【カレーより仏教】インド人が日本で親しみを感じたこと

 

海外に行って、日本のものを見つけると割とうれしい。

たとえばタイやインドネシアで「すし」「ラーメン」といった日本語の看板があるとか、アフリカでトヨタの車が走っているとか、日本の影響が世界に広がっているのを実感すると日本人として思わずニンマリしてしまう。

アラビア半島にあるイエメンでは「ナルト」が子供たちに大人気で、「ニンジャ」という言葉も有名だとか。

 

アラビア語で「ナルト」と書いてある。(はず)

 

言葉の通じない外国で、遠く離れた母国の文化を見つけると嬉しく感じるのは誰でも同じ。
シク教徒のインド人を日本のお寺に連れて行ったとき、彼はこの絵を見て誇らしく感じたという。

 

 

これは仏教の開祖、シャカの誕生に関する重要なシーンだ。
ベッドに横たわる高貴な女性は母親の摩耶(まや)夫人で、白いゾウがお腹の中に入ってくる夢を見てシャカを身ごもったと伝えられる。

この絵に描かれている女性の服装や飾りは完全にインドのものだったから、シク教徒の彼でも親しみを感じた。
それに見上げるような高い位置にこうした絵が掲げられているのを見ると、インド人としてまんざらでもない。

彼の見方では、ゾウは古代インドで王や貴族の乗り物だったから、この白いゾウはシャカそのものではなくて、シャカを乗せて運んできただけ。
この説が正しいかどうかは置いといて、シャカは王族出身だから、当時のインドではクシャトリヤ・カーストに属する人間であることは間違いない。

ボクが話を聞いた限りでは、街中によくあるカレー屋を見ても何も思わないけど、仏教関係での「日本にあるインド」を見ると、そこはかとなくプライドをくすぐられるというインド人が多い。
そういうものには日本人の敬意を感じるからだろう。

 

摩耶夫人
腰を「クネッ」としているあたりとかまさにインドの女性

 

さて、きのう1月16日は「初閻魔」の日だった。
1月16日と7月16日は地獄の釜のフタが開いて、鬼も亡者も休むといわれる閻魔賽日で、昔の日本人はこの日にお寺で十王図を拝んだり、閻魔堂にお参りをしていた。
いまでもそういう人は全国にいると思う。

休みが年に2回だけとか社畜もいいところで、フランス人なら激怒して抗議デモを起こすのは必至。
でも一応、地獄の鬼や亡者にも休日は認められている。
*これは正月と盆の休み(1月16日と7月16日のあたり)に、奉公人が休みをもらって故郷に帰るという「藪入り」(やぶいり)が影響している。

上にでてきた「十王」とは、地獄で死者を裁く以下の“裁判官”のこと。

秦広王、初江王、宋帝王、五官王、閻魔王、変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王

くわしいことは 十王 かアニメ「鬼灯の冷徹」を見てほしい。

日本での人気や知名度は不動のセンター・閻魔王がダントツで、もはや十王は「閻魔王とその仲間たち」と表現してもいいぐらいだ。

 

閻魔王
鬼灯の冷徹」の公式HPから

 

 

ヒンドゥー教徒のインド人とお寺の中を歩いていると、死後の世界の説明があって、その中で上の閻魔王がいた。
閻魔のルーツをたどっていくと、バラモン教(ヒンドゥー教)の死の神ヤマに行きつく。

さらにそれをたどると、ゾロアスター教に登場する王イマ(ジャムシード)に到達する。
ちなみに「進撃の巨人」に出てくるキャラ、ユミルの元ネタとなった北欧神話の巨人ユミルの起源もこのイマだ。
だから、ヤマ(閻魔)とユミルは同じ母体からうまれたことになる。

もともと同一だったこともあって、インド神話のヤマと仏教の閻魔には似ている部分が多いのだ。

ヤマは人間で最初の死者となり、死者が進む道を見いだした。そして死者の国の王となった。虚空のはるか奥に住むという。インドでは、古くは生前によい行いをした人は天界にあるヤマの国に行くとされた。

閻魔

完全にインドの神のヤマ

 

このとき一緒にいたインド人にとっては、シャカよりも閻魔王に親しみを感じると言う。
シャカはヒンドゥー教(バラモン教)を嫌って新宗教をはじめた人だけど、「エンマ」と「ヤマ」では発音が近いし、どっちも死を司る神だからヒンドゥー教徒の彼には閻魔王にゆかりを感じるらしい。

ふだんは気づかないとしても、こんな感じで日本とインドは深いところでいろんなつながりがある。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。