【アメリカ人の価値観】ダーウィン、科学で宗教に“勝利”する

 

このまえ知人のアメリカ人がSNSに「Happy Darwin Day!」と投稿していた。

人間は神からつくられたのではなくて、おそろしく長い時間をかけて、サルのような動物からうまれたという「進化論」ならダーウィンの前からあった。
でもそれまでの説は、その要因があいまいで説得力に欠けていた。
そんな進化論をダーウィンの書いた「種の起源」が一変させる。

周囲の環境に適応するように生物は「自然選択」という過程をへて進化してきたという説を、ダーウィンは実例をあげながら科学的に説明して「進化論」を決定的に進化させた。
そんな偉大なイギリス人、チャールズ・ダーウィンが1809年2月12日に生まれたから、この日は世界中で彼の生誕を祝うと同時に、科学全般を促進させるための日になっている。

 

ダーウィン

 

それはめでたい話として、先ほどのアメリカ人が投稿で書いたこのメッセージの意味がわかるだろうか。

「IN SCIENCE WE TRUST」

アメリカでは(たぶんヨーロッパでも)、「ダーウィンの日」と「我々は科学を信じる」のフレーズはセットになっているようだ。

この元ネタは「IN GOD WE TRUST(我々は神を信じる)」というアメリカの標語で、1ドル紙幣に印刷されていることば。

 

 

無神論者のこのアメリカ人はキリスト教のゴッドをはじめ、あらゆる神の存在を信じていない。宗教なんて無意味ではなく、「有害」とさえ考えている。
そんな彼にとって、人は神の創造物であるというキリスト教の説を否定する決定打を放ったダーウィンは英雄になる。
「種の起源」は聖書の内容より正しかった。
こんなふうにダーウィンを、科学が宗教(キリスト教)に打ち勝った象徴と考えている人がけっこういて、「IN SCIENCE WE TRUST」ということばは、そういう無神論で“科学的”な人が使うキャッチコピーらしい。

 

科学と武力が激突する『Dr.STONE 』ならマンガの話なんだが、100年以上前の欧米社会で、聖書の内容と矛盾することを公言するには、千空なみの勇気や自信が必要になる。
1920年代、進化論を教えていたアメリカの学校教師が熱心なキリスト教信者から訴えられて、全米を二分する争いが始まった。

くわしいことはここをクリック。

一般にはこの裁判は、ダロウがブライアンに、神が実際に6日間で世界を創造したわけではないかも知れないと認めさせたことから、ダロウの勝ちとされている。

進化論裁判

 

この裁判は聖書の記述を土台に進められた。
現代でもアメリカで「IN SCIENCE WE TRUST」と神を茶化すようなことを言ったり書いたりすれば、人や場所によっては裁判沙汰になってもおかしくない。

 

科学の内容が宗教の教えと矛盾して対立を引き起こすという状況が、日本でも過去にあったかもしれないけど、個人的には思い浮かばない。
少なくともこんな「サル裁判」なんて変な訴訟はない。
信じる宗教をきかれたら、ほとんどの日本人は「無宗教です。それが何か?」と答えるから、日本の歴史の中で科学が宗教に「勝利」した瞬間なんてよく分からないだろう。

ところで日本に「科学の日」なんてあったっけ?
と思って調べてみたら、日本化学会、化学工学会、日本化学工業協会、新化学技術推進協会の4団体によって、10月23日が「化学の日」に定められていた。
その由来はアボガドロ定数「6.02×1023 mol−1」という、おそろしく無機質なもの。

こういう社会に住む人間には、ダーウィンの日に「IN GOD WE TRUST」と書き込むアメリカ人の感覚はわからないだろう。
そしてそんなことをしたら、「IN SCIENCE WE TRUST」を信じるアメリカ人がどれほど反発するかも。
でもそれはきっと幸せな証拠だ。

 

2 件のコメント

  • > 信じる宗教をきかれたら、ほとんどの日本人は「無宗教です。それが何か?」と答える

    こういう安易な返答をするから、また誤解される元になるのですけどねぇ。
    欧米人が言うところの「無神論者」「無宗教者」とは、概して、キリスト教もイスラム教も仏教もその他伝統的アミニズムも何もかも、宗教的なものとは無縁で暮らしている「唯物論者」「共産主義者」を意味することが多いのですよね。彼らの思い描く「無神論者」は、正月に信者へ初詣に行ったり、知人の葬儀で手を合わせたりはしません。
    大多数の日本人の宗教を表現するのに最も近い言葉は、「神道・仏教を中心とした宗教心の薄い多神論者」だと思います。と言っても、そうでない人も多いのですが。私は面倒なので「伝統的・慣習的な神仏習合思想です」と答えることにしています。(それが余計に分からないと言う欧米人も多いのですが。)

  • どこの国でもカルチャーギャップはあります。
    郷にいては郷に従えで、日本では外国人が日本人の事情を理解することがいいでしょう。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。