イスラム教徒だって伊勢神宮に行きたい!しかし不安はある。

 

留学生として日本の大学で学んでいて、いまは母国に戻っているインドネシア人とこのまえ話をしたワケだ。
なので今回は、その内容をご紹介しようと思う。
でもそのまえに、インドネシアの基本情報を知っておこう。

 

 

こんな国だよインドネシアって。

面積:約189万平方キロメートル(日本の約5倍)
人口:約2.55億人(2015年)
首都:ジャカルタ(人口1,017万人:2015年)
民族:大半がマレー系(ジャワ,スンダ等約300種族)
言語:インドネシア語
宗教:イスラム教 87.21%,キリスト教 9.87%(プロテスタント 6.96%,カトリック 2.91%),ヒンズー教 1.69%,仏教 0.72%,儒教 0.05%,その他 0.50%(2016年)

以上の数字はインドネシア共和国(Republic of Indonesia) 基礎データから。

インドネシア社会に大きな影響を与えているのがイスラム教。
これは7世紀前半、日本では聖徳太子がいたころ、アラビア半島でムハンマドが始めた宗教だ。
イスラム教徒のことをアラビア語で「ムスリム」といい、「神(アッラー)に帰依する者」「アッラーに絶対服従する者」といった意味になる。

 

さてインドネシアといえば新型コロナウイルスの猛威にさらされている国で、7月中ごろには1日の新規感染者が5万人を超え、感染爆発が止まらなかった。
でもその後、だんだんと減少していって、8月後半のいまは1日1万5千人といったところ。

その理由のひとつとして知人のインドネシア人は、国民の約9割を占めるイスラム教徒の中には、コロナのワクチンには豚に由来する成分が含まれているという話を聞いて、接種を拒否する人が多々いることを挙げる。
宗教心の薄い日本ではこういう問題がないから助かるぜ。
ちなみにこの知人はイスラム教の聖典クルアーン(英語読みだとコーラン)を原文で読みたいと、アラビア語を学んだほどガチなイスラム教徒だ。
政府の発表は信用できないと、ワクチン接種も拒否している。
そんな彼が日本にいたとき、伊勢神宮に行ったと言うからそのときの話を聞いてみた。

まず日本人大学生の友人から、今度みんなで伊勢神宮へ車で行くという話を耳にする。
調べてみると、天皇の先祖神・アマテラスをまつる伊勢神宮は日本ナンバーワンの神社であることを知って、「行ってみたい!」と友人に言ったらあっさりOK。
浜松からの移動や現地での行動については友人にまかせるとして、彼が気になったのは、自分は何をどこまでできるのか?ってこと。

神はアッラーのみを信じるイスラム教徒として、礼拝がダメなのはいうまでもない。
それであとは、
手水(参拝前に手を清める水)で手を洗ったり口にふくんでいいのか?
神道の神のいる建物の前で手を叩いていいのか?
頭を下げていいのか?

ワクチン接種にせよ伊勢神宮に行くせよ、初めて何かをするまえには、それがイスラム教の教えに反していないかどうかを確認しないといけない。

そこで信頼できるイスラム指導者に相談したら、「全部OKですよー」という返事をもらった。
ただしそれは形だけで、心を込めてはいけない。
日本人と同じ振る舞いをするのはかまわないけど、伊勢神宮にいるアマテラスとやらを神として認め、うやまってはいけないという。
それで彼は心を空っぽにして、動作だけ日本人のマネをした。

彼の伊勢神宮の感想はというと、豊かな森の中に小さ目の建物がいくつもあって、とても気持ちよく歩くことができたし、インスタ映えするようなスポットでの写真撮影も楽しめた。インドネシア人にコレはとても大事なポイント。
おかげ横丁も含めて、日本らしい雰囲気を存分に味わうこともできたから、彼の満足度はきわめて高い。
だからイスラム教徒のインドネシア人にとってお伊勢参りは、参拝ではなくてただの観光でしかない。

 

別のインドネシア人のイスラム教徒と伊勢神宮に行ったとき、その人も同じように柏手を打って頭を下げていたから、彼の話を聞いて特に驚くことはなかった。やっぱりなと。
異教の神をまつる建物と軽視することはなく、イスラム教徒は日本人の文化を尊重してけっこう柔軟に対応する。ただし教義の範囲内に限る。

ネットを見てたら、日本財団理事長の尾形武寿さんのこんな文を発見した。

敬虔なイスラム教の信者である一行が伊勢神宮の境内で躊躇うことなく頭を垂れ礼拝する姿を見て感動したと聞いた。(中略)緑の山に囲まれ、五十鈴川の清流が流れる神宮の静謐な空気の中に、彼らの天国に通じる“何か”を感じ取ったのかもしれない。

イスラム教徒も首を垂れる 伊勢神宮の神々しさ

 

イスラム教でいう天国とは「清らかな水が流れ、緑にあふれる地」だそうで、信者らはこれと伊勢神宮を重ねたかもしれない。が、心は空のままで礼拝はしていないはず。
それはアッラーを冒とくする行為になって、ムスリム(神に帰依する者)に反する行為だから、敬虔なイスラム教の信者ならなおさらだ。

 

 

今回話を聞いたインドネシア人は男性で、友人のムスリム女性が伊勢神宮に行ったときには、まったく違う不安があったと言う。
それはドレスコード。
インドネシアやマレーシアのイスラム教徒の女性はほとんどの場合、こんなヒジャブという布で髪を隠している。

 

 

伊勢神宮はイスラム教で言うとメッカのような聖地と聞いて、その女性も心から行きたいと思ったけど、ヒジャブをしたまま中へ入ることができるのか?
もしそれがダメなら、伊勢神宮へは行かない。
その点は日本人の友人が調べてくれて、大らかな伊勢神宮はヒジャブをした異教徒でも受け入れてくれると聞いてこの懸念は解消された。

考えてみるとタイやミャンマーの仏教寺院では、短パンやキャミソールとかは失礼な格好とされ、中へ入れてくれないことがよくある。
この点、日本のお寺や神社はけっこうゆるゆる。
伊勢神宮でタンクトップ、ミニスカート、サンダル姿の日本人を見かけたことがある。
あれならヒジャブのほうが敬意を感じられていいかも。

 

ただアマテラスがどう思うか別として、イスラム教に警戒心を持っている日本人はまだまだ多いのが現状。
2018年に伊勢市が伊勢神宮の近くにある観光案内所の一部を改修して、ムスリムが礼拝できる場所をつくると発表したところ、批判や反対の声が多く寄せられてその計画は消えた。
イスラム教徒が伊勢神宮を自由に見て歩くのは問題ない。
でも礼拝所となると、まだまだハードルは高そうだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。