【ドイツの闇】東西統一から31年、いま国民の間には“心の壁”が

 

関西にある「イオンモール高の原」には全国のイオンの中でも、ここにしかない独自の魅力がある。
この店舗は京都・奈良の県境にあって建物の北側は木津川市(京都府)、南側は奈良市に位置しているから、店の敷地内に県境のラインが引かれているのだ。
もし京都ゾーンで落とし物を拾ったら京都府の警察署へ、奈良エリアの物は奈良県の警察署へ届け出ないといけないというルールがある。
といっても拾った場所は「自己申告」だから、そんなきまりに意味はない。
この「分断されたイオン」は警察も加わった壮大なネタのようなもので、まぁこのていど奈良いいのだよ。

 

駐車場にある県境を示すライン
画像:奈良府民

 

さてきのう10月3日は「ドイツ統一の日」だった。
第二次世界大戦で敗戦国となったドイツはアメリカ側の西ドイツと、ソ連側の東ドイツとに分かれて、別々の国として戦後を始めることとなる。
そんなドイツ分断の象徴が東ドイツによって建設されたベルリンの壁。
国としては西のほうが魅力的だったから、高い教育を受けた多くの若者が東を捨てて西ドイツへ流入したことに、危機感をもった東ドイツが物理的にそれをあきらめさせた。

 

左が西ドイツ、右は東ドイツなり
画像:Bundesarchiv

 

戦後、社会主義国家を選択した東ドイツは経済的に停滞する一方、資本主義を選んだ西ドイツは発展が進み世界の優等生になっていく。
西と東のドイツ、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い。
同じ言語を話す同じ民族なのに、政治体制を誤ったことで、東にはもう西の背中が見えないほど絶望的な差がついてしまった。
*といっても東ヨーロッパの社会主義諸国の中で、東ドイツは最も発展していた。

20世紀後半になると東ドイツが「もう無理…」と自壊する形で1989年にベルリンの壁が崩壊し、1990年10月3日にドイツが再び一つ国となった。
それを記念して現在では「ドイツ統一の日」という祝日になっている。

 

ベルリンの壁に登る東西ベルリン市民(1989年)
画像:Lear 21

 

対等な立場で話し合い、両者が笑顔で握手して得られた統一ならよかったのだよ。
でもドイツの場合は東が内側から滅んで、西ドイツに吸収されたようなものだから、東西の経済格差は、ベルリンの壁が崩壊して30年ほどたったいまでも残酷に存在している。
旧東ドイツ地域の失業率は西に比べて高く、住民の平均月収は7~8割ほどと低い。
こうした東西格差が西に対する東側住民の反感に変わり、旧東ドイツ地域では極右政党への支持が集まる結果となった。
落とし物をどっちの警察へ届けるかという、ほのぼのした違いではない。

 

10月3日にドイツ人と話をしたときにそのへんの事情を聞いてみると、彼はこんな話をする。

「統一の日」は政治的には特別な日だから首相が演説したり、街中でコンサートが開かれると思う。
「思う」というのは、ボクは政治家の演説やイベントに興味がないから、そのへんのことがよく分からない。
統一の日といってもその日は友人と遊びに行ったり、ネットで映画を見て過ごすからただの休日と変わらない。
ただ東西が一つになったのは良いことだ。
もともと同じ住民が人工の壁で区切られて、敵対していたことがおかしかったのだから、以前のように同じ国に戻ったのは自然なことだし、あるべき姿に戻ったという感じ。
全体的には統一をポジティブに考えている人が多いけど、経済的にはまだまだデメリットのほうが大きい。
統一した直後、東は西に比べて3~40年ぐらい発展が遅れていたから、西ドイツがトンデモナイ額の金をつかって東地域の道路や橋、建物などをつくってインフラを整備し生活水準を引き上げてきた。
でも、まだ西側のレベルには達していない。
だからいまでは、西の人たちの間で東を「お荷物」に考えて下に見る傾向がある。
東の人もそんな空気は知っているし、なかには期待していた以上に発展しないことに不満やイラ立ちを感じる人もいて、東西で見えない対立がある。
ベルリンの壁が崩壊して30年が過ぎたいま、経済格差による西の優越感と東の劣等感という「心の壁」がドイツ社会にはあるから、今の世代はその解消をしていかないといけない。

 

ドイツに住んでいる日本人からも、彼と同じような話を聞いたことがある。
旧西ドイツ地域に住んでいる日本人がある日、ご近所で親しくしている人から、旧東ドイツ出身の事実を「カミングアウト」された。
西側に来て以来、何度も差別的な扱いを受けたから隠してきたけど、あなたは日本人だし問題なさそうだからと出自を打ち明けたという。
でも、ドイツ社会の闇に触れたその日本人は重い気持ちになった。

日本人に対しては「アウトサイダー」という安心感があるかもしれない。
仲の良い友人に東出身のドイツ人がいて、出身地をめぐってよく同僚にからかわれて屈辱を感じているから、いまはカネをためて、いつか東に戻ることを考えているという話を聞いて衝撃を受けた日本人もいた。
東西統一について西側出身の友人と話をしていると、やっぱり東を見下ろすような口調でウンザリしたという。

 

ちなみに10月3日は韓国では「開天節」だ。
紀元前2333年のこの日、檀君が古朝鮮を建国したという伝説があって、「開天節」という建国記念日になっている。
戦後、南北に分断されていまもそのままの朝鮮半島は、ベルリンの壁が存在していたころのドイツと同じ状態。
いまの経済格差を考えたら、もし統一したとしても、その後にはすさまじい巨大な心の壁が生まれそう。

 

 

噂はホント?現地日本人から見た、環境先進国ドイツの実態

ドイツ人に聞いた日本の話 ① 嫌いな食べ物・人や都市の違い

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

外国人から見た日本と日本人 15の言葉 「目次」

ヨーロッパ 目次 ③

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。