【過労死とマイペンライ】タイ人には不思議な日本人の労働観

 

もし始発のバスに乗車して、運転手のこんな行動を見たとしたら?

まだ発車まで時間があって客待ちをしている状態で、たまた前方のバックミラーを見ると、そこにはマンガを読む運転手が映っていた。
「出発時刻の前だから気にしない」という乗客ならよかったのだが。
それを見たある人が「運転中じゃなくても勤務中だろ!」とツイッターにその画像と一緒に投稿したから、ネットで一大論争となった。

これは擁護派の人たち

・休憩中に漫画読んでて誰が困るのかね
・国会でだって漫画読んだり小説読んだりタブレットで関係ないの見てたり寝てたりするやん
休憩中に漫画読んでもいいと思うけど、こういう考え方は少数派なんかね
・別に仕事さえちゃんとしてたら

こっちは批判派

・停留所にいる時は休憩って発想がバカ丸出し
完全に勤務中だろ
・漫画休憩は休憩室で
車内は休憩所では無い
・客扱いしてる以上勤務中

これに対しバス会社は、バス乗務の際には、運行に不要な物品を所持してはならないという社内規則があるから、この行為はアウトと言う。
国交省の安全政策課は、これはモラルの問題になるとして、「事業者がバスの運転手に対して教育がしっかりできているのか、国交省としても指導していくことになると思います」と言う。
全体的にこの運転手の行為は、いまの日本社会では認められないようだ。

 

社内規則を抜きにすれば、客に見える状態でマンガを読んでいた運転手があまりに不注意だったと思う。
個人的には、定刻通り安全に運行すればそれ以外のことは大目に見るし、「ツイッター告発」は考えられない。
ナンにでもクレームがついて、ネットで高速拡散されるいまの時代において、この振る舞いは自殺行為だった。

 

さてバスの運転手と労働観というと、10年ほど前にタイで見かけた彼を思い出す。

 

 

(たしか)博物館で乗客を降ろした後、この観光バスの運転手はハンモックを出して、バスとそこらの柱か何かに結び付けて携帯をいじり始めた。
乗客がこれを見ても怒り出すことはなく、「何のゲームしてんの?」と話しかけるに10バーツ。

この光景が衝撃的だったので、あとからタイ人の日本語ガイドに「あれはタイで普通ですか?」と写真を見せてきくと、「客を待ってる間はヒマですし、これぐらいならいいじゃないですか。マイペンライですよ」と一笑に付す。

マイペンライというのは「大丈夫。気にするな。何とかなるさ」といった明るく楽観的な、そして超無責任なことばで、タイ人の”らしさ”を表すときによくこれが使われる。

 

そんなタイ人からすると、日本人の労働観がわからないらしい。
日本の「過労死」を取り上げて、「なんで働いて死ぬのか?それがわたしには理解できません」と言う。
日本人のお客さんにきいて話をきいても、いまいちピンとこない。そしてそのうち、「タイ人にはわかりませんよ。でもそれは幸せなことです」と苦笑される。

この日本語は英語を通じて、いまや世界的に有名になってしまった。
英語版ウィキペディアにはもちろん項目がつくられていて、職場での精神的ストレスは過労死を引き起こす可能性もあり、働きすぎによる自殺は「過労自殺」とよばれるという説明がある。

Mental stress from the workplace can also cause karoshi through workers taking their own lives. People who commit suicide due to overwork are called karōjisatsu (過労自殺).

Karoushi

 

ハンモックで素足でリラックスするバスの運転手がいて、それを許容する大らかな社会からすると、これはちょっと理解できないと思う。
いまのタイの労働環境や人びとの意識はよくわからないけど、でもやっぱり日本に比べたらユルユルな社会で、客を待つ間、運転手がマンガを読むことぐらいなら「マイペンライ」で済むだろう。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。