五輪で黙とう拒否&日本失望:世界は原爆投下をどう見てる?

 

コロナ禍という現実と向き合っていると、東京五輪の熱気が急に遠くなってしまったような気がする。
今回の五輪は8月の”あの日”に重なったということで、広島市や原爆被害者団体が国際オリンピック委員会(IOC)に対して、6日には各国選手らに黙とうを呼びかけて欲しいと要請した。
がその返事はNO。
バッハ会長が開会式の直前に広島を訪問したことに触れて、ある関係者はこう失望する。

朝日新聞の記事(2021年8月2日)

「せっかく平和記念資料館にも来たのに、黙禱を呼びかけようという気持ちになってもらえなかったのは残念」と肩を落とした。「祈りの時間をちょっと設けることは世界の人も反対しないと思う」と話した。

五輪、「原爆の日」に黙とうせず IOC方針に失望の声

 

IOCや組織委の“却下”に「核廃絶をみんなで願うきっかけになったかもしれないのに、悲しい」と肩を落とす人もいたとか。

この失望は当然だ。
核兵器とは人類共通の悪で、これによる悲劇は広島・長崎で最後にしないといけない。
そのために世界中が注目するオリンピックの場で、国や宗教を越えて人類が犠牲者に哀悼の意をささげ、核のない平和な世界を願うのはいいことだ。

そんなふうに考えていた時期がオレにもありました…。
でもやっぱり、オリンピックでそれはできないでしょうねー。
「あの原爆投下について外国人はどう考えているのか?」ということに興味があって、これまで何度か外国人に聞いてみたことがある。
するとその結果はカオス。
今回はその一例をご紹介しよう。

 

日本が好きだったり関心のある外国人が集まるSNS上のグループに、きょねん8月9日にこんな写真を投稿した。

 

 

ここは原子爆弾が投下された直後の長崎の火葬場で、弟の遺体を背負った少年は真っ直ぐ前を見て順番を待っている。
「子どもにこんな悲しい思いをさせてはいけない。核兵器のない平和な世界を願う」というメッセージを写真と一緒に投稿したところ、外国人からは、

「まったくそのとおり。我々は平和な時代を築かないといけない!」
「That is so heartbreaking(胸が張り裂けそうだ)」

といった共感コメントもあったんだが、「日本はそうやって被害をアピールして、中国・韓国・東南アジアで行った加害の歴史を隠してはいけない」という声がアジア人や欧米人からかなりあった。
だからこんなコメントに、たくさんの「いいね」が押される。

・Thats why many people still asking japan to apologize and Japan should. That will make japan a good nation.
だからこそ多くの人がいまも日本に謝罪を求めているし、日本はそれをするべきです。そうすれば、日本は良い国になるでしょう。

こう言ったのは、名前からしてきっと英語圏の人間だ。

でもこの主張にはほかの外国人から、「それとこれは関係ない。むしろアメリカはそうやって自国が行った蛮行を隠そうとしている」、「いや、関係はある。原爆を投下しなかったら、日本の残酷な行為は続いていた!」という意見が上がって論争がぼっ発。

すると今度は、「いま野蛮な行為をしているのは中国だ」という声が登場する。
*以下、長い英文は後半部分を省略した。

・I don’t want to get political, however there is and Authoritarian “Communist” regime that is saying presently that they want to nuke Japan…
政治的な話はしたくないが、現在、日本を核攻撃したいと言っている権威主義の “共産主義 “政権がある…。
(これは中国のこと)

・Now china are doing it also the same thing and america said stop conquering other territory but china won’t listen US.
中国も同じことをやっていて、他国の領土を侵略するなとアメリカが言っても中国は聞く耳を持たない。
アメリカはいま、かつて日本にしたように、中国が間違った行動をすればすぐに攻撃する準備ができている。

こう言われて、中国人や中国系の人たちが黙っているワケない。

・What do you mean? It has always been the United States that has been launching wars such as Syria and Iraq.
オマエは何を言っているんだ?
シリアやイラクなどに戦争を仕掛けてきたのはいつもアメリカだ。アメリカはずっと中国と戦争をしたいと思っているが、中国はアメリカにその理由を与えない。西洋諸国や日本が我々を侵略することは二度と許さない。

「焼き場に立つ少年」の写真を見て、「南京事件」や「731部隊」を持ち出して日本を責める人がいれば、「中国はチベットに何をした?いまウイグルで何をしている?」と挑発する人も出てくる。
南京事件とチベットを同一視されると、中国人にとっては「絶対に負けられない戦い」になるから全身全霊でこれを否定する。
おまけに「反米」になると、思わぬタッグが見られることもアリ。
シリアやイラクに戦争を仕掛けてきたのはアメリカだと言うと、ふだんは中国を好きではないイスラム教徒も「まったくそのとおりだ。アメリカはいつも邪悪だ」と中国人と一緒にアメリカを攻撃する。

 

ほかにも「あの原爆投下は、アジア人に対するアメリカ人の人種差別意識が原因だった」という声が上がると、「バカかおまえは。おまえの無知にはあきれるしかない」という怒りの反論が返ってきて、また別のバトルがぼっ発。
いろんな視点が次々と飛び出してきて争いが発生し、しかもキリがない。

ということで五輪で各国に黙とうを呼びかけることについても、「祈りの時間をちょっと設けることは世界の人も反対しない」というのはワン・オブ・ゼムでしかない。
原爆投下の受け止め方は国や個人によって本当にいろいろあるから、”祈り”の解釈もさまざまあるはずだ。
で、「日本(アメリカ)がヒドイことをした。謝罪しろ」と思ったり言い出す人、南京事件、731部隊、チベット、ウイグル、シリア、イラク、人種差別を持ち出す人が出てくるだろう。

IOCが率先して黙とうを要請すると、きっとてんやわんやの大騒ぎになる。
だからそれが拒否されて、日本の関係者のあいだで失望の声が広がってもそれは仕方なし。

 

 

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カテゴリー「平和」 目次 ①

平和な日本を次の世代へ。東京大空襲と神風特攻隊とは。

 

3 件のコメント

  • > 黙禱を呼びかけようという気持ちになってもらえなかったのは残念」と肩を落とした。「祈りの時間をちょっと設けることは世界の人も反対しないと思う」と話した。

    日本人、あるいはその場に同席した人々に呼びかけるならば分かります。
    しかし「世界の人に向かって呼びかけるように」要求するのは、悪意はないけれども、世界の現実に関する無知ゆえの傲慢さを感じます。日本人以外の人々の価値観においては、「平和を祈る」だけでは「平和に貢献している」とはみなされません。それが世界の常識です。
    日本人だけの宗教的感覚を外国人にまで押し付けようとするのは、しょせん無理な話。

  • ↑なんか難しく考えすぎでは?
    原爆に関して加害者で最大のスポンサーである米にIOCが配慮したってだけじゃないの

    それより日本の残酷な行為って具体的には何ですかね?原爆投下がデータを取りたいがための実験だとしたら仮に731が本当だとしても比べ物にならないと思うんですが。南京ってのも「じゃあ南京以外は?」って
    少なくとも日本は植民地で手足切ったりはしてませんよ

  • 見方は人それぞれありますね。
    6日の黙とうでは中国・韓国も反対するでしょうし、いろんな混乱が生じると思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。