IT強国とアナログ社会:日本に対する韓国の“上から目線”

 

10年ほど前、日本に来た韓国人は「東京は世界的な大都市なのに、Wi-Fiが通じないところ多すぎ!」という不満をよく言うと知人の韓国人から聞いた。
「でもその不満は、韓国はIT先進国だという自慢の裏返しなんです。“上から目線”ってやつですね」という知人の言葉が印象的でよくおぼえている。

日本のアナログっぷりを知ることで、自尊心が刺激されることはいまでもあるらしく、最近も朝鮮日報にそんな目線の記事が載っていた。(2021/11/28 05:33

21世紀の日本には「三種の神器」がある

日本の芸能人が結婚すると、所属事務所がメディアにファクスでそれを伝えるというのは、韓国人の感覚ではあり得ないし、ドラマの中でファクスが登場することにも違和感を感じるらしい。
まあ日本社会のアナログ体質には日本人でもあきれる人がいるし、「世界に見つかってしまった!」とネタにする人も多い。

だからそれを指摘するのはいいんだが、韓国メディアの記事を見るとどうも一方的で、「上から目線」なのが気になる。
きょねん東京都がコロナ患者の集計にファックスを使っていたことで、「確定患者の統計がめちゃくちゃになった-というのが端的な例だ」という。
言われてみれば、確かにそんなこともあったような?
でもあれは誤差の範囲内か小さなことで、いまでもそれを具体的に覚えている日本人なんてほとんどいないだろう。
「めちゃくちゃになった」は言い過ぎ。

「ファクス・印鑑・紙に執着」し、アナログシステムにこだわる日本にとって、その3つは21世紀の「三種の神器」だと朝鮮日報は表現する。
その具体例として、ことし6月に河野太郎大臣が「省庁内ファクス廃止」方針を発表すると、とたんに各省庁から反論が噴出してこの改革はストップしたこと、8月にはNHKが「どうして超ハイテクな日本人がFAXに執着するんだい?」という記事を伝えたことをあげる。

 

「アナログ日本、なぜ?」
「経済規模で世界第3位の先進国・日本で、なぜこんなことが起きるのだろうか。」

という疑問にイ・チャンミン教授が「まず日本人自身が、こうした状況は問題だと認識すらできなかったことが問題」と指摘してこう話す。

「日本人は閉鎖的で、内需市場に安住してガラパゴス化しており、専門家が指摘をしてもちゃんと受け入れようとしない傾向がある。」

それに日本人は『われわれは先進国』というプライドが非常に強い。でも、コロナのパンデミックが起こり、世界がQRコードを使って認識することなどを見て、「初めて世界との『デジタル格差』を実感するようになった」という。

(この場合の世界とは韓国のことだろうし、こういう見方や表現が「上から目線」に感じてしまうのですよ)

でも、『われわれは先進国』というプライドが非常に強いのは韓国人の方だろう。
自画自賛では意味がないから、先進国に韓国を称賛させるような報道はよくある。
たとえば中央日報のこの記事だ。(2020.05.21)

米国メディア「IT強国韓国、災難支援金支給方式も日本を先んじている」

 

また別の専門家は「最大の原因は停滞している経済」と分析する。
30年ほど前、本来ならアナログからデジタルに転換する時期に、日本政府は巨大トンネルや橋の建設プロジェクトにカネを使っていて、「デジタル関連インフラには神経を使う余力も関心もなかった」と述べ、専門家は韓国と比較してこう断じる。

「日本市場そのものが新たな会社の進入や創意、規制改革に弱い。人口は1億2000万人いても、スタートアップ企業(ベンチャー企業)やユニコーン企業(企業評価額の高い未上場のベンチャー企業)は韓国よりはるかに少ない」

別の専門家も日本をこき下ろす。
3~40年ほど前に登場した『先端機器』のファクスを使い続けるシステムが固定化されたことが問題で、いまの日本は「ファクスを代替する何かを掲げて参入する企業もなく、革新なしに文化そのものが停滞している」という。

 

どうもちょっとした表現に悪意が込められているような?
少なくとも敬意はない。

朝鮮日報が「どうして超ハイテクな日本人がFAXに執着するんだい?」というNHKの記事を見たら、「なんで日本はFAXなんだい?」(2021年8月2日)というタイトルでニュアンスがかなり違う。
「日本は2021年になってもFAXを使っているの!?」といった外国人の反応の一つに「どうして超ハイテクな~」があるだけで、これは記事全体の内容を表すものではない。

「日本人自身が、こうした状況は問題だと認識すらできなかった」や「日本人は閉鎖的で、専門家が指摘をしてもちゃんと受け入れようとしない」のように、日本についての韓国報道はどうも「上から下への」目線でなんかネガティブな表現が多い。

 

 

「革新なしに文化そのものが停滞している」と日本社会のアナログ体質をやゆする報道は、最近の中央日報でもあった。(2021.09.02)

【時視各角】日本の「止まってしまった30年」が教えてくれること

東京特派員として日本で生活していたこの韓国人記者からすると、日本人には「変化を先導してみようとする活力は見当たらない」。
6GやAIの時代になっても、まだファックスなしでは行政事務を進めることができないし、クレジットカード1枚発行してもらうにも基本的に1~2カ月はかかる。
ハンコを作って印鑑登録しなければならない世界唯一の国では、「頭が凝り固まってしまっているので新しい発想が生まれるわけがない」という。
この記者は「止まってしまった30年」の日本をこう書く。

一日2万人(人口2.5倍を考慮しても韓国の4~5倍)以上の感染者が出てきても国全体がそんなものだと自暴自棄になっている。危機対応能力? 「1(日本)対390(韓国)」で終わったアフガン避難作戦で如実に現れた。総体的な国力衰退だ。

 

「1(日本)対390(韓国)」というのは日韓へ輸送したアフガニスタンの避難民のこと。
この違いは、韓国の初動が早くて日本が遅かったこということもあるが、何といっても「運」だ。
カブール空港付近で大規模な爆破テロが起こる直前に、韓国は避難民をバスで空港まで運ぶことができけれど、日本はそのテロの後だったから、バスは空港に入ることができなかった。
韓国政府関係者は「天が味方した」と語る。

だから、これを日本の「総体的な国力衰退だ」とするのはおかしい。でもこう書いた方が、読者が喜ぶと思ったのだろう。
書き方が断定的で一方的すぎる。
日本にいる日本人で、「国全体がそんなものだと自暴自棄になっている」という見方に共感する人がいるとは思えない。
自暴自棄になった日本人の具体的な内容を知りたいわ。
韓国国民の中には、日本を「下」に見ようとする、またはそう見たいと思う気持ちがあるから、そんな期待に応えるために、メディアはよく「IT先進国の韓国」と「30年前のままのアナログ日本」を比較するのだろう。

でも同時に日本の実力を認めて、「やっぱりすごい」「日本は恐ろしい」と称賛する記事も韓国メディアは報道する。
韓国では日本に対して好きと嫌いの両極端な反応があるように、「変化を先導してみようとする活力は見当たらない」なんて軽視することがあれば、この中央日報の記事のように日本から学ぼうとすることもある。(2021.10.04)

1カ月間に感染者が10分の1に減少…「ウィズコロナ」で先を進む日本の秘訣

好き嫌いは激しいし、見下したり見上げたりと日本に対する韓国人の見方はとにかく流動的だし忙しい。
「でもその不満は、韓国はIT先進国だという自慢の裏返しなんです。“上から目線”ってやつですね」と知人の指摘はいまでもするどいと思う。

 

 

こちらの記事もどうぞ。

国 「目次」 ①

韓国 「目次」 ②

韓国 「目次」 ③

慎重で正確な日本人と「パリパリ(早く早く)」の韓国人

 

4 件のコメント

  • “世界で日本を最も無視する国は韓国で、韓国を最も高く評価する国は日本だ。”
    韓国のあるジャーナリストはあんな話をしました。

    考えてみれば、韓国人は本当に日本を軽視しています。
    世界で2、3位を争う経済能力、そして韓国では罪悪視することですが、一時、世界最強の米国に挑戦した東洋唯一の国家である日本を、韓国人はなぜこのように無視するのでしょうか。おそらくそれは誤った歴史教育の結果だと思われます。一般的に韓国人が考える日本は島に孤立し、文明の恩恵を全く受けることができずに生きてきた未開の民族ということになります。そのような間違った考えがそのまま残っているから、現在世界の最先進国の一つになった日本についてもまだまだ未開だと思うのではないかと思います。
    韓日両国が文字通り「未来に向かって」進んでいくためには、互いに正しい理解が先行されなければならないと思います。

  • <<<「アナログ日本、なぜ?」
    「経済規模で世界第3位の先進国・日本で、なぜこんなことが起きるのだろうか。」

    日本「じゃあ何で韓国はIT強国になったのですか?」

  • この点について鋭い論評を加えていたサイトがあります。
    http://rakukan.net/article/484583286.html

    要するに、情報インフラでも何でも社会基盤がいったん整備されてしまうと、それを覆すような新方式へ乗り換えるには相当のエネルギーと時間が必要、完全に置換が終わるまで併用で進むしかない、ということです。
    その「置換」ですが、一般の民間企業では(その置換が早急に必要であると当事者たちに考えられているので)とてつもないスピードで現在進んでいます。けれども、役所、学校、医療といった伝統的分野では、それに関わる当事者が必要性をあまり感じていないのでしょう、旧来的なFAXも多用されています。
    別に、当事者たちが不便を感じていないなら、無理に推し進める必要はないんじゃないですかね。でも、利用者側の不便に繋がったら困るけど。
    いくらデジタル化が進んでいようが、感染症の蔓延を抑え込めない医療システムなんか、無駄ですよ。

  • 上の匿名ですが、社会のデジタル化についてもう1点。
    デジタル化は、情報を扱う仕事(行政を含めた情報管理サービス業と一般企業の中間管理職・ホワイトカラー)の生産性を向上し効率化します。結果、その方面の就業人口には余剰が発生します。余剰とされた人員は、若者か高齢者かによらず、別の仕事を見つけなければ就業できません。

    したがってIT先進国の就業状況は下記のようなものになりがちなのです。
    「税金で適当な仕事を量産した結果か・・韓国、新規就業者の87%が50歳以上」
    https://sincereleeblog.com/2021/12/15/hatiwarisorotte-fukunjaa/
    行政府の政策立案能力が優れていないとこの問題はなかなか解決できません。
    日本人(特に高齢者)は、おそらく、そのことを肌感覚で分かっているのだと思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。