日独の迷信:不吉な“9”・音楽家が恐れた“第九の呪い”

 

ヘタしたら命にかかわるような、わりと重い病気になってしまって入院することになったとする。
で、病院で看護師か事務員から、「病室はこちらになります」と案内された部屋が「49」だったとしたら、「オイコラマテ」となるはず。
日本人の迷信や考え方では、「死」や「苦」に通じる4や9には不吉な予感しかないから、そうした「忌み数(いみかず)」はなるべく避けようとする。
まぁ病院で「49号室」なんてあるとは思わないけど。

英語版ウィキペディアの説明を見ると、外国に比べて日本人の迷信には、大部分が言語に関係しているという特徴がある。
その代表的な例が「シ(死)」や「ク(苦)」などの同音異義語。

A significant portion of Japanese superstition is related to language. Numbers and objects that have names that are homophones (Dōongo / Dōon Igigo (同音語 / 同音異義語, lit. “Like-Sound Utterance” / “Like-Sound Different-Meaning Utterance”)) for words such as “death” and “suffering” are typically considered unlucky.

Japanese superstitions

 

そんな「9」に関わる迷信について知人のドイツ人に話したら、ドイツが生んだ世界最高レベルの音楽家のこの人についても「9」に関わる迷信があるという。
ヒント:ジャジャジャジャーン!

 

 

彼はドイツの作曲家でピアニストで、聴覚を失っても偉大な曲を作り続けたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年 – 1827年)。
ワーグナー、ブラームス、ドヴォルザーク、チャイコフスキーなど世界的な音楽家にも影響を与えたもはや音楽の神。
そんなベートーヴェンの曲の中でも日本で最も有名なのは、年末になると全国各地で演奏される交響曲第9番、いわゆる「第九」でしょ。

 

 

ベートーヴェンがこの交響曲第9番を完成させると、交響曲第10番を完成する前に亡くなってしまった。
それから作曲家の間では交響曲第9番を作曲すると死ぬという、「第九の呪い」のウワサが流れる。
といっても、こんな説に合理的な根拠があるわけもなく、くだらない都市伝説でしかないと、少なくともマーラーは思わなかった。

グスタフ・マーラーが「第九の呪い」を恐れて、交響曲第8番の完成後次に取り掛かった交響曲を交響曲として認めず『大地の歌』と名づけたという逸話が知られている。

第九の呪い

 

『大地の歌』を完成させたマーラーはその後、交響曲第9番を作曲し、交響曲第10番に取り掛かると死んでしまった。
ドヴォルザークやグラズノフも9番を書き残したあとこの世を去る。
ほかにも「交響曲第9番」を作曲した前後で絶命した作曲家には、ブルックナー、ヴォーン・ウィリアムズ、シュニトケ、ヴェレスなどがいる。

知人の見方では、「第九の呪い」が生まれたのはベートーヴェンがあまりにも偉大だったから。
「交響曲第9番」のあたりで多くの音楽家が亡くなったのはただの偶然か、まさに運命だ。ベートーヴェンなだけに。
後世の音楽家がベートーヴェンとかいう音楽の巨人を過剰に意識したことで、こんな恐怖伝説が生まれたのだろうという。

 

日本で「九」が不吉な数字というのは同音異義によるもので、この迷信は中国や台湾など漢字文化圏に共通してある。
ただ日本の場合は、言葉にしたことが現実になるという言霊(ことだま)信仰の影響があるはず。
対してドイツの「第九の呪い」は、偉大なベートーヴェンの「自分を超える作品は作らせない」という怨念のせいでは。
作品を完成させると死ぬという、「第九の呪い」みたいな呪いは日本で聞いたことがない。
お城を完成させたあと、秘密を守るために建築に関わった人間が殺されるという、「大工の呪い」ならネット上に流布している。
やっぱり呪いにも文化の違いが表れている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。