約2600年前にインドで王子として生まれ、何不自由なく育った仏陀(ブッダ)は青年になると城を飛び出して(出家)、過酷な断食修行を行った。
体中の肉がなくなり腹は大きくこみ、うつろな目をしているこの「断食するブッダ」を歴史教科書などで見たことある人も多いのでは?
写真ブレブレじゃねーか、というツッコミや批判は甘んじて受けようじゃないですか。
古代インドのガンダーラ美術を代表するこの作品「断食する仏陀」は、パキスタンの都市ラホールの博物館にある。
パキスタンというと、イスラム教を国教に定めているし世界最大のイスラム人口があるし、どーしてもイスラム教の印象が強いのだけど、歴史をひもとくと、それより先に仏教が伝わって特にガンダーラ地方で仏教文化が栄えていたのだ。
ここに行ったとき、現地の日本語ガイドが「あそこには絶対に行くべきです!」と強烈に推したのが、ガンダーラ(かその近く)にあったこの仏教遺跡。
ガイドの説明によると、目を閉じて座っている仏陀を下から支えているのはライオンとアトラスだ。
なるほどなるほど、アトラスアトラス…。
え?それって、ギリシャ神話に出てくるあのアトラスのこと?
ゼウスら神々との戦いに負けた巨人族(ティーターン神族)のアトラスは、天空を背負うという役目をゼウスによって命じられた。
わけわからんレベルの重さの天空を両腕と後頭部で支え、苦痛に耐えるアトラスは「支える者」、「耐える者」、「歯向かう者」を意味する。
天空(天球)を支えるアトラス
ギリシャ神話でアトラスが天空を永遠に支え続けるという、壮大な罰ゲームをさせられているのは知ってたけど、それがガンダーラ遺跡では仏陀を支えているという話は初耳だ。
このアトラスさんたちは、長年の風雨によって顔が削られている。
紀元前330年ごろ、西からアレキサンドロス大王がやって来たことがきっかけで、この地域にギリシャ文化が流入し、インドの仏教と融合してこんなガンダーラ美術が誕生したという。
そもそも初期の仏教ではシャカの像を作ることは禁止されていて、ギリシャの彫像文化に触れたことで初めて仏像が誕生したという説がある。
*北インドのマトゥーラ地方で初めて仏像がつくられたという説もあって、仏像の起源はガンダーラかマトゥーラかの論争に決着はついていない。
まあ日本にはどっちでもいいし、好きなだけ争うがいいサ。
アレキサンドロスが現在のパキスタンにまで到達できたのは紀元前333年の11月5日、つまり2354年前のきょう、イッソスの戦いでアケメネス朝(ペルシア)の軍隊を破ったことがデカい。
この前哨戦となる前334年のグラニコス川の戦いで、ペルシアの軍勢を倒したマケドニアの王アレキサンドロスはさらに東へ軍を進め、ついにペルシア王ダレイオス3世との直接対決となった。
騎兵やギリシャ傭兵(ファランクス)などで構成されたペルシア軍と、同じくファランクスや重装騎兵(ヘタイロイ)などからなるマケドニア軍がイッソス(トルコとシリアの国境近く)で対峙し、
「どぉ~りゃ~!」
ドゴォーーーン!
「ぐああああああ!!」
バゴッ!
「うぉぉぉー!」
「おりゃおりゃおりゃーあああああ!」
と激しくぶつかった結果、ペルシア軍が負けてダレイオス3世は敗走。
このあとダレイオスが「アレキサンドロスよ、あなたを強大で偉大な王であることを認めます。ペルシアの地はあなたが治め、わたしを家臣に加えてください。」と講和を申し出ると、アレキサンドロスもそれを受け入れて、以後、ダレイオスは彼の頼れる右腕となった。
…という少年ジャンプ的な展開になったら、ガンダーラ美術は生まれなかったはずだ。
この提案を一蹴したアレクサンドロスはさらに進軍し、前331年のガウガメラの戦いでダレイオス3世を再び撃破してアケメネス朝ペルシアを滅亡に追い込んだ。
このあとバビロンに入ったアレクサンドロスは「大王」を称することになる。
もはや向かうところ敵なし、無双状態となったアレクサンドロス大王はシリアやエジプトにまで勢力を広げ、さらに東へ遠征して現在のパキスタンにまで到達する。
ギリシャとインドの東西文化の融合を象徴する「仏陀を支えるアトラス」の背後には、イッソスの戦いやガウガメラの戦いなど、古代の伝説的な王による壮大で壮絶な戦いの歴史があった。
ライオンはエジプトのあたりのアフリカの影響だろう。
ガンダーラに近い、タキシラにある遺跡はギリシャ風のコリント式装飾が特徴的。
画像:Botev
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アレクサンドロス大王(アレキサンダー大王)は、世界史・東西交流史では必ず登場する超有名な人物です。
でも現在の日本では、その名前よりも、ペルシャ語・アラビア語の読み方である「イスカンダル」の方がはるかに有名ではないですかね。その名前はもちろん、1970年代アニメの影響です。