イランの英雄アーラシュと台湾の五輪選手が、日本で話題のワケ

 

世界中から選ばれたトップアスリートが集まるオリンピック。
その実力は全員が折り紙付きとして、それ以外で無条件で話題になるとしたらビジュアルだ。
今回の東京五輪では開会式に登場して「リアル・ゼルダ姫」と騒がれたカザフスタンの陸上選手ほか、こんな女子アーチェリーの選手にも注目が集まった。

 

 

日本で話題になった外国人の男子アーチェリーの選手といえば、台湾の蔡総統が拍手を送っているこの人できまり。

 

 

アーチェリー台湾代表の鄧宇成選手がみごと銀メダルを獲得。しただけなら、日本のSNSでトレンド入りすることはなかった。
このトウ(鄧)さん、実は日本のアニメやゲームが大好物で、全集中してアーチェリーの矢を放つときに「ステラ」のかけ声をかけるのだ。
これはゲーム「Fate/Grand Order」に出てくる古代イランの英雄「アーラシュ」が、宝具(必殺技)を放つときに叫ぶ声でトウ選手はそれをマネしているという。

日本のゲームの必殺技を口にしながら矢を放つ外国人メダリストを、日本のメディアが取り上げないはずない。
いまの時代、「美人すぎる~選手」はテレビ的にはちょっと問題があるけど、こっちはまったくノープロブレム。
トウ選手とアーラシュの知名度は一気に高まった。

・イラン人の話じゃねえのかよw
・チャーシューメン的なやつ?
・なんだ、女神転生じゃないのか
・ムスリム界隈からは怒られるんじゃないの
・アーラシュさん、まさかの全国区デビュー!?
・やったね、アーラシュさん。これで日本での知名度が上がったよ。日本での聖杯戦争に有利になったよ。

 

3分40秒あたりから一撃必殺の「ステラ」が出てくる。

 

こういうネタは台湾人も好き。

 

 

アーラシュは古代イランの伝説的な英雄だ。
あるときイラン人と異民族との間で戦争が起こり、やがて両軍は講和を結ぶ。
このときの合意で、弓矢を放ってそれが届く限りの土地がイラン人に返還されることがきまった。
それで白羽の矢が立てられたのが、弓の達人だったアーラシュ。
彼が力の限り矢を引いて空に放つと、矢は視界から消えるほどのとんでもない距離を飛んでいき、それがそのままイラン人と他の民族とを分ける国境となった。

その矢を放つときアーラシュはこう言ったという。

「この矢を放ったとき、私は滅びるだろう」

この言葉どおり、矢を放つとアーラシュの体はすぐに裂けてバラバラになった。
ゲームでもそんな設定らしい。

 

ところでいまのイランで、この英雄の人気や知名度はどれぐらいあるのだろうか?
「ムスリム界隈からは怒られるんじゃないの」というコメントがあったように、イスラム教との摩擦はないのか。
知人のイラン人に聞いたら、こんな返事が到着。

「とても有名でたくさんの親が子供は男の子ならアーラシュっていう名前をつけます!」

アーラシュは神ではないから、イスラム教とも矛盾しないようだ。

「そうだね!ヒーローとして人気があります!そして、沢山のイラン人はもうイスラム教を乗り越えてます!」

 

トウ選手のインスタグラムを見ると、なかなかディープなオタクだった。
『リゼロ』に出てくるレムだけで、これだけのフィギュアがあるのだから。

 

 

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日本のゲームが古代イランの英雄をキャラに取り上げて、台湾人のアーチェリーの選手がそれを気に入った。
その選手が銀メダルをとって、かけ声が広く紹介されて日本でこの選手とアーラシュの知名度が急上昇する。
21世紀とはこういう世の中だ。

 

 

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2 件のコメント

  • > そうだね!ヒーローとして人気があります!そして、沢山のイラン人はもうイスラム教を乗り越えてます!

    今度の選挙で、超保守派のライースィー大統領が選出されたので、そんなことも言えなくなってくるのでは?
    やはり、宗教にあまりにも依存している国・国民は危ない気がします。結局は自民族優位主義と同じだ。
    イスラム教も、もうちょっと、全体的に世俗的穏健主義に変化すれば世界から受け入れられると思うのですが。
    でもそうならないからこそ、イスラム教が現在も存続し続けているとも言える。
    難しいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。