前回、「人種」について書いた。
「人種の分け方」についていえば、ふつうの日本人が思い浮かべるのは「皮膚の色の違いによる分け方」だろう。
「肌の色の違い」で人種を分類する考え方は世界でも一般的なことだ。
じん‐しゅ【人種】
人類を骨格・皮膚・毛髪などの形質的特徴によって分けた区分。一般的には皮膚の色により、コーカソイド(白色人種)・モンゴロイド(黄色人種)・ニグロイド(黒色人種)に大別するが、この三大別に入らない集団も多い。
デジタル大辞泉の解説
ウィキペディアでも人種の分類方法として、「伝統的な人種の分類例(肌の色)」という説明がある。
でも、肌の色の違いに「優劣」をつけると差別につながるからこれは絶対にいけない。
ベトナムのカフェ
こうしてイスを外に出してコーヒーを飲むのはフランスの影響だという。
前にブラジル人の友だちからおもろしい話を聞いた。
ブラジルでは国内にいる韓国人や中国人を、「あの日本人は韓国人だ」とか「あの日本人は中国人だ」という言い方をするらしい。
最初この話を聞いても、意味が分からなかった。
「日本人の韓国人」ってなんだ?
その理由を聞くと、日本人移民の影響からこんな考え方ができたのだという。
ブラジルには、日本からの移民とその子孫がとても多い。
そのことから、ブラジル人の一般的な認識として「肌の色が黄色いアジア人=日本人」となった。
だから、日本でいう「アジア人」というところが、ブラジルでは「日本人」になってしまう。
先ほどのことでいえば、「あのアジア人は韓国人だ」という言い方なら日本人にも意味が分かるはず。
この「アジア人」を「日本人」に入れ替えると、ブラジル人の言葉になる。
「あの日本人(アジア人)は韓国人だ」ということ。
ちなみにブラジルで生まれた日系人も、ブラジル人ではなくて「日本人」と呼ばれるらしい。
呼び方はともかくとして、このブラジルの事例からも、肌の色の違いによって人を分けることは珍しいことではないと分かる。
人種ということから離れたら、色の違いで人間を分けるという考え方は昔からよくあった。
日本の歴史を見れば、色の違いで身分の違いをあらわす「冠位十二階」というものがある。
冠位十二階
かんいじゅうにかい日本で最初の位階制度。
冠の色によって階級を表わした。推古 11 (603) 年聖徳太子が制定。徳,仁,礼,信,義,智の6徳目を,それぞれ大小の2つに分けて 12階とし,これに紫,青,赤,黄,白,黒の色をあて,その濃淡によって大小を区別した。ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
繰り返しになるけど、色の違いで人を分類すること自体は問題ではない。
けれど、肌の色の違いによって、人間の上下や優劣の違いをつけてしまうと大問題になる。
それでは、人種差別になってしまう。
この人種差別の最悪な例として、第二次世界大戦中にナチス=ドイツ(ヒトラー)によるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)がある。
これによって600万人のユダヤ人が殺されたといわれる。
アーリア人であるドイツ人は、非アーリア人のであるユダヤ人より「優れている」という人種差別の考え方にもとづいて、数百万人ものユダヤ人を殺している。
カンボジアのキリングフィールド(処刑場)
埋められた遺体を掘り起こしている様子。
このナチス=ドイツによるホロコーストの「アジア版」と言いわれる虐殺に、ポルポト政権による大虐殺がある。
このことから、ポルポトは「アジアのヒトラー」と呼ばれることがある。
「ポル=ポト政権」
1975年にカンボジアで成立したポル=ポト(?~1998)の急進左派政権。都市から農村への強制移住、通貨の廃止、反対者の大量虐殺などをおこなった。文化大革命の影響を受けて中国に接近し、隣国のベトナム・ラオスとは対立した
「世界史用語集 (山川出版)」
ここに書いてある虐殺では、160万人もの人たちが殺されたという。
昔は「300万人が殺された」と考えられていたけど、それは「盛り過ぎだった」ということで今では否定されている。
ポルポト政権による大虐殺は、ヒトラー(ナチス=ドイツ)の大虐殺と同列に語られることが多い。
アルメニア人虐殺、ホロコースト、ポル・ポト派による虐殺、ルワンダ虐殺等と並んで20世紀の最大の悲劇の一つである。
(ウィキペディア)
ここにある世界の虐殺は、数十万、数百万の人間が殺されたという大規模な虐殺である点では同じ。
でも、違いがある。
アルメニア人虐殺・ホロコースト・ルワンダ虐殺は、人種(民族)の違いから生まれた虐殺だけど、ポル・ポト政権による虐殺はそうではない。
博物館にあったポルポトの写真。
よく見ると、目がつぶされている。
ポルポト政権によって家族や知り合いを殺された人たちが、ペンなどでこの写真の目をついたのだという。
ポルポト政権の虐殺とナチス=ドイツのホロコーストをみてみよう。
ナチス=ドイツの虐殺は人種に対する憎悪があったけど、ポルポト政権の虐殺の場合は思想に対する憎悪があった。
カンボジアの大虐殺では、ポルポト政権と同じカンボジア人が殺されている。
同じ人種同士での虐殺なのだから、これはナチスのようなユダヤ人への人種差別にもとづく虐殺とは違う。
ポルポト政権が、カンボジア人に対して人種的な憎悪を持っていたわけがない。
そもそも、ポルポトは共産主義者であって人種差別主義者ではない。
共産主義の考え方からしたら、人種による人の分類は好ましいことではない。
世界史用語集に「文化大革命の影響を受けて中国に接近し」と書いてあったことからも、ポルポトはヒトラーよりも毛沢東に近い人間だったとわかる。
結局、ヒトラー(ナチス=ドイツ)の大虐殺とポルポトの大虐殺は、100万人以上の人が殺されたという規模の点では同じだけど、それがおこなわれた動機や目的はまったくといっていいほど違う。
ナチス=ドイツの虐殺は、英語で「holocaust(ホロコースト)」と書く。
でも、カンボジアのポルポト政権による虐殺は、「ジェノサイド(Genocide)」か「マスカー(Msacre)」と書く。
ヒトラー(ナチス=ドイツ)の虐殺とポルポト政権の虐殺を、「同じような虐殺」と考えない方がいい。
そうすると、結局両方とも分からなくなってしまうと思う。
赤ん坊は木にたたきつけて殺したという。
画像と下の言葉は「NHK 映像の世紀 第10集」から。
この理想社会を実現させるため、ポル・ポト政権は家族を解体し、子どもたちを親から離して集団生活させた。
そして洗脳教育をおこなう。
この当時、ポル・ポトは子どもたちにこんなスローガンをかかげていた。
我々は独自の世界を建設している。
新しい理想郷を建設するのである。
したがって伝統的な形をとる学校も病院もいらない。貨幣もいらない。
たとえ親であっても、社会の毒と思えばほほえんで殺せ。
今住んでいるのは新しい故郷なのである。
我々はこれより過去を切り捨てる。
泣いてはいけない。泣くのは今の生活を嫌がっているからだ。
笑ってはいけない。笑うのは昔の生活を懐かしんでいるからだ。
ポル・ポトが憎悪したのは古い思想であって民族ではない。
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