
12月の下旬にもなれば、いつもなら雪化粧で山頂が白くなるはずなのに、ことしの富士山は20日を過ぎても雪がほとんど積もっていない。

これを「地震や噴火の前兆」とみる人がたくさんいて、日刊ゲンダイが記事で伝えている。(2020/12/23)

富士山の雪の量を心配する声が増えているようだ。地震と関係はあるのだろうか。

年内にも何かが起こる?

 

 

上はことし12月上旬の富士山
例年なら、下のような景色が見れるのだが。

 

 

さて、ここから話はインドネシアだ。
インドとネシアで「インドの島々」という意味の国の文化についてだ。

インドネシアは東洋と西洋の間にあって、中国やインド・中東・ヨーロッパから様々な人やモノがやってきた結果、東西の要素が入り混じった独特の文化が形成されていった。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

【同じで違うアジアの島国】日本とインドネシア文化の特徴

 

 

でも、外来文化の影響を強く受けたことと引き換えに、もともとインドネシアにあった土着の文化は失われていった。
ことし3月、4人のインドネシア人と富士山を見に行った時にきいても、「元々あった文化ですか?あると思いますけど、よく分かりません」とみんな言う。
この点はユーラシア大陸の東端にあって、異民族の支配を受けたことのない日本とまったく違う。
日本も中国文化の影響を受けたけど、畳や榊など日本でうまれた独特の文化はいまも全国各地に残っている。

 

日本とインドネシアには島国ということの他にも共通点があって、どちらも環太平洋火山帯(環太平洋造山帯)の上にあるから火山が多い。

 

 

インドネシアには約130の活火山があり、日本では1996年の時点で86ある。

その中のひとつ、ジャワ島にあるスメル火が噴火した。
その噴煙は数千メートルまで立ち昇って溶岩流が発生し、命の危険があるため約500人が避難したという。

AFPの記事(2020年12月3日)

現場からの映像には、火砕流に覆われた家畜の死骸と、がれきが蒸気を発しながら近くの川に流れ込む様子が捉えられている。

スメル山噴火、500人が一時避難 インドネシア・ジャワ島

 

火山活動はまだ続いていて再び噴火が起こる可能性があるから、住民は眠れない夜を過ごしているのでは。
日本のネットでも、みんな現地の人の安否が気になっていた。ということはないらしい。

・噴火なんかしたら住めないじゃん
・ストーブでスルメを炙る季節になってきたな
・住めるのか住めないのかどっちやねん!
・地鎮祭やらなかったの?
・スプラトゥーンのステージ名かと思った

ケガ人や死者がいなかったせいか、他国の噴火は他人ごとだった。

 

多民族国家のインドネシアは多噴火国家でもある。
先月にもレンバタ島のレウォトロ山が噴火して約2800人が避難したし、ことし2月にはジャワ島のムラピ(メラピ)山が爆発。
5000メートル以上の噴煙が上がって火山性地震も発生したというから、住民はすさまじい恐怖を感じたはずだ。

 

 

さて先ほどの「地鎮祭やらなかったの?」というコメントにご注目あれ。

地鎮祭は家などを建てる前にその土地の神を祀って、土地を使わせてもらうことの許しを得る儀式で日本全国で行われている。
地鎮祭には仏式もあるけれど、土地神に祈るという内容からして本来は神道の儀式だっただろう。
海外から仏教が伝わる前まで信仰されていたのが神道で、いまでも神社やいろいろな儀式などでその考え方や形式を見ることができる。

インドネシアではその点が違っていて、古代からインドのヒンドゥー教や仏教、中国の儒教、アラブのイスラーム教などの影響を受けてきたから、現代では、それ以前にあった土着の文化が見えにくくなった。
これが多様性という豊かさにつながっているから、これは良い/悪いではなくてインドネシア文化の特徴だ。

 

ムラピ山
ムラピとは「火の山」という意味らしい。

 

「固有の文化はよく分かりませーん」と言った先ほどの4人のインドネシア人に、富士山は活火山で噴火する可能性があると伝えると、「ボクはことしの9月にインドネシアへ帰るので、そのあとなら問題ありません」とほざくヤツがいれば、「そう言えばジャワ島には独特の文化があります」と言う人もいた。

彼はジャワ島出身で、ことし2月に爆発したムラピ山の近くに住んでいた。
その地域でムラピ山は神聖な山とされていて、山の上に人型の雲が見えると、それは悪いことの前兆で地震や噴火が起こるという言い伝えがある。
これはイスラーム教の考え方に反しているから、熱心な信者は迷信として否定するけど、イスラーム教徒でもそういう信仰を持って雲が見えたら何らかの儀式を行う地民がいるという。

噴火に溶岩、地震は死に結びつく、心の底から恐ろしくなる現象だから、たとえ反イスラーム教的でもこの考え方や文化は失われることなく残ってきたと彼はみる。
たしかにそれは一理も二理もある。
娯楽ではなくて、恐怖心に基づく文化は深く定着するからなかなか消えないだろう。

 

別のインドネシア人も、ブラックマジックを信じる人はいまでも多いと話していた。
インドネシアには「ドゥクン」という呪術師がいて(そのインドネシア人は英語でマジシャンと呼んでいた)、精霊を使って相手に呪いをかけることができるという。
ドゥクンは逆に、かけられた呪いを解くことができるし、不思議な儀式で病気を治療することも可能といわれる。
こうしたドゥクンの存在はこれまでイスラーム教、キリスト教、近代医学が否定してきたけど、いまでも社会に根強く残っている。

インドネシア社会においてドゥクンの影響力はまだ大きく、どこか恐れを感じさせるものであり、正統派イスラム教が最も支配的な地域でさえそうである。

ドゥクン

 

このドゥクンの話は、カリマンタン島に住んでいるキリスト教徒のインドネシア人から聞いた。
イスラーム教徒でもキリスト教徒でも、この呪術師の黒魔法を信じる人は多いらしい。

 

子供に憑りついた悪霊を追い払うドゥクン(1920年)

 

最後に話を冒頭に戻そう。
ことしの富士山には雪がなくておかしいのだが、気象庁の担当者は「地震や噴火とは関係ありません」とハッキリ否定しているから大丈夫だ。
でも、もし人型の雲が現れたらそのときは要注意。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。