【樹木崇拝】日本の「榊」とキリスト教世界の「生命の木」

 

先日10月8日は、「十」と「八」を合わせると「木」の字になるということで「木の日」という記念日だった。
木の良さを見直そう!という日なので、今回は宗教や文化としての“木”について書いていこう。

日本に興味のある外国人が集まるSNSグループでこの前、あるヨーロッパ人が「みんな見てくれ!日本では道路工事で邪魔になる木は、こんなふうにして別の場所に移すんだぜ!」というメッセージと一緒にこんな写真を投稿した。

 

 

寄せられたコメントを見ると、

That’s so cool of Japanese people thoughts 🍻cheers
(日本人のとても考え方はクールだね。素晴らしい)

Japan is the best country in the world.
(日本は世界最高の国だ)

I LOVE JAPAN!!!!!!
(日本が大好き!)

We are making Huge Mistakes in Forest Management! They are Cutting As Many As They Can!
(森林の管理で、わたしたちは大きな間違いを犯している!好きなだけ木を切っている!)

Tree should be treated sacredly they are our oxygen. And alive to.
(木は神聖に扱われるべきだ。木々は酸素を生み出している。そして生きている。)

Absolutely amazing
(本当にすごいね)

ancient trees are sacred
(古い木は神聖なんだ)

こんな感じに日本を絶賛する声が多いけど、「日本人はそんなに自然にやさしくない」「この説明は間違いだ」「日本を夢の国と思いたい人は、日本に行ってはいけない」と言う人もチラホラ。
生粋のジャパニーズのボクとしては、なにか特別な「ご神木」クラスの木ならこういうVIP扱いを受けるけど、工事のために容赦なく切り倒される木もあるとは思う。

いまネットで見てみたら世界の国の森林率は平均で約31%のところ、日本の森林率は約70%とかなり高く、先進国(OECD)の中で見るとフィンランドに次いで2番目だ。
日本は世界有数の「森の国」と思って間違いない。

 

そんな日本には「ご神木」という言葉が示すように、木には神が宿るという考え方が古代からあり、木を神聖視する信仰や文化があった。
いまの日本でよく見るものは神社にある榊(さかき)だ。

 

 

「榊」とは植物の名称であり、日本固有の文化である。
この漢字は日本人がつくり出した和製漢字だから、知人の中国人や台湾人に見せても「この字はなんですか?初めて見ました」と読み方が分からなかった。
榊はしめ縄と同じように神聖な場所を示すもので、「神と人の境となる木」という意味の「境木」(さかき)が語源といわれる。

くわしいことはここをクリック。

古来から植物には神が宿り、特に先端がとがった枝先は神が降りるヨリシロとして若松やオガタマノキなど様々な常緑植物が用いられたが、近年はもっとも身近な植物で枝先が尖っており、神のヨリシロにふさわしいサカキやヒサカキが定着している。

サカキ 

 

「みんな見てくれ!」と外国人を感激させた樹木の移動も、昔からつづく日本人の樹木崇拝の延長にある。
ちなみに公式ホームページによると、伊勢神宮では榊を使っていてしめ縄がない。
しめ縄はもとは中国文化だからだろう。

 

 

木は世界中にあって、天に向かって成長する、季節ごとによみがる、樹液が流れるといった現象に不思議な“何か”を感じ、木を信仰の対象とする風習は各地であった。

世界的に有名な樹木崇拝は、何と言っても古代メソポタミアの「生命の木」だろう。

砂漠に生えるこの樹木の強い生命力が古代人の崇拝の対象となり,生命力を象徴する図像となったもの。特にアッシリア美術において盛んに表現され,宮殿の壁画浮彫や円筒形印章の陰刻に遺例が多い。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

 

このメソポタミアの樹木崇拝は、ヨーロッパ世界にも大きな影響をあたえた。

聖書にでてくる楽園(エデンの園)の中央に植えられているのが生命の木で、この実を食べると永遠の命を得られるといわれる。
エデンの園には「知恵の木」(善悪の知識の木)もあって、アダムとイブはその果実を食べたことで追放された。

 

生命の木

 

知恵の木

 

でも、メソポタミアの樹木崇拝がキリスト教に与えたのは文化的な影響で、榊やご神木のように「神が宿る」という発想から木が信仰対象になったわけではない。
木を神として崇拝する考え方は反キリスト教的だから、ヨーロッパの樹木崇拝は禁止されなくなっていった。
クリスマスツリーは、古代ヨーロッパにあった樹木崇拝をキリスト教が吸収したものと考えられている。

クリスマス・ツリーと御神木:海外と違う日本人の信仰

日本の神道のように、古代の信仰がいまもそのまま残っている国は世界でもとても珍しいのだ。

 

 

2 件のコメント

  • 欧米における樹木信仰と言えば、日本では、北欧神話の世界樹(ユグドラシル)が一番有名なんじゃないでしょうか。SF小説、マンガ、映画、ゲーム、その他北欧神話を題材にした物語ではしょっちゅう出てきます。サイボーグ009(北欧神話編)にも出てきました。そう言えば、「天空の城ラピュタ」に出てくる大樹も、たぶんユグドラシルをヒントにした設定でしょう。
    ただ、世界樹の場合はあくまで神々たちの「住む世界」であって、世界樹そのものが神様ではないですが。

    ひょっとすると日本人以外には現在はあまり知られてないのかな?

  • そうなんです。
    じつはここで世界樹も紹介しようとしようと思ったのですが、まずはキリスト教・イスラーム教・ユダヤ教に共通する聖書を取り上げて、世界樹は別の機会に紹介しようと思いました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。