【日本人と季節】タチアオイが梅雨を象徴する花の理由

 

1年を春夏秋冬の四季で分けるのは現代のアタリマエ。
でも、江戸時代などむかしの日本人は1年を24の「二十四節気」や、72の「七十二候」に分けて考えることもあった。

2021年の6月15日、軽く死ねそうなほど暑い今日は、二十四節気なら「芒種(ぼうしゅ)」という季節になる。
芒種とはイネやムギなど、芒(のぎ)をもつ作物のタネをまく時期のことで、夏の季語である芒種は梅雨入りと重なることもある。

6月15日は七十二候でいえば「腐草為蛍」(くされたるくさ ほたるとなる)という季節で、これは「ホタルが飛び始めるころ」といった意味。
現代の日本人からすると、「腐った草とホタルに何の関係が?」と思ってしまうが、蒸し蒸しして腐った草がホタルになって、この時期に幻想的な光を出して飛び回るとむかしの人は考えたらしい。
他にも腐ったように蒸れた草から、ホタルが飛び出してくるという理解もある。
こういうむかしの日本人の季節感は、現代の日本人とはかなり違う。

 

芒種や腐草為蛍のころに咲くのが、梅雨を象徴する「タチアオイ」という花。
これには「ツユアオイ」という別称もある。
「塀の上へ咲きのぼりけり花葵」という正岡子規の句は、日本で雨が降り始めるこの時期に詠まれたものだろう。
この花葵(はなあおい)とは下の写真のように、真っ直ぐに伸びたクキの周りに、ピンクや白などの花をつけるタチアオイのこと。だから漢字だと「立葵」になる。

 

 

 

 

中国・明の時代の書物には、日本の使者がこの花を知らなかったという記録があるから、日本にタチアオイは室町時代以降にやってきたのだろう。

「上へ咲きのぼりけり」とあるように、この花には下から上に花が咲いていくという特徴がある。
だから江戸時代にはタチアオイの成長は、人々に梅雨の入りと明けを伝える「目安」になったようだ。

毎日新聞のコラム(2021/6/15)

江戸時代の随筆などでは梅雨入りとともに咲き始め、茎を咲きのぼる花が頂上に達すると梅雨が明けるといわれた

「塀の上へ咲きのぼりけり花葵」は…

タチアオイを描いた絵(江戸時代)

 

「ツユアオイ」はこれに由来する。
日本各地にある花だから、もしどこかで見かけたら、江戸時代のように梅雨の「進捗状況」を確認してみよう。
日本には花の咲きのぼり具合で感じる季節感もある。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。