【日本の季節】七十二候と二十四節気と“最高のカレンダー”

 

季節を春夏秋冬の4つで表すというのは現代の話。
昔は「二十四節気(にじゅうしせっき)」といって、1年を24に分割する季節の表し方もあったのだ。
いまでも「春分」「夏至」「秋分」「冬至」はよく使われるから、二十四節気が日本の社会からなくなったわけでもない。

3月26日のきょうはちょうど春分の真っ最中(2021年は3月20日〜4月3日)で、その前の「啓蟄(けいちつ)」から本格的な春の始まりとなる。

各二十四節気をさらに細かく「初侯・次候・末侯」の3つにして(約5日ずつ)、1年を72の季節に分けて考えることを「七十二候(しちじゅうにこう)」という。
七十二候の特徴は単語ではなくて、気温や湿度や風などの気象や動植物の変化などを短文で表していること。
電気もなかった時代に生きた人々は、身の回りの移り変わりを敏感に感じ取ってそれをことばで表現した。

たとえば「啓蟄(けいちつ)」を3つに分けた七十二候のはじまり(初侯)は「蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)」になる。
地面の中でじっと冬ごもりをしていた虫たちが、春の暖かさを感じて戸を啓(ひら)くように地上に出てくるというのが蟄虫啓戸の時期。
この場合の虫は範囲が広く、蛇や蛙など地中にいたいろいろな生き物を指す。
春に虫が2つで「蠢 (うごめ)く」という字になるから、蟄虫啓戸の季節を表すにはピッタリだ。

2021年の蟄虫啓戸の期間は5日間(3/5~3/9))で、その次の七十二候は「桃始笑(ももはじめてさく:桃の花が咲き始める)」になる。

 

日本人なら「七十二候」のことばを見て、これが中国から伝わった考え方というのが感覚として分かると思う。
しかし日本人は魔改造の民。
ヤマトの風土に合わせて中国の七十二候をかなり変え、日本人は「本朝七十二候」という独自の暦を考案した。
*本朝は日本の意。
たとえば日本の「蟄虫啓戸」が中国版では「桃始華(桃の花が咲き始める)」、「桃始笑」は「倉庚鳴(倉庚が鳴き始める)」になっている。

 

 

二十四節気の暦では読んで字のごとく、立春から春、立夏から夏、立秋から秋、立冬から冬が始まる。
これは旧暦だから、いまの日本社会で言われる四季より1ヶ月ほど早い。
それでテレビのアナウンサーが「暦の上では立春ですが~」なんて前置きをすることもある。

七十二候は、二十四節気の立春の初侯「東風解凍(こちこおりをとく: 東風が厚い氷を解かし始める)」から始まる。
そして夏へと移り変わるころの立夏の初侯は「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」、大暑の次候は「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし):土が湿って蒸暑くなる)」となり、季節の移り変わりがはっきりと感じられる。

秋の訪れを感じさせる立秋の初候は「涼風至(すづかぜいたる:涼しい風が立ち始める)」、秋分の次候は「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさ: 虫が土中に掘った穴をふさぐ)」で、これは蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)のまさに反対。
末侯「水始涸(みずはじめてかる:田畑の水を干し始める)」で秋分は終わりとなる。

冬の始まり(立冬の初候)は「山茶始開(つばきはじめてひらく: 山茶花が咲き始める)。
本格的な寒さの到来となる大雪の次候が「熊蟄穴(くまあなにこもる: 熊が冬眠のために穴に隠れる)で、これは中国の七十二候「虎始交(虎が交尾を始める)」と違ってかなり和風だ。

とこんな感じで古代の日本人は、季節を大ざっぱに「春夏秋冬」だけで表現する現代人とは観察力や感受性が違っていた。

 

 

 

 

 

これは15年ぐらい前、浜松市に住んでいたオーストラリア人から聞いた話。
彼女が朝起きると、アパートの前に広がる田んぼ一面に水が張られていて、前日の乾いた「土」とは一変していて驚いた。
白い雲や空の青を映すその鏡で田植えが始まると一面が緑になり、夏になるころにはカエルの大合唱が聞こえる。
そして秋になると黄金色になって、収穫が終わるとまた土に戻る。

それまで住んだことのあるオーストラリア・アメリカ・フランスではこんなふうに、季節の移り変わりを実感することはなかった。
それで彼女は日本の田んぼを「これまで見た最高に美しいカレンダー」と表現する。
この外国人の感覚は、季節を七十二候や二十四節気で分けていた古代の日本人ときっと同じだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。