インディアンと人種差別問題:「人権<金」のアメリカ社会

 

時代が変われば意識も変わる。
すると意識に応じて、社会や環境も変化しないといけなくなる。
‥という単純なことでもないらしい、アメリカ社会は。

差別問題が深刻になっているアメリカでは、このところ人種に対する見方が大きく変わってきている。
たとえば「インディアン」は15世紀からこの地へやって来たヨーロッパ人が、先住民を「インド人」とカン違いしたことから生まれた呼称で、差別的なニュアンスがあるから、大リーグのクリーブランド・インディアンスはつい最近、チーム名を「ガーディアンズ」に変えた。
「インディアンス」に蔑視や差別の意識はなく、むしろ先住民への敬意や親しみが込められているとチーム側は主張するも、「ポリティカル・コレクトネス」という時代の勢いには勝てず。

 

画像:Roger H. Rangel

 

人種差別の指摘があった『ワフー酋長』のロゴはシンプルな『C』に変更された。
これがポリコレ。

 

 

インディアンスからガーディアンズへ変更した背景について、まえにアメリカ人から意見を聞いたことがある。

「移民大国のアメリカではいろいろな人種や民族、宗教を尊重し、互いに認め合うことが大事なんだね。でもアメリカでは、肌の色の違いに敏感すぎると思うこともある。」

なんてことをボクが言うと、「アメリカ人が人種の違いをどれだけ大事にしているのか、島国で生まれ育った日本人には分からないよ」と彼はため息をつく、かと思ったら、「いやいや、多様性の尊重も大切だけど、アメリカ人にとってカネはもっと重要だ」と言う。

「違う人種の人間にいきなり殴りかかるという暴力行為は完全アウトで、一切の擁護は不可能。でも、ずっと前から使われていた「インディアンス」のような名称はそうではない。あれは単に「儲かる/損する」という基準で名称を変更しただけだよ。」

そう話す彼は「レッドスキンズ」の例を持ち出す。

アメリカで最上位に位置するプロフットボールリーグであるNFL(National Football League)に所属する「ボストン・レッドスキンズ」は1933年からこのチーム名で活動していた。
でも「赤い肌」という単語には、昔から先住民を侮辱していると指摘する人がいて問題がなかったワケではない。
いまではそんなイメージは払拭されているけど、レッドスキンは「インディアンの生首」を意味していた時代もあって、ヨーロッパ人(白人)によるインディアン虐殺を象徴する言葉でもあった。

先住民の歴史や実態を無視して、白人が勝手にイメージした「インディアン像」に基づいて好き勝手にいじる。
そんなインディアン文化を破壊する行為には批判が絶えなかった。
イリノイ大学の教授は、インディアン・マスコットを使用する学校の問題点をこう話す。

大学対抗の試合前のキャンパス集会の間に、白人学生たちはしばしばインディアンの人形を絞首刑にしたり、火炙りにする。そして「下卑た悪魔」として、頭の皮を剥がれ首を斬り落とされたインディアンの姿がガラス窓に描かれる。

インディアン・マスコット

レッドスキンズが使っていたヘルメット
画像:Erik Drost

 

いろんな抗議や批判があっても、スポーツ球団が『ワフー酋長』や上の写真のようなインディアン・マスコットを使い続けた理由はこれ以上なくシンプルで、そのキャラクターグッズがよく売れたから。
知人のアメリカ人いわく、最も大事なことは経済効果で「我々がマスコットを使うのは侮辱や差別ではなく、先住民に対する敬意の表れだ!」とかなんとか、自分を正当化する理屈はいくらでも作ることができる。

そんなアメリカ社会の空気を一変させたのが、2020年に白人警官が黒人男性を殺害した事件だ。
このあと黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴えるBLM運動(ブラック・ライブズ・マター)が全米で盛り上がり、人種差別がアメリカ社会を破壊するガンのように敵視されるようになる。
そして「レッドスキンズ」もこの変化には対抗できず、チーム名を「ワシントン・フットボールチーム」へ変更した。

そんな流れだけしか知らないとボクのように、「アメリカではいろいろな人種の違いを尊重し、互いに認め合うことが大事なんだね」というお花畑のような脳みそになってしまう。
アメリカで生まれ育った知人の見方は別で、「いやあれは、スポンサー企業から圧力がかかったからだよ」と笑う。

調べてみると、確かに英BBCにこんなニュースがあり。(2020年7月4日)

NFL「レッドスキンズ」、チーム名変更を検討 差別的とスポンサーから圧力 

レッドスキンとは「肌の色で人を規定する、憎しみに満ちた人種差別的な表現」で人間性を奪う言葉ということから、いくつものスポンサー企業が名称変更を要求し、それに応じなければレッドスキンズとの関係を断つとチームに通達したという。
それと同時に、ナイキのウェブサイトではNFLの全32チームのうち、レッドスキンズの商品だけが削除された。
アマゾンやウォルマートなども、レッドスキンズの商品をオンラインサイトから消した。
そしてレッドスキンズのトップスポンサーであるフェデックスも、チーム名を廃止しなければ、本拠地スタジアムの命名権の約49億円を支払わないと迫る。

「あの名称は人種差別的だ!」という批判や抗議だけなら、これまでもあったことだから何とかなる。
「あれはむしろ先住民に対する名誉だ!」とか言って対抗できたけど、スポンサー企業からここまでの集中砲火、圧倒的な圧力をくらったら万事休す。
こうなると、レッドスキンズが名称を変更したのは時代や意識の変化という面もあるけれど、「最終的にはカネだ。収入と損益のバランスが決定的な基準になっている」という知人の指摘はきっと正しい。
だから名称を変更しても、首脳陣の頭の中は変わっていないと彼は言う。
時代が変われば意識も変わるけど、大きなものを動かすに money の要素が超重要になる。

「元気があれば何でもできる」というイノキ理論を借りると、「カネさえあれば大抵のことは可能になる」といえるほど、アメリカ社会では金がモノを言いそうだ。

 

 

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1 個のコメント

  • 「人権<金(カネ)」と言うか、「人権も金に換算できて、市場での評価・取引の対象になる」というのが欧米資本主義社会の本質なのでしょうね。金に換算できてこそ、資本、つまり利益を稼ぐための元手として活用できるのです。
    最近のヨーロッパでは、環境も金に換算できるようになって来たので「排出権取引」なんていう考えが広まってきているようですが。
    資本主義という名の「経済的宗教」をもって、将来的に人類は自分自身をうまく管理できますかね?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。